5-2 (サーヴ)

 グレタ様をお一人残して王都に行くのはとても不安ですが、ご命令と言われてしまえば、従うのがメイドの務めでございますし、グレタ様は実際強くございますので問題がないことはわかっているのですが、やはり6歳の子供を残していくというのは心配でなりません。

 これが親心というものなのでしょうか?


「はあ」

「そんなに主が大事なのかよ」

「当然です。大事無いのは解っておりますが、お一人で寂しい思いをなさっていないかと・・・」

「そんなやわじゃないだろう。今頃楽しく改築の図面でも書いて遊んでるだろ」

「言われなくてもわかっております。でも心配なのは心配なのですから仕方がございませんでしょう。それにしても、その言葉遣いはいつになったら直るのですか」

「こっちが普通。主だって人前じゃこんな喋り方だろう。サーヴが直せよ」

「無理です」

「あっそ」


 グレタ様がお選びになった奴隷のロルフに文句を言うつもりはございませんが、もう少し粗暴さを控えていただきたいものでございますね。

 グレタ様に悪影響でもあったら困ってしまいます。

 王都につけば門番に身分証を見せて中に入ることになっておりますが、グレタ様の失踪せいで日に日に警備が厳しくなっているように感じますね。

 賄賂も通じにくくなっていると冒険者の方が言っておりましたし、国王陛下もグレタ様の失踪は重大事項ととらえていらっしゃるのでしょう。

 古の王族の色をすべて持って生まれたグレタ様は本人が考えている以上に、価値がある存在でいらっしゃいますので、それも仕方がないことなのかとは思いますが、それならばどうしてもっとちゃんと扱わなかったのかと、今更ながらに呆れてしまいます。

 グレタ様に行われた他の王子王女、正妃や側妃からの嫌がらせは稚拙ながらも陰湿なものでございました。

 ご本人が気にしていないからすぐに終わりますが、思い出したかのようにまた繰り返されておりましたし、王族の質が問われるというものでございますね。

 もっともそのような王族ですので、グレタ様が夢で見た未来が現実として起こりうるのだと私も納得したのでございます。

 それにしても、革命軍はグレタ様の首を落とすなどという暴挙に出た事だけは許すことが出来ません。

 数百年ぶりに生まれた古の色をすべて持った方だというのに、ほかの王族と同じように扱うなんて、あってはならないことです。


「・・・ら、行こうぜ」

「え?」


 考え事をしていたせいか聞き逃してしまいました。


「だから、まずは大物の棚から見に行こうぜって」

「そうですね」


 この男、グレタ様はおっしゃいませんけれども魔族の血を引いているというだけでも珍しいというのに、強い力を持っている貴重な存在ですが、どうも引っ掛かりを覚えてしまうのですよね。

 一緒にいると不安に駆られるというか、ソワソワしてしまうというか・・・。

 グレタ様が夢の中で語った革命軍のリーダーの男と特徴が一致しているからかもしれません。

 ロルフと一緒に家具店に入るとオーダーメイドではない既製品があるエリアを見て回ります。大量の本を入れる本棚や、服をしまうためのクローゼット、ほかにもこまごまとしたものをしまう棚など、見るものはたくさんございます。


「やあやあサーヴ嬢!今日は男の連れでお出かけかい」

「まあ、グレイズ男爵様ごきげんよう」


 グレイズ男爵は冒険者をなさっている方でもあり、気さくな方で、グレタ様のこともうすうす感づいていらっしゃるのですが、口をつぐんでくださっている良い方でいらっしゃいます。

 実はほかにも何人かグレタ様のことを気が付いている方はいらっしゃるのですが、あんな王族ですから逃げ出したくもなると思ってくださっているのか、庇ってくださっております。

 報奨金が出ていても、それが本当に払われるかわからない、そんな風に信頼のない王族ですから仕方がありませんわね。

 それに気が付いているのは冒険者をなさっている方ばかりですので、自分で生活できる方ばかりなのも影響しているのでしょう。


「銀のお嬢様はお変わりないかい?」

「はい、お元気でいらっしゃいます」


 銀のお嬢様はグレタ様のあだ名のような物でございます。正体に気づいていても名前を呼ぶわけには参りませんのでそう呼ばれていたら、いつの間にかそれが通称になってしまったのでございます。


「そうだ、東通りの3番街の2番裏道に薬屋がオープンしたんだが、いい回復薬を扱っている。土産に買って行ったらどうかな」

「まあ、親切にありがとうございます」

「銀のお嬢様によろしく。では」


 そう言って立ち去って行ったグレイズ男爵様に会釈して今日の予定を組み替え直しました。


「仲がいいのか?」

「え?」

「今の男と仲がよさそうだった」

「普通でございますよ。冒険者の仲間として社交をかかしていないだけです」

「ふーん」


 ロルフは何か気に入らないような顔をして、グレイス男爵のいなくなった方を見ましたが、何かあったのでしょうか?


「まあいいや。まずは家具屋だろう、ほらいこうぜ」

「そうですね」


 予定通り家具屋に行って棚をいくつか購入してロルフの空間魔術にしまい込んでいきます。グレタ様ほどの収納量はないそうなのですが、このぐらいは平気なのだそうです。

 グレタ様といいロルフといい、魔力の多いお2人の前では私の魔力など、一般的な量から少し多い程度ですので情けなくなってしまいますね。

 さて、早く買い物を済ませてグレタ様のところに戻らなくては。大人しくなさっているというお約束でしたが、改築の構想を終えて暇になってしまったら、何をしでかすか分かったものではありませんものね。

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