4-3

 翌日、私たちは何かあった時に手を出すという方針で、基本的にはロルフが戦闘を行うということでダンジョンの中を歩いて回ったのですが、なんと申しますか、出る幕がありませんでした。

 怪力というのは本当で、1階のモンスターであれば一撃で仕留めてしまいますし、怪力を使用した瞬発力よ素晴らしいものがございました。怪力というのは力強いだけだと思っておりましたが、脚力も怪力が適用されているので瞬発力が出るのだそうです。

 地面がえぐられるのはすさまじいですわね。これは防具を少し考え直さなければいけないかもしれませんわ。すぐにダメになってしまいそうですもの。

 サーヴの鎧も少し傷がついてしまいましたし、この機会に新調するのもいいかもしれませんわね。

 私の白銀紅蝶の鎧ドレスは不思議と傷がついても魔職を流すと修復される機能が備わっておりますので、とっても便利ですわ。


「このダンジョンなら3階までは行ったことがある」

「まあそうだったのですか」


 そうであれば、確かに1階のモンスターでは一撃で殺されてしまうのも仕方がないのかもしれませんわね。

 冒険者さんたちのお話しではこのダンジョンは下に下りていけば行くほど、段違いに強力なモンスターが出現していくそうですので、1階のモンスターに時間をかける私やサーヴではまだ2階に行くことは無理というものです。


「ではロルフにはこの1階は退屈でしょうか?」

「いや、大丈夫だ」

「そうですの。それはよかったですわ」


 腕慣らしにはちょうどいいとおっしゃってくださいましたし、その気になれば2階なら単身でも行けるそうなので、今度度行ってみるとのことです。

 あまり無茶はしてほしくないのですが、あまり弱いものばかり相手にするのも退屈でしょうし、こればっかりは止めることはできませんわね。

 それにしても怪力というのはすさまじいものです。腕力が強いだけだと思っておりましたが、脚力にも適応されるとこうも素早く動けるものなのですね。


「ロルフのお父様はどのような魔族でいらっしゃったのですか?」

「魔族の中でも高位だった。吸血鬼という魔族で人間の血を飲むんだ」

「ではロルフも血を飲みたいのでしょうか?」

「それはない。100年に一度飲めばいいとか聞いたことがあるから絶対とは言えないけどな」

「そうなのですね。魔族は長生きですもの、ロルフも長生きなのかもしれませんわね」

「多分そうだろうな。俺は魔族の血が濃いらしいから」


 吸血鬼というのは血を吸うのもそうなのですが、血を与えることで眷属を作ることが出来るとも聞いたことがありますわ。

 私は特に長生きをしたいとは思いませんけれども、長生きをしたいと思う王侯貴族からは、吸血鬼は狙われやすい魔族と言われておりますわね。

 血を抜き取り、その血を飲むことで長生きが出来ると、そんな迷信めいた噂がありますもの。

 もしかして、ロルフの前の主人はそんな目的でロルフを手に入れていたのかもしれませんわね。そうであったとしたら傲慢で堕落した王侯貴族を厭う気持ちも分からなくもありませんわ。

 私もこの容姿を利用しようとする貴族のタヌキやキツネに散々苦労させられましたもの、夢の中で。

 彼らは狡猾でずる賢くて、一見人がよさそうな雰囲気で私の味方だと言って近づいてくるのに、実際は私を利用して甘い蜜を吸おうとしている毒虫でしかありませんでしたわ。

 夢の中の私はそういうこともあって、常に無気力で何にも感心がないように生きておりました。

 そうすることが私の処世術だったのでございます。

 私の子の白銀の髪も、銀の目も、蒼白い陶磁器のような肌も、血のように赤い唇も、私にとっては厄介ごとの原因でしかなくとも、他人からすれば利用できる甘い果実だったのでしょうね。

 国王陛下であるお父様も、夜会などでは必ず私を傍に置き、自分の権威を強調なさっておいででした。

 その為に夜会やお茶会では他の王女よりも良いドレスが用意され、嫉妬の対象となり嫌がらせのきっかけになっておりましたが、今思えば夢の中とは言え憂鬱な人生でしたわ。


「持ちすぎるというのは面倒ごとを引き寄せる原因ですわよね」

「そうだな、主も大変な人生を送って来たのか?」

「そうですわねぇ、6年間でもいろいろありましたけれども、あのまま王城に居たらもっとひどい目に合いますわね。最後は革命軍に斬首刑にされますわ」

「は?」

「まあ、夢の中のお話しですのでお気になさらずに。その夢のおかげで私はこうして王城を脱出してのんきにくらしておりますのよ」

「そうなのか」


 その革命軍のリーダーがロルフなんていってしまったら、きっと気にしてしまいますわよね。


「グレタ様、これは良質な魔石のようです」

「本当!綺麗な色をしていますわね」

「ああそうだな、この階ではあまり手に入らないものだな」


 この白銀紅蝶の鎧ドレスを着用するようになってから、珍しいアイテムのドロップや質のいいドロップ品が手に入り確率が上がったように思います。

 鑑定しないと何とも言えませんけれども、鎧ドレスの効果なのかもしれませんわね。

 そういえば、あの不思議な場所ですけれども中のものがなくなったからなのか、後日の夜に同じ場所に行っても模様は浮き上がっておりませんでしたし、中に入ることもできなくなっておりました。

 迷宮ダンジョンというのは本当に不思議なダンジョンでございますわよね。

 1階だけでもとっても広くて、もしかしたら地図を完成させることはできないかもしれませんわ。だって端まで行くのに一日かかってしまうかもしれないんですもの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る