9-1 結婚に関するetc...

 スミレの御方こと、アベリル様からの求婚に驚いてしまいましたが、幼くとも結婚する王族というのは珍しくありませんので、納得は出来ますが、私自身どう思うかと言われると、戸惑ってしまいますね。

 全く存じ上げない方に嫁ぐよりはずっといいとわかっておりますけれども、この7歳の幼さで時間を止めるとなってしまうと、夫婦生活に色々問題があるのではないかと思うのです。

 それに、自分で言うのもなんですが、成長した私は神秘的で美しくありましたので、その姿を見ていただきたいとも思いますわ。


「18歳の私を待っていただけてから時間を止めていただけますでしょうか?」

「18歳?」

「ええ、このままでは夫婦生活にも支障が出ますでしょう?あと11年待っていただくことにはなってしまいますけれども、18歳にもなれば夫婦の夜の営みも子供を産むことも問題ないでしょうから」

「なるほど。しかし、魔術で体の成長を早めることもできる、それでは駄目か?」

「そのような魔術があるのですか、便利ですわね。けれども、私はゆっくりと成長したいのでご遠慮申し上げますわ。もっとも、旦那様になるアベリル様がどうしてもとおっしゃるのなら、やぶさかではございません」

「無理にとは言わない。領地の立て直しもあるし、11年は長いが待つこともまあいいだろう」

「ありがとうございますわ」


 ご理解のある方でよかったですわ。

 もう少しこのスローライフを楽しみたいと思っておりますもの。

 11年もすればきっともっと強くなって迷宮ダンジョンの2階ぐらいには行けるようになると思いますのよ。

 それに、結婚してしまったらここから出てしまうことになりますものね。

 アベリル様が嫌なわけではもちろんございませんが、もう少しこの生活を楽しみたいのですから仕方がありませんわね。

 私の隣に座って手を握ってくださる体温は私よりも冷たくはございますけれども、心が温かくなる気がいたします。これが心の交流というものかもしれません。

 それにしても、サーヴもロルフも先ほどから発言が少ないですね、遠慮しているのでしょうか?

 空気を読むというものかもしれませんわね。

 プロポーズの場で他者が口をはさむなんて色気がございませんものね。

 それにしても結婚となりますと色々と準備がありますわよね。11年の間にそれをそろえるといたしまして、後ほどサーヴと一緒に何が必要かリストアップする必要がございますわ。

 ウエディングドレスはどうしたしましょうか?成長しますし、それはあとでもいいでしょうか?

 ・・・そう考えると、必要なものはあまりないかもしれませんわね。家具などは揃っているでしょうし、それこそ身一つで嫁ぐというものなのかもしれませんわ。


「結婚指輪は俺が用意しよう。黒と銀の宝石をはめたものにしよう。耳飾りは・・・ふむ、一揃いの物のようだから諦めるとして、ほかに欲しいものはあるか?」

「今は思いつきませんわ。でも、ウエディングドレスは私が用意したいと思いますの」

「なるほど、18歳のグレタのウエディングドレス姿を楽しみにしておこう」

「自分で言うのもなんですけれども、きっと似合うと思いますのよ。アベリル様のお好きな色は何色でしょうか?」

「黒かな」

「ではウエディングソレスは黒にいたしますわ。たっぷりと刺しゅうを施して豪奢なものを用意いたします」

「ああ、楽しみだな。今の姿も美しいが、成長した姿はより一層美しいだろう」


 私は全体が白いですから、黒いドレスが栄えると思いますわ。

 水刺繍をたっぷりと施せば、ろうそくの光に照らされて赤やオレンジの光を反射して綺麗なものになるに違いがありませんわ。

 そのほかには、ヴェールも作らなくてはいけませんわね。

 レース編みも夢の中の知識にありますもの、きっと可能ですわ。私が出来なくともサーヴが出来ますから、教えてもらえばいいですわね。

 そう考えてると、不意にぎゅっと抱きしめられて膝の上にのせられて頬に口づけをされてしまいました。


「あの・・・」

「ごめんね急に、かわいくてつい」

「まあ、そうなのですか。ところでお聞きしたいのですが」

「なにかな?」

「どうして私を見初めてくださったのでしょうか?」

「一目ぼれだよ」

「そうなのですか?」

「ああ、あの時から胸に残っていたんだ、ずっとグレタのことを考えて、やっと魂の番だと気が付いたんだ」

「どうやって魂の番というのものはわかるのでしょうか?」

「魂が教えてくれる」


 魂が教えてくれる、というのは難しいですわね。

 私がずっとアベリル様を想っていたことと同じようなものなのでしょうか?私は初めてお花を頂いたということもありますが、アベリル様の美しさを忘れることが出来なかったのでございます。

 だからこそ今でもスミレが私の一番好き花でございます。地味と罵られても、それでもやはり好きであり続けたのでございます。

 抱きしめられて体のあちらこちらに確認するように触れられ、時折くすぐったいと感じましたが、我慢していると、手が唇に触れてフニフニと揉まれ、満足そうに手が離されてもう一度ぎゅっと抱きしめられました。


「はあ、かわいい。もう今すぐに食べたい」

「吸血鬼の食べるというのは血を吸うということでしょうか?」

「そういう意味じゃないけど、それでもいいかな」

「痛くしないでくださいませね?」


 そう言った瞬間、首筋に唇が寄せられてわずかにツプリと音がして痛みが走りましたが、思ったよりも痛くはありませんわね。

 コクコクとアベリル様の喉が動いて、私の血が吸われていくのがわかります。

 あまり吸われてしまうと貧血になってしまいますので、加減てくださると助かるのですが、どうでしょうか?

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