7-2
「魔王の復活、ですか?」
「そのような噂が広まっております。死んだと思われていた吸血鬼の魔王が復活したと」
「そうなのですか」
夢の中ではそのような噂は聞いた覚えがございませんけれども、私の知らないところではあったのかもしれませんわね。
それにしても、吸血鬼となりますとロルフにも関係するのでしょうか?
先ほどからわずかに顔色が悪いと申しますか、いたたまれない様子でいるというか、なんだかいつもと違う様子ですので、もしかしたら知り合いなのかもしれません。
魔王の復活となれば、冒険者たちが活気づくのも納得というものでございますし、そちらに目が向けばこの迷宮ダンジョンに来る冒険者の数も減るというものです。
それはつまり、多少はしゃいでしまってもバレる確率が少ないということでございますね。
ただ、いまだに1階の探索をしている私でございますので、特に何かをするというわけではないのですが、地図を作っているうちに、妙に間の空いている場所があるところがございまして、その部分にもしかしたら隠し部屋があるのではないかと、少し岩壁を削って確かめてみようと考えております。
もっとも、モンスターハウスと言われる、モンスターの生まれる場所の可能性もありますので、一人で行くような無謀な真似は出来ませんわよね。
サーヴとロルフにはまだ言っておりませんがいずれ話してみようと思います。
隠し部屋を見つけるのは冒険者にとってはステータスの一種でございますので、サーヴにはちょうどいいと思いますし、冒険者でない私も面白そうなので是非探してみたいと思っております。
話しはそれましたが、魔王でございますよね。
聞けば特に何かをするような魔王ではないということで、魔王上の周囲の魔物、これはダンジョンのモンスターとは違うものでございますが、魔物が活発化してしまうのでその討伐に忙しくなるということなのです。
とはいえ、サーヴは私のお付きでございますので、遠出することはございませんが、何かあれば冒険者ギルドからお呼びがかかる可能性があるのだとかで、幾人かの冒険者さんから注意を受けたそうでございます。
「吸血鬼の魔王ってのは俺の親父なわけだけど、生きてたかー」
「あら、そうなのですか」
高位の魔族の親だとは聞いておりましたが、魔王クラスだとは思っておりませんでしたわね。
なるほど、そのような血筋であれば、夢の中のような革命の主導者となるカリスマを兼ね備えていても、不思議ではございませんわね。
「反応薄いなあ」
「驚いてはおりますわよ?でも、ロルフは私の従者というか奴隷ですので、親元に戻るわけにもいきませんでしょう?」
「そうだなあ」
「では特に影響はないのではないでしょうか?」
ああ、でもマリウスお兄様が面白がって接触しに行く可能性はありますわね。吸血鬼の魔王と言えば怠惰と堕落の象徴でありながら、酷く美しく妖艶で蠱惑的な男性だと聞いた覚えがありますもの。
反転させれば我が国の王侯貴族からそれらを奪い取ることが出来ると、そう考えてもおかしくはございませんものね。
与えられるということは奪えることもできるということですもの。
マリウスお兄様はおっしゃったように、国王陛下であるお父様に出奔を宣言して王位継承権を返上し、一市民となって冒険者として活動をしております。
私のように家出ではなく、正式な手続きを取っての出奔ですので特に隠れる必要がないとのことですので、少し羨ましく思えますわね。
あのお父様がマリウスお兄様の出奔を認めるとは思いませんでしたけれども、ほかにも王子王女はいるのですから、お父様もあまり気にしていない・・・いいえ、むしろ王族の中では真面目なマリウスお兄様を疎ましがっていたのかもしれません。
そうであれば、王位継承権の放棄と出奔というのはあっさりと認めてもおかしくはないのでしょう。
マリオンお兄様のお母様は私のお母様と同様に、既に亡くなっていらっしゃいます。幼少期から優秀な教育者を付けられたと聞いていますので、よくよく考えますと母親が健在な王子王女の腐敗具合を考えますと、下手に母親がいる方が悪影響を与えてしまう可能性があるのではないでしょうか?
普通の親は子供が何か悪いことをすると諫めると聞きますが、後宮の女性は皆さまそのような事はなさりませんし、王子をお持ちの女性は自分の子供を王位につけたいと、裏でそれはそれは恐ろしい足の引っ張り合いをしておりますものね。
そのような母親に育てられたのでは、善い影響は受けないでしょう。
なるほど、夢の中で怠惰であった私もどうかとは思いますが悪人ではございませんでしたし、母親がいないというのは悪いことではないのかもしれません。
「心配というのならマリオンお兄様ですわね。下手に面白がらなければよろしいのですけれど」
「マリオン様でしたら、既に楽しそうに吸血鬼の魔王が治める地に向かったと聞き及んでおります」
手遅れでございましたわね。
「そうなのですか、無茶をなさらないとよろしいのですけれども。吸血鬼の魔王というのはどのような方なのですか?怠惰と堕落の象徴というのは聞き及んでおりますけれど」
「そのまんま。でも案外厳しいな、独自のルールがあるんだよあの男には。それに違反さえしなければ何をしようと自由、でも違反すれば容赦はしないって感じ」
「独自のルールとは?」
「わっかんねー」
「役に立ちませんね」
「サーヴ、本当のことでも言ってはいけないことがありますのよ」
「お嬢様もひどいことを言ってるぞ」
「失礼いたしました。けれど、遠い地での話ですし、私としてはやはりこの国の行く末以上に気にかかるものではございませんわ」
対岸の火事とも申しますように、身に火の粉が降りかからないのでしたら実感のわきようがありませんわ。
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