3-1 秘密の宝箱

「グレタ様、お一人で行動なさるなんて無謀にもほどがあります!何かあったらどうなさるおつもりなのですか!」

「ごめんなさい。寝ているサーヴを起こすのが気の毒だと思って」

「勝手に出ていかれる方がよっぽどひどうございます!」


 昨晩の探索をサーヴに話したところ、とてもお怒りを買ってしまったらしく、現在同じことで1時間ほど怒られっぱなしです。

 私はただあの模様の場所に行きたいだけなのですが、サーヴには私の単独行動のほうがよっぽど気にかかる案件のようですわね。過保護なのか私の考えが足りないのか、どっちなのでしょうか?


「とにかく、昨夜の場所に行ってみたいのですわ。サーヴ、付き合っていただけるでしょう?」

「当たり前です」


 即答なのは嬉しいことですわね。

 もっとも、その後も2時間ほどお説教をされました。

 昼食を頂いて私たちは昨晩の場所まで行って見ましたが、模様は浮かび上がってはおりませんでした。

 私が首をかしげて岩肌を触ってみましたが、昨夜のように手が沈み込むということはありません。


「夜にしか現れないのでしょうか?」

「夜はお休みになるお時間です」

「でもたまには夜更かしもいいとおもいますわ」

「まだお子様でいらっしゃるグレタ様には十分な睡眠が必要でいらっしゃいます」

「むぅ、今日だけでいいから、ね?」

「なりません。・・・と言ってまた抜け出されても困ってしまいますし、今日だけでございますよ」


 サーヴのその言葉に私は胸の前で手を叩いてはしゃいてしまいました。


「ありがとうございますわ!今晩のためにお昼寝をしないといけませんわね」

「かしこまりました」

「流石に胃もたれがしてしまいそうだから、昼食は軽いものがいいですわね」

「そうでしょうとも」

「空間魔法は状態維持の魔法がかかっているから新鮮なお野菜もあるけれど、収納していなかったお野菜が手に入ったのは素敵だわ」

「食糧庫から盗み出すのもグレタ様にさせてしまったことを今でも悔やんでおります」

「あら、だってサーヴにまで盗人の称号を与えるわけにはいかないもの仕方がないわ。それに、キッチンメイドの目を盗むもなかなか楽しかったわよ」

「褒められる行為ではございません」

「わかってますわ」


 小部屋に戻りながらそんな話をしていると一匹のモンスターと遭遇し、私たちは慣れた動作で武器を構える。

 モンスターは小柄なホーンラビットですが、洞穴という日の当たらない性質上なのか、真っ白なアルビノのモンスターです。毛皮をドロップすれば貴婦人たちの装飾品に仕えるためそれなりの金額で取引がされます。


「水の精霊に願います。敵をその檻に閉じこめてください」


 魔法を呟けばホーンラビットの周囲に水の膜が出来檻のようになり身動きが制限されます。

 続いて風の魔法を内側で発生させることでホーンラビットの肉体を切り裂き、殺すことが可能となるのです。

 あいにく今のところ、1体ずつにしかこれは出来ませんので団体に遭遇した場合はまた別の魔法を使ったり、短剣で戦ったりすることになります。

 今回は1体でしたので安全に殺すことが出来てよかったです。


「残念ながら毛皮がドロップしなかったようですね。角と魔石があります。回収していただけますか?」

「わかりましたわ」


 回収したドロップアイテムを空間魔法に放り込んで小部屋に戻ると、早速サーヴは昼食の準備に取り掛かります。

 私はその間に魔法について書かれた本を読んで、お勉強をするのが日課になっております。

 現在私が使用できる魔法は風や水で幕を張ることと、渦巻きのように動かしてもらうようにすること、短剣に属性をつけることですが、本には他の魔法のことも書かれています。

 例えば矢のように遠くにいる相手を穿つ魔法ですとか、壁のようにする魔法ですとか、いろいろですわ。

 私が今覚えようとしているのは水の魔法で、糸のように張り巡らせて体を突き刺すというものです。

 極めれば水蒸気という気体にしたり、氷にすることも可能になるのですが、私の能力ではまだ覚えられそうにありませんわ。

 精霊のお力を借りますので、自然の中のほうが威力は増すのですけれども、ここの洞窟の中でも風と水の精霊は元気にすごしていらっしゃるようです。


「精霊よ、水を糸のように巡らせ鋭く貫け」


 そう唱えても、残念ながら魔法は不発になってしまいました。

 なかなか難しいものですね。精霊との相性はいいのですが、イメージが中々具体的にならないのが問題なのでしょうけれども、水が貫くというのはイメージしにくいのです。氷が貫くのならイメージできるのですけれど、氷の魔法はまだ使えなのにですよね。


「ねえサーヴ、水が体を貫くってどんなイメージでしょうか?」

「わかりかねます」

「そうですわよねえ、難しいですわ。水を体に突き刺すほどの状態ってどんなものかしら?」

「そういえば、滝というものは岩をも砕く威力があると聞いたことがあります」

「滝?どんなものなの?」

「高所から落ちる水の塊のようなものです、川の端にあるのだとか」

「川の水が落ちると岩を砕くのですか?想像できないですわ」


 難しいですわね、見たいことがないものを想像するというのは。

 そう言いながら水の入った水差しを持ってお風呂に向かい、高いところから水と落としてみますが、バシャバシャと音を立てるだけで削れることはありません。


「もっと高いところから落とせばできるのでしょうか?それとも水の量が足りない?・・・いえ、鋭くとがらせた水なのですから量よりもやはり落下の威力でしょうか」


 そもそも、水を細くとがらせるイメージが紅茶を淹れるときのイメージなのですから、もっと細いものをイメージしなけれないけませんわよね。

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