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 私がまず向かったのは武器や防具が置かれている金庫です。兄弟が好んで遊んでいる場所なのですが、今は丁度いらっしゃらないみたいですね。

 一番上のお兄様はともかく他の兄弟は何と言いますか、まさにこの国の王族という感じの方ですので、あまりお会いしたくないのですよね。

 嫌がらせをされてしまいますし。


「さて…」


 もちろん、子供用の武器など置いてあるわけがありませんので、子供でも扱える短剣などがある場所を見ていきます。

 きれいに並べられているものの中から、魔力を感じることのできるものを選んで手に取って自分に馴染むか確認していくますと、6本ほど手に馴染むものがありましたので、こっそり空間魔法の中にしまいました。

 次に防具を見に行きますが、どれも大人用の物ですので、私にはつけられそうなものはありません。ローブでしたら何とかなるかもしれませんので、ローブも同じように自分の肌になじむものを探して3着ほど空間魔法の中に押し込めました。

 装飾品はこの金庫にはありませんので、私はその足でそのまま装飾品のしまってある金庫に向かいます。

 ここは姉妹に人気の場所ですが、夕食前ということもあってかだれもいませんね。

 換金できそうな装飾品というよりも、魔力の宿った装飾品を探してのですが、華美で豪奢なものを良いとするこの国の金庫に求めるのは無駄だったのかもしれません。

 もっとも、ここにあるものを換金したらそれこそ私の身分がばれますのでしません。

 他の金庫に行くべきか悩んでいると、ふと金庫の端の方のエリアが気になり、足を向けてみますと、随分と適当に展示されている装飾品がありました。

 シンプルな装飾品ですが質は良いものだとわかりますし、なによりも魔力の流れを感じることが出来るのです。

 手にしてみれば幾分輝きを増したそれらを、もちろん何のためらいもなく空間魔法に入れ、何食わぬ顔で私は金庫を出て外で待っていたシーヴに連れられて夕食の席に向かいました。

 本来ならば自室で食べたいのですが、王子王女は5歳になったら病気などで参加できない場合を除き、国王と王妃と一緒に食事をとるという決まりがありますのでしかたがありません。

 正直なところ、こってりとしたものの多い食事ですので子供の胃に優しくないので遠慮したいのですが、どうして参加しなくてはいけないのでしょうね。

 王子王女それぞれの母親が参加しないので、偵察のようなものかもしれませんし、優劣を見せつけるためなのかもしれません。

 私は母の実家からの援助でドレスや装飾品、部屋の調度などを誂えておりますが、それでも母親がいないということでどうしてもほかの兄弟姉妹と差が出てしまいます。

 子供というのは残酷ですからね。

 母よりも下位貴族や資産のない貴族の出の母親を持つ兄弟姉妹はともかく、問題は資産があり私の母よりも家格が上の兄弟姉妹です。

 無駄に私に母親に愛されていると主張してきたり、母親がいないことを馬鹿にされたり、まあ色々をされましたが、私が反応しないと見ればすぐに飽きてどこかに行ってしまいます。

 まあ、飽きてもまたしばらくするとやって来るので私としては面倒以外の何物でもありません。

 豪華なシャンデリアがこれでもかと輝きを放ち、父である国王陛下の肖像画が掲げられ、上っ面だけ取り繕った家族のだんらんの場所である食堂に行けば、既に集まっていた兄弟姉妹から視線を向けられる。


「今日も質素なドレスだわ。クスクス」


 そう言ったのは誰だったか、小さな声に他の兄弟姉妹もクスクスと笑い始める。

 質素なデザインだが、布は上質なものを使っているし、アクセントの宝石は平民が一生働いても買えないほどの物なのですが、それでも無駄に派手に着飾ることを良しとした教育を受けているせいで、見た目こそが彼らにとっては重要のようです。

 ゴテゴテとして動きにくいと思うのですが、これに関してはどうしようもないのでしょうね。

 もっとも、この事も革命を起こされる原因の一つなのですけれど、私がわざわざ教えて差し上げる義理はありませんし、言っても聞きませんわ。

 夕食後にはお金のしまってある金庫に行きましょうか。流石に金貨などは使えませんが、銅貨や鉄貨を持って行く分にはかまいませんよね。いえ、盗人なのですけど、どうせ銀貨や金貨以外はお金じゃないと考えてるような人達ですし、気にしませんわよ。

 夕食を食べながらそんなことを考えていると、いつの間にか話題は誰ぞの婚約の話しになり、矛先が私に向かってきました。


「隣国の王子の嫁にどうかと話が今日来た。あとで肖像画を持って行かせる」

「わかりました。でも、私にはまだ早いのではないかと」

「お前は私の言うとおりにすればよいのだ」

「……はい」


 反論など認めないという父の態度に、気が付かれないようにため息を吐いて食事を再開し、どうせ見るだけで終わる肖像画を描いた絵師を気の毒に思ってしまう。

 相手に好印象を与えるようにとあれこれ文句をつけられて描かされて、ぼろ紙のように捨てられてしまうのだから、全く持って報われないものです。


 夕食後予定通りにお金のある金庫にいって銅貨と鉄貨を探しましたが、ほとんどありませんでした。

 金貨や銀貨は山のように積まれているのに、必要な物はないなんて、不条理ですね。

 まあ、この城で暮らしている限り、金貨や銀貨以外の貨幣など使いませんし仕方がないのかもしれません。今の私にはとっても必要なのですけれども、困ったものです。

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