2-1 初めてのギルドと市場

 王城の金庫で見つけた顔を隠す仮面をつけて、同じように見つけたローブのフードを深くかぶって体をすっぽり覆うと、サーヴは納得したように頷き、やっとダンジョンの外に行く決意をしてくれました。

 ダンジョンの外はいい天気でここに来た時の嵐が嘘のようです。

 青空の下、二人で歩いて王都に向かいます。

 王都の入り口の門でもちろん検問されるのですが、そこは賄賂を渡せば見逃してもらえるのです。こんな末端まで腐っているとか悲しい現実ですわね。

 もっとも身分証をサーヴが発行してもらえれば、その妹ということで私の身分証も発行してもらえます。もちろんそれには通常の数倍のお金がかかりますが仕方がありません。

 お金で解決できることはしてしまうに限ります。そのために銀貨や金貨も持ってきたのですもの。


「まあ!」


 そんな腐った国の冒険者ギルドですが、ギルド自体は世界規模ですので、この国の中では一番とてもまっとうな機関なのではないでしょうか?

 そんな冒険者ギルドの周囲は市場のようになっていて、とても賑わっております。

 私はかなり浮いているのですが、何も言わなくても何かを察してくれるのか特に聞かれることはありません。


「見てサーヴお姉ちゃん、屋台というものがあるわ。いい匂いがする。串焼きというものなのでしょう?」

「そうですね。ギルドに行く前に買いましょうか?」

「いいえ、後でいいのよ。早くギルドに行きましょう」

「わかりました」


 サーヴの敬語は結局直りそうにないのですが、そういう話し方なのだと押し切るようです。

 冒険者ギルドはとても立派な建物で、王城を見慣れている私でも感心してしまうほどです。周囲にあまりガラのよさそうではない方もいらっしゃいますが、サーヴが威嚇してくれているので近づいてきませんね。

 ギルドの立派な門を開けて中に入ると、想像していたよりも清潔な空間が広がっていました。

 想像ではもっと言い方は悪いのですが汚れていて、粗暴な方々が多いのだと思っておりましたが、実際に来てみれば床も壁もとてもきれいに磨き上げられています。

 カーテンもそれなりにいい素材を使っているようですし、受付のカウンターにいる職員の方々も身だしなみを整えている方ばかりです。

 でも考えてみれば、貴族の子女が登録するようなところなのですから、それに合わせているのかもしれませんね。

 サーヴがギルドに登録している後ろでくっついていると、私を見てくるので首を傾げれば、サーヴが考えていた設定を悲し気に職員の方に説明してくださいました。

 幾分同情の目が向けられましたが、そこまで珍しいものではないのかすぐに話題は私の身分証の発行に移りました。

 ギルドに登録は出来ないけれど身分証は発行してくれるのですが、銀貨5枚必要になります。ちなみにギルドに登録すれば銀貨1枚です。

 サーヴの登録が済んで身分証の発行をしてもらっている間に、ダンジョンでの戦利品を換金に行きます。

 この世界のモンスターは瘴気を浴びた存在なので、倒すと煙のように消えてその場に魔石と呼ばれるものや、角や皮、肉などがアイテムとして残ります。

 モンスター以外の動物を殺して肉を取るときは血抜き等解体作業の手間がかかりますので、やはりモンスターは通常の生き物ではないのでしょう。

 貴族や王族のドレスや装飾品には、モンスターのいわゆるドロップ品を加工した者も多く扱われておりますので、こうやって手に入れるのかと初めてモンスターを倒した時は感慨深いものがありました。

 そういえば、この世界にはレベルというものが存在するのですが、上がったり下がったりします。つまり常日頃の鍛錬をさぼれば下がりますし、鍛錬を怠らなければ上がって行ったり維持できるというものです。

 これも通常のステータス確認ではわかりませんので、専門の場所か特定スキルで確認することになります。


「グレタ、換金が終わりました」

「お疲れ様、サーヴお姉ちゃん」

「今日は屋台でご飯を食べてからダンジョンに戻りましょう」

「はーい」


 私もこの喋り方がすっかり板につきましたね。思考回路はまだ以前のままですが、ちゃんと庶民風の言葉遣いが出来るようになりました。

 屋台というものでの買い物は見た時からしてみたかったのです。出来立てのお料理というものは王城を出て始めていただきましたが、とても良いものですね。

 冷めた料理の味気無さや固さといったら、今ではもう食べたくないと思えるほどです。たまに出た熱い料理もありましたが、出来立ての物よりはやはり味は落ちていた気がします。

 サーヴの作る料理も好きですが、屋台の料理人が作っているものにも興味があります。

 串焼きというものは夢の中で冒険者の先生から聞いていましたので、食べるのが夢だったんです。なんでもその場で立ったままいただくものだそうですから、王城ではありえませんものね。

 立食形式のパーティーだって、食べるときは用意された椅子に座っていただくことがほとんどです。

 食べ歩きというものだそうですが、楽しそうですわ。


「串焼きというものはお肉と野菜を焼いたものなのでしょう?でもとっても美味しいものだと聞いたわ、とっても楽しみ」

「そうですね、私も食べ歩きというのは初めての経験です」

「他にもいろいろなお店があったもの、せっかくの機会だし見て回りたいわ」

「お望みのままに」


 どんなお料理があるのでしょうね、もうわくわくが止まりませんわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る