5-1 一人でお留守番

 住処にしている小部屋が少し手狭になったことと、インテリアに少しこだわりたいと思ったので、お部屋を拡張することにいたしました。

 これは魔法の練習も兼ねておりますのよ。

 風の魔法を渦巻きのように回転させて、壁を少しずつ削っていくのです。時間はかかりますが、削り取った岩などはロルフが魔術で土に加工してくださいますのよ。

 植物を置いただけで空間が華やかになりましたので、もっと植物や花を置いたら素敵な空間になると思いますわ。

 そういえば、私はここの所、といっても数か月ですが迷宮ダンジョンの外には出ていないんです。

 失踪した王女探しが本格化してしまって、賄賂も効かなくなりそうだとサーヴが言ったので、念のため隠れております。

 ダンジョンの中でお会いする冒険者さんたちは、まさか王女がこんな場所に潜伏していると思っていないからか、今までと変わらない態度で接してくださいますし、たまに王都のお土産だと言って人形やおもちゃを下さることもありますのよ。

 皆様気のいい方ばかりで大変うれしく思います。もっとも、私の作り話の境遇に同情していらっしゃるのでしょうけど、それはそれですわよね。


「それにしても、風の魔法で削るのはいいのですけれども、どうしても形がいびつになってしまいますわね。土の魔法の適性があればもっとよく出来たのでしょうけれども」

「俺が魔術でやってもいいが、やったことがないからどうなるかわからないしなあ」

「グレタ様の魔法の修練と思えばよろしいかと存じます」

「そうですわよねえ。最近ではコツも掴んできましたし」


 話しながら風の魔法で壁を削っていくと、ビキっとひびが入る音がしました。


「あら?」

「あ?」

「グレタ様、お下がりください」


 どこかに通じてしまったのでしょうか?地図上ではこの先は何もない壁の空間のはずなのですけれども。

 ビキビキと亀裂が広がっていき、壁一面に亀裂が走ったかと思うと、ガラガラと音を立てて崩れてしまいました。

 やはりどこかの通路か小部屋に通じてしまったようです。


「ロルフ、偵察をしてきなさい」

「へいへい」


 真っ先に私が行こうとしたのですが、サーヴにしっかりとつかまれていくことが出来ませんでした。残念ですわね。

 ロルフは瓦礫になったものを土に変えながら、空間の中に入っていきました。


「通路でしょうか?」

「地図の上では通路はないはずです。この周辺はくまなく探索しておりますので、あるとすれば隠し部屋でございますね」

「そう。この鎧ドレスがあった部屋みたいなところなのかしら?」

「可能性はございます」


 そんな話をしていると、ロルフが戻ってきました。


「少し温いが温泉がある空間だ。他には何もない」

「温泉といいますと、お風呂のような物ですわね。それは素敵ですわ」


 そうなりますと既存のお風呂の空間はどうしましょうか?

 せっかく掘ったのですし何かに使いたいところですわよね。


「安全性はどうですか?」

「問題ない。むしろ閉鎖された空間だ」

「ではグレタ様、見に行ってもよろしゅうございますよ」

「はーい」


 お許しが出たので早速新しい空間の探索ですわ。

 と思っておりましたが、ロルフの言うように温泉の湧き出る場所以外は何もないただの空間でございました。

 もっとも、元々の小部屋と合わせれば規模は今までの倍以上になりますので、改装のし甲斐があるというものでございますわね。


「仕切りをたくさん買って区切ったり、本棚を置いたり、ソファを置いたり、植物を置いたりと楽しみが増えますわね」

「グレタ様はお買い物には行けませんが・・・」

「ロルフは空間魔術が使えますでしょう?お買い物に一緒に行けばいいのではないかしら?」

「グレタ様をお一人にするわけには参りません」

「平気よ。ここでのんびりしているから、ね?」

「だめです」

「俺一人で行ってもいいが、買ってきたものに文句を言われそうだからいやだぞ」

「私は王都にはいけないもの。仕切りぐらいなら何とかなるかもしれないけど、本棚なんて持ってはこれないでしょう?」

「ですが」

「じゃあ、命令です!サーヴとロルフの2人で買い物に行ってきなさい」

「グレタ様・・・」

「睨まないでくださいな。一度ぐらいいいじゃないですか」


 私も一人でここの改築案を考えるで忙しいですものね。

 そういえば、魔術で土壁も作れると聞きますし、壁紙も買ってきてもらって本当にお部屋のように区切るのもいいかもしれませんわね。


「私はここで改築の図案を考えておりますから、心配しないでくださいませ」

「・・・・・・かしこまりました。早く戻りますのでくれぐれも外に行かないようになさってくださいね」

「わかってますわ」


 やっとお許しが出ましたわね。

 さて、簡単な改築計画を練って買うものをリストアップしなければいけませんわ。

 本棚や棚はもちろんですけど、植物は日陰でも育つものでなければいけませんわよね。


「じゃあ今日は3人で改築計画を話し合って明日買い出しに行ってきてくださいませ。私は明日は細かい改築の計画を考えますわ」

「了解」

「かしこまりました」


 そういえば、サーヴとロルフは2人で行動をするというのは初めての事ではないでしょうか?

 私の見たところによると、それなりにいい感じのような気がするのですけれど、実際のところはどうなのでしょうか?

 夢の中で18歳までの記憶があっても恋愛ごととは縁遠かったのでよくわかりませんわね。

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