強者は背中で語る【憑依】
光が収まり目を開くと、大きな噴水がある広場に立っていた。
足元は一面明るい茶色の石畳に舗装されており、街の中心という雰囲気に相応しく、多くの人や荷馬車が目の前を行き来していた。
顔を上げれば刃物みたいに尖った峰の山が遠くにそびえ立ち、群青色で塗りつぶしたような空には綿菓子のように白くてふわふわな雲が浮かぶ。
ここは山の麓にあるそれなりに栄えた街という設定らしい。冒険を始めるにふさわしい、長閑だけど不便さのない理想的な田舎という感じがして、とても心地のいいところだ。
こう、街並みと山の景色を眺めているだけでも、とても絵になる。海外のポストカードによくありそうな風景はいつまでも眺めていられそう。
と思えば、街ゆく人々の中には宙に浮く半透明のウィンドウという、全く景色にそぐわない近未来的システムデバイスを展開している者もいる。
そういう食い合わせのチグハグなところはVRゲームらしいなという感じだ。
景色を眺めてぼうっとしていると、
「ルナさん」
後ろから私を呼ぶ声がした。
一体誰だろう。私はここに来たばかりだし、それに誰にも断らず一人で来た。だから私の名前を知ってる人はいないはずなんだけど。
なんか怖い人とかだったらどうしようと内心ビクビクしながら振り向くと、そこには──
天使がいた。
いや、正確に言えば羽は生えていない普通の女の子なのだけれど。
そこにいたのは私よりもちょっと背の高い、百六十センチくらいの女の子。高校の制服を着ているが、その胸元は着ているブレザーがはち切れそうなほどに巨乳。小顔で黒髪ロング、重めの前髪に半分ほど隠れているけど、自己の存在をこれでもかと主張するパッチリお目目がよく目立つ。シュッとシャープな鼻に、地味目ルージュでもセクシーさの溢れ出てる、プックリと形のいい唇。
その見た目はもう完璧に私の好みのど直球を射抜いていた。片手に文庫本が似合う、クラスの隠れアイドル的美少女。男子の間での人気投票はクラス二、三位くらいだけど、えっちなっことしたい系女子ナンバーワンと陰で囁かれる感じの子!
ゴムで調節できるリボンを首元でキュッと締め、ワンポイントの白ソックスを履き、校則をきっちり守っている感がまた何ともいい。
しかし、そんな子が私に何の用だろう?
そう疑問に思っていると、『ピコン!』という甲高い音が鳴り、視界の端に赤いビックリマークのアイコンが出現。そのビックリは点滅に合わせて、大きくなったり小さくなったりを繰り返している。
見ろってことだろうと思いアイコンを注視してみると、目の前にメッセージウィンドウが飛び出してきた。
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【称号:新たな世界へようこそ!】
『フェティシズム・フロンティア・オンラインへようこそ! 『自分のしたいことをしたい』と選ばれましたルナ様に、ささやかではございますが、贈り物をお送りいたします! 良きVRライフを!!』
【サポートパートナーと出会った】
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「私、ルナ様のサポートをさせていただきます! ルナ様のバディとなり、この世界の案内人となりますので、何なりとお申し付けください!」
彼女はこちらへ向かって軽くお辞儀をすると、続けざまにウィンドウが【名前をつけてください】という表示に変わった。
唐突にくる重大イベント。どんな名前をつけるか実に悩ましい。
名付けとは極めて重要な行事だ。多分、というか絶対途中で変えられないだろうし、私の理想的な姿をした子には理想的な名前をつけてあげなきゃダメだ。
改めて私のバディを見ると、彼女は日差しを受けてキラキラと輝いている。それだけではなく、ニコッと笑う微笑みも太陽に負けないくらい色鮮やかに輝いていた。
「
他に並ぶもののない、お日様の
「私の名前は『陽彩』でよろしいですか?」
そう私に確認してくる彼女。目の前には【はい】と【いいえ】の二つが浮かぶ。
つい考えなしに呟いてしまった名前。しかし、私にはそれ以上に彼女に似合う名前を思いつけそうになかった。
「よろしくお願いします」
私が【はい】を選択すると、彼女はにこりと微笑んだ。それは自らに与えられた名を受け入れたということに他ならない。
──こうして、彼女は『陽彩』になった。
「それじゃあ、ルナさん。行きましょう!」
陽彩は元気よく声を上げると、私を連れて歩き出した。
私からは少し前を歩く陽彩の後ろ姿しか見えないけど、彼女のスタイルには目を見張るものがある。
流れるように垂れる黒髪の隙間から覗く、肩甲骨周りのブレザー生地はピンと張り、少し下、肋骨の辺は張力に耐えかねてひだを打つ。
ブレザー前面のボタンを無理矢理留めていることで生じるこの現象は、服の奥に包み隠されたおっぱいの大きさを浮かび上がらせる魔法。その双丘の姿を直接拝むことが出来なくとも、強者は背中で語ってくれるのだ。
彼女の身体のくびれに合わせて視線を落としていくと、上着の裾を外側へと大きく押し広げてしまうほどのお尻で視線が引っかかる。遠くから見ても存在感を放つ臀部のシルエットが、一歩踏み出すたび、情動を煽るように左右にふりふりと揺れる。
先端まですらりと伸びる腕、真っ白なソックスが覆うふくらはぎ、肌艶よく肉付きもいいむっちりとした太腿。
見てるだけで、こう……ムラっとくるものがある。乱暴に言ってしまえば、彼女の身体は「エロスを煽るために生まれてきたような身体」だ。
少し離れた所にいるというのに身体の細部まで目についてしまうし、『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』ではないけれど、着ているただの制服さえもエッチな服装なように感じられる。
心の中にむくむくとトキメキが溢れてくる。
彼女自身と同化し、身体を私自身のものとしたい。彼女の柔肌に彼女の細い指を乱暴に埋め、その豊満な身体を彼女自身の手で貪りたい。
どうしようかな? やっちゃう? やっちゃおうか!
だって、その為の
それに、自分に嘘はつきたくない。この衝動は私の大好きなものなのだから!
「それでは、いただきます」
私は最大限の感謝の言葉を述べて、スキルを発動した。発動方法は全く分からなかったけど、心の中で念じるとどうやらそれで合っていたよう。
身体が幽霊のように半透明になり、感覚を失い、陽彩の身体へと吸い込まれてゆく。そのまま私の彼女の身体が完全に重なった。
感覚が、戻ってくる。しかしそれはさっきの感覚とは違う。
爽やかなシャンプーの香りが鼻をくすぐり、両肩には新鮮な重みがのしかかる。その発生源に目をやると、パンパンに膨らんだブレザーに阻まれ、足元が見えない。初めてで、そして一生味わうことのなかったであろう経験。「両手を結んで開け」と頭で命じると、すらっとした手がグーパーする。ついでに腕をさすってみると、ツルツル、すべすべ。私の肌とはまるで違う。
「これは……!」
そう呟くと、鈴を転がすような声が私の体内に響く。
間違いない。これはまさしく、陽彩の身体! ついに、成し遂げた……!!
「この身体、私が乗っ取ったぁ!!!」
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