5-3 (ロルフ)

 俺は魔族と人間の女との間に生まれた忌み子だ。それでも幼い時は父親の下で養育されていたが、その父親が死んだ途端に屋敷を追い出されて奴隷に身を落とされた。

 今考えれば、父親以外は俺をよく思ってはいなかったんだろう。そもそもが気まぐれに手を付けた女がたまたま生んでしまった子供だからな。

 ここまで成長できたことが奇跡と思えるような、偶然の産物ってわけだ。

 そして俺は奴隷になって、吸血鬼との混血児ということで高値で取引をされた。

 俺を最初に買った貴族は、吸血鬼の血を飲めば永遠の若さを手に入れることが出来るとかいう迷信を、本気で信じているような馬鹿で、俺は定期的に血を抜かれて飼育されていた。

 いい血を作るためなのか、食事を粗末なものにされたりすることはなかったが、頑丈な体だからか、うっぷんを晴らすために暴力は良く振るわれた。

 その時に流れた血をなめとられた時は鳥肌が立ったし、いつか必ずあの貴族を殺してやると誓ったものだ。

 そして時がたち、その悲願は達成された。俺がすっかり従順になったと油断した貴族は、血を抜いて飲むときに無防備に俺の前に姿を現した。

 隠し持っていた包丁でその貴族を刺殺し、四肢をちぎり、俺は殺人犯になった。

 本来なら俺は処刑されるはずだったのに、その貴族が元々処分される予定があった貴族だったからと、忌み子を処刑して何か災いがあったら困るという理由から、俺はまた奴隷に戻された。

 そうして次に俺を買ったのはほんの6歳の女の子。

 貴族のお嬢様かと思ったら、家出した王族の姫様と聞いた時は馬鹿な真似をする娘だと思ったが、この国の貴族王族は腐っているから、まともな思考をしていれば逃げたくなるのも仕方がないのかもしれない。

 それに、お付きのメイドのサーヴへの信頼もあったんだろう。よく仕えてると傍から見てもわかる。

 メイドとしての能力もだが、戦闘能力も高い。自分が考えてるよりも価値がある存在だと思う。

 その点に関してだけは国王の判断が正しかったんだと言わざるを得ない。

 冷たい印象を与える薄いブロンドと水色の目だが、俺は好きだと感じている。主と比べているせいで自分は普通だと言っているが、普通に美人だし、こうして一緒に王都の街を歩いているとわかるが、人目を引いているし、声をかけてくる奴は男が多い。

 貴族の出ということもあってそれなりにつてもあるそうだし、主の生活にサーヴは欠かせない存在なんだろう。


「なあ、そろそろどっちがいいか決めてくれよ」

「そうはいっても、どちらのソファも捨てがたく・・・こちらは肌触りがよろしいですし、けれどもあちらはグレタ様のお好きなお色ですし・・・」


 棚なんかはあっさり決めたくせに、ソファに関してはこうして30分ぐらい悩んでいる。俺から見ればどっちでもいいんだが、こだわりがあるらしい。


「いっそ両方買えばいいじゃないか」


 やけになってそう言えば、サーヴは目を瞬かせて驚いた顔をした後にパっと笑顔を浮かべた。


「そうですね、そうしましょう」


 嬉しそうに店主に支払いをして俺の空間魔術にしまい込む姿は本当に嬉しそうで、見ていてる方が嬉しくなるような笑顔だった。

 その後は一緒に植木屋を見て回ることになっている。陽の当たらない場所でも育つもの、という条件になると大分絞られるが、それでもそれなりの種類があるし季節によっても変わるらしい。


「薔薇など四季咲きのものや常緑のものがよろしいでしょう」

「そうだなあ」

「お嬢様はスミレがお好きなのですが、この時期は枯れてしまいますし、悩みどころですね」

「そうだなあ」

「・・・興味がないのなら外で待っていても構いませんよ?」

「いや、一応一緒にいる。興味がないというわけじゃなくて、まったくわからないんだ」

「そうですか」


 草花を愛でる生活なんてしてこなかったからな。幼い時は父親が育てていた花を見ていた時期もあったが。


「・・・そういえば、四季咲きのスミレがあるぞ」

「え?」

「幼いとき親のところで見た」

「本当ですか!?店主さん、そのようなものがあるのですか?」

「あるにはありますがここでは扱ってません。王都で一番の植木屋のところでならあると思いますが、お高いですよ」

「かまいません」


 言うが早いか、既に決めていたものの会計を済ませてサーヴは俺の腕を取って王都一の植木屋へ向かって行った。

 王都一の植木屋というのは、屋敷が一件丸々店となっているようで、庭も商品の見本となっているらしい。

 そこの店員に四季咲きのすみれがあるか尋ねたとところ、一株だけあるということだが、金貨10枚だと言われて俺は思わずめまいがしそうになった。

 しかし、サーヴは迷うことなく金貨10枚を渡してその四季咲きのスミレを大事そうに受け取ると、満面の笑みで俺を振り返った。


「これをお嬢様が見たらきっと喜びます。教えてくださってありがとうございます」

「いや、別に・・・」


 そんな嬉しそうに言われるほどの事じゃないのに、なんかこっちが照れちまうな。


「えっと、主はなんでスミレが好きなんだ?」

「なんでも初めていただいた花がスミレだったそうなんです。私がお嬢様に仕える前の話しですので、4歳の時だそうですが、今でも大切な思い出だとおっしゃっておいででした」

「4歳かあ。誰に貰ったんだ?」

「漆黒の髪に漆黒の目、蒼白い肌に青紫の唇の魔族の方だったそうです」

「・・・へえ?」


 いろいろツッコミたいが、なんで魔族が4歳の王女のところに現れるんだ?そんでなんでスミレなんてプレゼントするんだ?

 そして何よりもその容姿は俺の父親にも当てはまるんだが、死んだはずだし違うよな?

 違うとはおもうが、なんだろうなこの漠然とした不安感は。

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