3-3

 全てを着て改めて自分の腕や見える部分の鎧やドレス部分を見ると、私の知っている通常のドレスのデザインとは全く違うため、この姿を見たらサーヴが驚くかもしれないと、少しだけいたずら心がでてしまいました。

 私はその姿のままその小部屋を後にして壁を抜けて通路に出ると、待っている間ずっと心配で眉間にしわを寄せていたのであろうサーヴに今の姿を見せました。


「グレタ様、お一人でお着替えできたのですか」

「あら、驚くところはそこなのですか?」

「そうですね、お着替えなさるにあたりロープを外したのはお説教させていただきたいところです」

「むぅ」


 あまり驚いてくださいませんね。


「驚いては下さいませんの?」

「驚いていますが、グレタ様がご無事でよかったと思う方が勝っております。ところでその衣装は中にあったのですか?」

「そうなのですわ!宝箱があってそこに入っていましたのよ!大きなドレスと思っておりましたのに、着てみたら私のサイズに変わってぴったりになりましたの!」

「なるほど、とても愛らしくお美しいお姿でございます」

「・・・そう」


 やはり私の期待していた吃驚仰天という様子ではありませんね、残念です。


「蝶がモチーフみたいなのですけれど、どうでしょう?」

「そうですね、白銀と紅の組み合わせがとても美しくていらっしゃいます。腰の後ろにある装飾が紅い羽の蝶のようになっておりまして、とてもお美しいです。そうですね、まるでグレタ様の唇の色のように赤く瑞々しいお色です。首飾りや耳飾り、髪飾りもとてもお似合いですし、その指輪も肌の白さを引き立てていらっしゃいます」


 素晴らしい賛辞を頂いたような気がいたしますけれども、サーヴは時折私を過剰評価しているような言動がありますので、今回もその一部なのでしょう。

 それにしても、ドレスのデザイン自体への評価は悪くないようですね。女性が足を見せるというのはあまり受け入れられないと思っておりましたが、私が子供なのも考慮されているのかもしれません。

 けれど、スカートの裾が短くなるというのは思った以上に動きやすいものなのですね。後ろは長いのですが、前の部分が以前よりも思いっきり動かすことが出来ます。

 どうせ普段はローブを着ているのですし、この鎧ドレスを普段使いにいたしましょう。

 全然重くないのも素敵ですわね。抜け出してからは違いますが、王城に居た時のドレスはとにかくフリルとレースを重ねて、装飾に宝石や金銀を縫い付けていたりしますので、見た目以上にとっても重くて動きにくいんです。裾も長いので踏まないように気を付けなくてはいけませんしね。

 もしかしたらいつかの未来では裾の短いドレスが流行るかもしれません。その前に足を出すことへ抵抗感を無くすことが必要ですけれど。

 そういえば、私はそれほど抵抗感がありませんでしたわね。誰も見ていませんでしたし、それこそ子供だからなのかもしれません。

 いつもの小部屋に戻った私たちは、流石に寝ることにしたため鎧ドレスを脱いで寝間着に着替えることにしました。


 翌朝、いつものように起きて顔を洗って今朝は鎧ドレスを着てその上にローブを羽織り、いつものようにモンスター狩りにサーヴと出発しました。

 迷宮ダンジョンは複雑に道が入り組んでおり、迷いやすいので地図を作りながら少しずつ攻略していっております。

 洞窟の中ですので歩数を数えて歩いたり、印をつけたりして進んでいくのですが、モンスターと遭遇してしまうとわからなくなってしまうことも多々あって、なかなか地図作りは進みません。

 まあ時間だけはたくさんありますので、焦る必要が全くないのが幸いなところですね。

 今日は歩いて30分ほどで蛇型のモンスターに遭遇しました。グレイドスネークというモンスターで、良質の魔石をドロップしてくれるモンスターでもありますが、毒がありますのでなかなかに手ごわいモンスターでもあります。魔石以外にも牙と鱗がドロップ品となりますが、それほど高価なものではありません。

 サーヴが細身の剣を構え、私も両手に短剣を構えます。

 グレイドスネークがその大きな体をくねらせ襲い掛かってくると私たちはその攻撃を避けながら、それぞれグレイドスネークに傷をつけていきますが、今回の物は大物ですので中々倒れてくれません。

 あまり時間をかけてこちらが疲弊して攻撃を受けてしまうと、毒を浴びてしまう可能性がありますので素早く倒すことがポイントです。

 弱点は口の奥にある核のような魔石なのですが、狙うのは難しいので地道にダメージを与えるしかありません。

 けれども、今回は随分と体が楽に動くような気がしますので、いつもよりも感じる疲労感があまりありません。これは鎧ドレスのおかげなのでしょうか?

 何度も傷をつけてやっとグレイドスネークを倒すことが出来ると、残念ながら魔石は残らず鱗のみがドロップしましたが、いつも見るものよりもずっと輝いているように感じました。


「サーヴ、これはいつも見ている物とは違いますわね」

「然様でございますね。上質な物のようでございますし、もしかしたら高値で買い取られるかもしれません」

「そうしたらまた串焼きが食べたいですわ」

「相当お気に召したのですね」

「ええ!」


 お金には困っておりませんが、ドロップ品で買う食品は格別に味が良い気がしますもの。

 けれど、次にダンジョンを出るのはいつになるのでしょうか?大分食料は買い込みましたし、行く必要があるのは一か月は先ですわよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る