8-3 (ロルフ)

 女を口説くということは、どれほど難しいものなのか、ここの所俺は実感させられまくっている。

 特に二人っきりになれないというのが最大のネックだろう。

 サーヴがお嬢様のことを大切にしているのはわかるが、二人同時に傍を離れるのが寝る寸前というのはあんまりじゃないだろうか。

 話しをする暇すら与えられずに別れて次に会うときはお嬢様を入れた3人での朝食の席だ。

 生活空間にしている小部屋にお嬢様を残して二人でモンスターを狩りに行こうと提案したこともあったが、ふざけるなと逆に怒られてしまった。

 もともとが護衛として雇われているから、離れることを想定しないのは仕方ないことなのかもしれないが、怒るほどのものではないと思う。もっとも、それだけお嬢様のことが大切なんだろう。

 主人として、妹のようにかわいがっているともいえるが、過保護になりすぎな面もある。

 お嬢様は思っているよりも大人だし、対応能力だってあるのだから数時間一人にしても別に何もないと思うんだが、サーヴには許せないことみたいだ。

 自分の人生の半分程度しか生きていない娘っ子に何をこんなに苦労しているのかと、自分でも情けなくなるが、お嬢様に親身になって世話をしている姿にいつの間にか惚れ込んでしまったのだから仕方がない。

 まあそのお嬢様だが、どうやら俺の気持ちに気が付いているのか、別の考えがあるのか俺を応援してくれてるようなんだが、どうもサーヴにはそれが気に入らないみたいなんだよな。

 サーヴの意見よりも俺の意見を応援することに対する嫉妬みたいな感じか?

 まあよくわからないが、とにかく後から入って来た俺にお嬢様を取られたように感じているらしい。随分な勘違いだ。

 お嬢様はサーヴを誰よりも信頼しているし、尊敬もしていると思う。

 二人で話すときもサーヴの話題がほとんどだし、心の底から好いているのだと短期間でわかるほどだ。

 サーヴと二人っきりになれるわずかな時間は全くないわけではないが、話しの内容はすべてお嬢様に関することだ。自分がいないときのお嬢様の様子とか何を話したかとかを聞いてくる。

 まったくもってお嬢様のことを好きすぎるだろう。

 相思相愛で何よりだが、俺の入り込む余地がないのは問題だよな。


「そんなわけで、どうにかしたいんだよ」

「そう申されましても、私がロルフの方を持つとサーヴの機嫌が悪くなってしまうのでございましょう?でしたら下手なことはしない方がよいのではないでしょうか?」

「そうなんだけどなあ」

「夜に時間を取ってもらうというのはいかがですか?私はいつもよりも早く寝るということにして」

「それなあ、考えたし実行したけど話題はお嬢様のことばっかりだったんだよ」

「あー・・・、お気の毒としかいえませんわね」


 状況を打開するためにサーヴが王都に行っている間にお嬢様に相談してみたが、あまり芳しい結果はでなさそうだな。

 そもそも18歳までの記憶を夢の中で見たっていう6歳、・・・いや7歳になったんだったか?まあ、そんな子供に真剣に30歳にもなるオヤジが何を相談してるんだって話しだよな。

 はたから見たら滑稽な光景だよなあ。

 わかってるけど他に方法がわからないってのが救いがない。


「同情されなくないと言いたいが、同情してくれ。16歳の小娘に惚れ込んだオヤジの情けなさに盛大に同情して協力してくれ」

「・・・えっと、ご同情申し上げます?」


 そう言って首をかしげるお嬢様は、身贔屓なしにしてもかわいい。

 一見病弱に見える肌だって、陶磁器のように艶やけで滑らかだ。銀の目で見つめられると心の中を見透かされているような気さえしてしまう。

 白銀の髪は触らせてもらったことがあるが絹糸のように滑らかで柔らかく、サラサラと手から零れ落ちていった。

 血のように赤い唇だって、年に似合わない蠱惑的な印象を相手に与えるし、その唇が笑みの形に作られればこちらが嬉しくなってしまうほどだ。

 老若男女問わず、お嬢様の容姿には惹かれてしまうだろう。

 ここの所王都に行けてないせいか、サーヴは馴染みの冒険者や貴族関係者にお嬢様のことを聞かれることが多いらしい。

 第四王女様の失踪に対する捜索の厳しさのせいで王都に行けないのだから仕方がないが、お嬢様も焼きたての串焼きを食べたいと残念がっている。

 お土産で買ってきてはいるが、冷めたものを温め直すのと、その場で焼かれたものを食べるのとでは味はそんなに変わらなくても、気分がちがうもんな。

 そんなことよりも俺の恋愛事情の話しなんだよなあ。


「お嬢様を好きすぎるサーヴが悪いのかもしれないけどさぁ、もうちょっと俺の方に目を向けてくれてもいいと思うわけなんだよ」

「そうですわねえ」

「だからといって話題と言えばお嬢様の事だろう?お嬢様を責める気はないけど、なんかこう・・・モヤっとする」

「マリオンお兄様が来ればお兄様と二人になりたいと言って二人に席を外させることはできますでしょうけど、いついらっしゃるかはわかりませんものねえ」

「あーでもほら、誕生日ってのを迎えたんだろう?お祝いに来るかもしれないぞ」

「なるほど、毎年マリオンお兄様からはプレゼントを頂いておりましたし、可能性はございますわね」


 その時にいっそ単刀直入に好きだと告白してみるのもいいかもしれないが、鼻で笑われそうな気がするんだよな。

 なんせこんなオヤジだしなあ、俺。魔族の血が入ってるせいで若く見えるけどそれで16歳の娘っ子から見えればオヤジだよなあ。

 はあ、いい年したオヤジが本当になにをやってるんだか・・・。

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