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 さて、盗人になったわけですけれども、いつこの城から逃亡すべきでしょうか。

 サーヴは抜け目ないので誤魔化すのは難しいですし、全てを打ち明けてしまうのもいいかもしれませんね。彼女は父が私に付けた護衛も兼ねておりますし、一緒に逃亡してくださると心強いですもの。

 部屋に戻ってサーヴに話しがあると言えば、素直に従って部屋に残ってくれましたので、私は長い話しを始めることにしました。


「信じられないかもしれませんが、私は未来のことを夢に見ました。これから先の12年間のことですわ。王族は、貴族は、国はますます堕落していき平民がついに革命を起こしてしまうほどになったのです。

 ……ああ、そのことについてはサーヴも予想できるのですね?そうですわね、子供の私にはわかりませんが、未来の私もそうなるであろうと確信しておりました。そうして起こった革命では、王族のすべてがギロチンにかけられてしまうのです。

 もちろん私もです。私の記憶はそこまでですが、多くの知識を覚えております。サーヴは私が死ぬときには生きていました、最後まで私を守ろうとしてくれましたが私がそれを拒んだのです。貴女を守りたかったからです。私を守るということはともに死ぬということですからね。

 夢と笑うかもしれませんけれども、あまりにも生々しい長い夢でした、そしてきっとそれは本当に起こり得ることなのだと確信しているのです。

 ……ええ、そうですね。同じことを繰り返す気はありません。気が付いていますでしょう?私が今日いくつかの金庫で行った盗みを。

 ……私だけじゃない?そうなの?…ふふ、王族に盗人の称号を持っている者が多くいるなんておかしな事だわ。

 私はこの城を出て、そうしてダンジョンに身を潜めて暮らしていくつもりです。簡単にはいかないでしょうけど、どちらにせよ死んでしまうならできることをして死んでしまったほうがいいでしょう?

 ……え?一緒に来るというの?駄目よ駄目だわ。貴女に話したのは目をすり抜けることが出来ないだろうから、見逃してほしいとお願いするためで、一緒に行ってほしいとお願いするためじゃないのですよ。

 確かに私は世間知らずの王女ですけど、子供なりにもどうにか生きていっている人は多いのですから、もしかしたらうまくいくかもしれないじゃないですか。

 …………そう、一緒に行かないのなら見逃してはくれないのね。きっと苦しい生活になるわ、こんな優雅な暮らしはもう二度と出来ないの。貴女はいいところの家のご令嬢だったのでしょう?確かに武芸にも秀でているけれど。

 ……そ、それは確かに私よりずっと適応できるでしょうけど。

 ……わかりましたわ、一緒にこの城から脱出いたしましょう。

 じゃあ設定を考えましょう。

 ……え?だって私たち親子にしては年が近いもの。姉妹にしては少し離れてしまっているし、お互いに貴族の庶子で孤児ということにしません?捨てられた私を貴女が見つけて一緒に行動しているという設定ですわ。

 そうね、私は冒険者ギルドには登録できませんけれども、サーヴなら登録できるでしょうからそこで身分証を発行してもらいましょう?そうすればダンジョンでの戦利品を買いたたかれずにすみますもの。

 私、平民の暮らしはよくわからないけれども、夢の中で私に武芸を仕込んでくれた冒険者さんに少しだけ聞いているのよ。もっとも、私に伝えるのだから随分と優しくごまかしてお話ししてくれていたのでしょうけど」


 そこまで話すと、サーヴは苦笑して自分が知っているという平民の暮らしを教えてくれました。貴族の令嬢であり、家を出てそのまま王城に奉公に来ているサーヴもあまり知らないとのことですが、メイド仲間からいくつか話を聞いているとのことでした。

 やはり、この国の貴族は平民に対して随分とひどいことをしているそうですし、庶子も珍しくないとのことでした。

 孤児院は貴族との癒着がひどく、孤児の扱いはひどく盗みを働かなくては生きていけない子供が多いのだそうです。そのせいで冒険者ギルドに登録できない子供が多く、悪循環がやはり広がっているとのことです。

 この国の冒険者ギルドに登録しているのは貴族の子供が多く、そのほかは王都以外から来た人はほとんどで、平民や孤児が登録できるということは稀だそうです。

 そうして、私たちはまず脱走する手順を話し合いました。王族にだけ教えられる抜け道を使うことにしましたが、その場所は王妃の部屋の庭にある枯れ井戸にあるのです。

 王妃が部屋を離れ、全てのメイドが部屋を出るタイミングはほとんどありません、警備の都合上誰かが絶対にいるのですが、庭に侵入することは可能です。

 王妃も密会に使っている隠し扉がありますので、そこから侵入することが出来ます。その扉は図書室の奥の隠し扉からいけることのできる薔薇園に一度出て、そこから生垣の隠された道を通り抜けた先に王妃の庭に通じる扉があるのです。

 夜よりも夜明けのほうがいいということでしたので、その日は早くに眠って夜明け前に起きることにしました。

 サーヴ用の武器なども集めるために、明日にもう一度金庫をめぐることにしました。

 そして、サーヴのアドバイスで図書室の本を集めることにもしました。確かにモンスターや薬草などの知識は必要ですもの、私には気が付かなかったけれど、こうなるとサーヴがいてくれることの心強さが増しますね。

 お城の外はどんな世界なのでしょうか?こんな柔らかいベッドなどない、寝ることにも苦労する世界なのでしょうけれども、死ぬよりはましですよね。

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