盗人から始まるスローライフ

茄子

1-1 そして盗人の称号を手に入れる

 ここ数日、私の頭を悩ませている事案があり、そのことについて私は一生懸命考えて答えを出さなければいけない。

 馬鹿らしい話だけれども、私は数日前に自分が死ぬ夢を見た。それも成長するまでの記憶付きでの長い夢だったと思います。

 もしくは夢ではなく、その記憶を持って私の時間が戻っただけかもしれないけれど、それはこの際どうでもいいことなのでおいておきます。

 私はこの国、ノーチェルーナ国国王の第7子、第4王女として生まれました。母はそれなりに高位の貴族でしたが、産後の肥立ちが悪く残念ながら私を産んで1年ほどで儚くなってしまいました。

 私は乳母とメイドに囲まれて育ちましたが、私の持っている色があまりにも王族であることを示すもののせいで、兄弟やその母親たちから随分な嫌がらせを受けております。

 これは今も夢の中でもあることですが、そんなにこの白銀の髪と銀色の眼と、少し青みがかった血色の悪い肌と、血をたらしたように赤い唇がうらやましいのでしょうか?

 まあ、この色をすべてそろえて生まれたのが王子であったなら、間違いなく王太子になっていたと言われてはおりますが、私は王女なので関係はありません。

 むしろ他国から嫁いで来いとうるさくいわれていると、夢の中で国王である父がぼやいておりました。

 私という商品を一番高く買ってくれる国に売りつける気だったのでしょうが、その前に革命が起きてしまったのですよね。

 革命軍の主導者は容赦のない方でしたので、王族や高位貴族は皆ギロチンで首を落とされ、さらし首になりました。

 確かに私は王族として血族を止めることはできませんでしたが、そこまでされるほどひどいことをしていたとは思っておりません。まあ、王族であるというだけで気に入らなかったのでしょうね。

 ともあれ、このままでいけば高確率で夢が現実になることはわかりきっています。なんといってもこの国の腐敗具合は夢の中でも見ていますが、子供の私でもわかるほどのものです。


「どうしましょうか」


 温めに入れてもらったミルクティーにたっぷりと砂糖を入れてもらいながら、ため息交じりに呟けば、メイドのサーーヴがこちらを見て何か用があるのかと目で尋ねてくる。

 何もないと首を横に振れば、目の前に私が飲むための適温になっているカップが置かれそれを手に取り中のミルクティーを飲む。

 一口二口と飲んでいくうちに、やっぱり私はギロチンにかけられるほど悪行をしていないのだから、見逃してもらおうという考えが強くなってきた。

 幸いなことに夢のおかげで知識と教養と魔法の覚えと武術の覚えはある。けれども、それこそ王女として大切にされてきた私が無一文で生活できるわけもないし、どうしたらいいのだろう。


「……金庫で遊びたいわ」

「かしこまりました」


 この狭い城の中で子供の遊び場と言ったら自室か庭ぐらいなものだけれども、金庫はその中で私たち王女王子にとって最高の遊び場所だった。

 仲がそれほど良く無い兄弟姉妹でも、そこで遊ぶときだけは大声で笑い合ったり、本気で喧嘩をしたりもする。

 もっとも重要な、それこそ国宝級の宝石や絵画がある金庫には入ることはできないが、お金や王族にとっては簡素な装飾品、武器などの保管されている金庫には入ることは許されている。

 幼いうちから審美眼を養うためという理由だけれども、今の私にとっては好都合。

 空間魔法は魔力に比例するし、習うのは16歳以上才能のある者と決められている。だからこそ窃盗の心配のない子供を遊ばせているのだろうけれど、あいにく私はその空間魔法の知識をしっかりと覚えている。

 逃亡に必要な経路を調べて、資金と武器と役に立ちそうなものを盗み出して、それからどうしましょう。

 子供一人で、しかも6歳の少女が一人で生活していけるほどこの国は甘くない、というか豊かではない。当然孤児が多く、孤児は盗みを働くことも多く、そのせいで成長しても冒険者ギルトに登録できない者が多い。

 そうなれば、せっかくダンジョンで集めた戦利品もギルドに安く買い叩かれ大した金額にならず、また盗みを働いて……、そんな悪循環がこの国では起きているのが現状。

 私が外に出たところで、孤児に見られるかもしれないが問題はこの色でしょう。王族特有のこの色をすべてそろえているとなれば、私の素性は王女ですと言いふらしているようなものですよね。

 仮面をかぶって肌の見えない服を着て、フードを被ればいいでしょうけど、あからさまに怪しすぎますよね。


「ああ、でもそうですわ」


 金庫に行く途中に思いつく。

 この国の貴族に、いたずらで怪我を負わされたり、やけどを負わされたものは少なくない。無礼打ちだと言って、罪のない国民を虐げるのがこの国の今の貴族なのです。

 それならば、私もその被害者ということで顔をさらしたくないと言えばいいでしょうね。

 でも6歳の子供が一人でどうやって暮らしていきましょうか?問題はここに戻るのですよね。

 孤児は盗みやダンジョンに潜ってモンスターと戦って得た戦利品を売って生活しますが、私は孤児の集団に溶け込めるわけはありませんよね。

 むしろ住む場所があるかもわかりません。


「どうしましょうか」


 この国だけでなく、他国にもダンジョンは多くありますが、この城から一番近いダンジョンにしばらく身をひそめるのもいいかもしれません。

 魔物との対峙など心配事は多々ありますが、ギロチンで殺されるよりはましですよね。

 アレ、痛いんですよ。夢の中での体験ですけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る