6-1 お兄様との再会
「銀のお嬢様のお住まいはここかな?」
そう言って現れたのは、フードを深くかぶりマスクをつけた男性でした。そしてその声は私も知る人の物で、私は現れたその男性を思わず凝視してしまったのは仕方がないと思います。
その方は私の一番上の兄であり、兄弟姉妹の中では一番まともな思考回路を持った人で、革命の前に兄弟によって暗殺される運命を持った方です。
この兄の死が革命のきっかけになったともいえるのかもしれません。
「マリオンお兄様、どうしてこのようなところをにいらっしゃいましたの?私を探し出して連れ戻すおつもりなのでしょうか?」
「銀のお嬢様は王女じゃないからなあ、それは無理だが、個人的に銀のお嬢様に興味があってきてみたんだ」
「マリオンお兄様、銀のお嬢様と呼ばなくても結構ですわよ、グレタと以前のようにお呼びになってくださいませ」
「だめだ。グレタは王女の名前だからな、銀のお嬢様で十分だろう。それとも他の名前を考えるか?」
「困ったお兄様ですわね」
白銀とは言えないまでも灰色の髪に銀色の眼を持つマリオンお兄様は、王太子になると言われている方でいらっしゃいますが、だからこそ命を狙われたのでございましょう。
サーヴたちはマリオンお兄様にお茶をお出しして壁際に下がってしまっていますし、新しく購入したソファに向かい合って座って、こうしてお話ししたのはもしかして初めてかもしれません。
「グレタ王女はなあ、バレないと思っていたんだろうが色々金庫の物を盗み出して挙句の果てに出奔してしまった困り者でなあ、私が色々と盗まれたものをごまかすのに奔走したことも知らずに、暢気に暮らしているかもしれないそうなんだ」
「あら、まあ・・・」
それは随分ご迷惑をおかけしてしまったようですわね。金庫の物を盗み出したのがばれているとは思いませんでしたけれども、マリオンお兄様が誤魔化してくださっていたのですわね。
これは感謝すべきことですし、何かお返しをしなければいけませんわ。
「マリオンお兄様、私に何かできる事はございますかしら?」
「ある」
「そうなのですか」
「お前、銀のお嬢様は記憶もちだろう?どの記憶がある?」
「・・・どうしてそう思いますの?」
「行動がおかしいだろう。6歳の子供がこんなことをしでかすはずがないだろう。記憶があるとしか思えない。ちなみに、私は3回分の記憶がある」
「え!?」
「一度目は、王太子に決まったその日に暗殺された、すぐ下の弟にな。二度目は王太子にはなったが、国王には向かった罰として暗殺された。三度目は王太子になって少しして毒殺された」
「私の記憶は、マリオンお兄様が暗殺された後に平民によって革命が起き、王侯貴族のすべてが斬首されたところまでですわ。ギロチンというものを体験いたしました」
「そう・・・か」
マリオンお兄様は何か思うことがあったのか、悲しそうに目を伏せるとそのままカップに手を伸ばして、手に取ると口元に持って行く。
「銀のお嬢様、どうして逃げたんだ?」
「死にたくないからですわ」
「それだけか?」
「他に何かございますか?革命を阻止するなんて大それた目標もございません。腐った王族を矯正する気力もございませんの」
「私は、それをしなければいけないのだろうな。流石に4度目の暗殺は阻止したい」
「つまり?」
「私も逃げようと思う」
「はい?」
「灰の麗人とはこの私のことだ」
「存じません」
そっけなく返した私に、マリオンお兄様はがっくりとした様子で首をかしげたが、その後少し笑って冒険者として少し前から活躍してるのだと教えてくださいました。
髪の色から灰の麗人と言われているとのことです。
この国にはいくつものダンジョンがございますし、冒険者も多く訪れますので、その方々に話しを付けて国を変えようとなさっているとのことです。
確かに冒険者の意見を完全に無視することは国として無理な事でございますので、マリオンお兄様の考えは間違ってはおりませんけれども、暗殺に関してはどうなさるおつもりなのでしょうか?
逃げるということですので、このまま冒険者として暮らしていくということなのでしょうか。
お城から逃げ出せば確かに暗殺の危険は減りますけれども、私の出奔以上に大騒ぎになってしまうのではないでしょうか?
なんといっても次期王太子といわれているかたでいらっしゃいますもの。
それにしても、改装したこの部屋にいらっしゃった最初のお客様が、マリオンお兄様とは思いもよりませんでした。
改装した後でようございましたわね。
以前の状態でしたらベッドに座って頂く羽目になってしまってましたものね。
「お前の話しだと革命が起きるのは私の死がきっかけの一つのようだし、私も逃げ出してしまったほうがいい方向に向かう気がするんだ」
「そうですわねえ」
「冒険者をまとめ上げてこの私が革命の主導者になれば、王侯貴族全員処刑などということにはならないだろうし」
「なるほど」
多少の犠牲は出るのでしょうけれども、全員処刑ということは避けられるかもしれませんわね。
ロルフはこのままでは革命を起こすようにはならないでしょうし、その代わりにマリオンお兄様が革命の首謀者になることになるということなのでしょうか?
革命が起きること自体は避けられないことなのでございましょうね。
やはり私はここで引きこもっているのが一番でございますわね、外の厄介ごとに巻き込まれることなく、モンスターを倒してのんびりと。
「銀のお嬢様にもいろいろ手伝ってもらおうと思うから、よろしく頼んだよ」
「え?」
なんだか今おかしなことを言われてしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます