3-2

 水を針のように、糸のように細くイメージするという作業に一日を費やしてしまいましたが、刺繍の水色の糸をイメージして、空中に空想の布を思い浮かべて刺繍していくようにすることで、やっと細い水を具現化することが出来ました。

 あとはこの水を人の体に刺さるほどに硬化させるのですが、針をイメージしておりますがこれがなかなかに難しいものになっております。

 水は不定形の柔らかいものという先入観があるせいでしょうね。氷であれば簡単なのでしょうが、やはり私にはまだ氷を作り出すことが出来ませんので、サーヴの言った滝の様な水というものをイメージすべきなのでしょう。

 さて、そのような事をしている間に夜になってしまいました。もちろんお昼寝は致しましたので目はちゃんと覚めております。

 サーヴと一緒に昨晩の場所に行くと、やはり模様が浮き上がっていました。


「ご覧になって、やっぱり模様がありますわ」

「・・・申し訳ありません、私にはその模様というものが見えないのですが?」

「え?」


 不思議な事なのですが、この模様は私にしか見えないようです。


「サーヴ、私の手を持っていてくださる?」

「はい」


 片手をサーヴに握ってもらい、私は昨晩のように手を模様の中に当てると、泥の中に手を入れたような軽い抵抗感を持って中に入っていきます。

 そのまま腕を押し込んでいくと、指先が壁のようなものを出たような感覚があり、手を引き抜きました。


「今のを見てどう思いました?」

「壁の中に手が消えていったように見えましたが、大事無いようでしたので繋いだ手だけをしっかりと握らせていただきました」

「そうなの。・・・壁の向こうに空間があるみたいだから、ちょうど腕一本分の厚みがある壁みたいなの」

「まさか行ってみたいとはおっしゃいませんよね?」

「行ってみたいわ」


 私の言葉にサーヴは眉間にしわを寄せましたが、少し考えた後に手を離さないということを条件に様子を見ることを許可してくださいました。

 もちろんサーヴと一緒に入れるか試すために、握った手を模様に沈み込ませようとしましたが、サーヴの手は壁に入ることはできませんでしたので、私だけが入れるようです。

 しっかりとサーヴに手を握ってもらい、最初は腕を、そして肩を、足を、半身を入れて心配そうに見守るサーヴにほほ笑んでから頭を模様の中に入れて、握られた手だけを残して中に入ってみれば、そこは私たちが暮らしているような正方形の小さな小部屋でした。

 そこにはいくつかの宝箱が置いてあり、カギはかかっていないようです。

 ミミックというモンスターの可能性も一瞬考えましたが、このような場所で、しかも私しか入れないような場所では可能性は薄いと考え報告をするために壁を通り元の場所に戻り、サーヴに説明をすると、迷宮ダンジョンの隠し部屋の一つだろうという結論に至りました。

 そこに在る宝箱の中身は高価なものや貴重な物が多いとのことで、多くの冒険者がそれを求めているのだと言います。


「私が一人で入ることをサーヴは良く思いませんわよね?」

「もちろんでございます」

「ロープを渡しに巻き付けて中に入るというのはどうかしら?」

「失礼ですが、正気ですかグレタ様」

「正気でしてよ?」


 私の提案にサーヴは先ほどより眉間のしわを深くし、沈黙しましたが、私がどうしても中に入ってみたいと言い続けたためか、危険だと思ったらすぐさま引き返すことを条件にやっと頷いてくれました。

 そうして一度生活している小部屋に戻り、頑丈なロープを持ち出し、私の腰に巻き付けて私はいよいよ秘密の小部屋に入ることになったのです。

 秘密の小部屋の中にある宝箱のうち一番小さなものを開けると、そこには先端が平たい作りになっている布製の靴が入っていました。

 普通は先端がとがっている物なのですが、変わった作りの靴ですね。けれど布地が柔らかそうで、靴からつながっているリボンで固定する靴のようです。

 私は何となくその靴を履き、次の宝箱を開けました。

 そこには耳飾りと首飾り、指輪と髪飾りが入っていました。

 全て揃いのデザインで、蝶がモチーフになっているようで、どれも高価なものだとわかります。素材はおそらく銀のようなものとルビーですわね。

 装飾品も身に着けて、少し大きめの宝箱を開けるとそこにはドレスのようなものが入っていました。

 ようなもの、というのは私の知っているドレスのデザインとは随分違うものだからです。

 我が国でのドレスは、上半身は体にフィットし、ハイウエストで、スカート部分は緩やかに足先が少し出るようなものなのですが、このドレスは上半身こどフィットしていますが、ハイウエストというよりは腰のあたりで切り返しがあり、前の部分が膝の少し上ぐらいまで短く後ろの部分が長くなっている作りなのです。

 着るのは少しためらってしまいましたが、誰も見ていないのだし、と思い着替えることにしました。その時に一度ロープを外したのはサーヴには内緒です。

 そしていよいよ最後の宝箱を開けると、そこには鎧が入っていました。

 上半身にフィットした鎧は、腰の部分が左右から後ろにかけて花弁のように幾重にか重なったもので、腰の後ろの部分にはちょうど蝶の羽のような装飾がありました。

 足が見えてしまうのを補うためなのか、膝まで覆うブーツの鎧もあり、先ほどの靴はこの鎧のブーツをはくために先が平たくなっていたのだと理解しました。

 腰の前あたりには鎖で鎧を繋ぎとめているようで、鏡がないのでわかりませんが、これはきっとすべてを装着して一揃えなのでしょう。

 銀製品だと思うのですが、銀の鎧にしてはとても軽いのでもしかしたら私の知らない素材なのかもしれません。

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