第4話 結 ~ハイテンションなラストバトル~
進撃は壮絶を極めた。
「ウガアアアアアッ!」
咆哮をあげ、襲い掛かってくるオーガ。体長は二メートルほどもあるだろうか。
筋骨隆々の鬼たちが、金棒片手に駆けてくる。
俺は言った。
「やっちまえバイオゴリラ!」
「フンゴルゥォオオオオオオオ!!」
体長四メートルの緑のゴリラは唸りをあげて、手足をぶん回し鬼たちをぶっ飛ばす。後ずさりした鬼の足をつかんで振り回し、地面にたたきつけていく。
「それいけ翼竜(ワイバーン)!」
「アンギャァラァアアアアアアア!」
鬼たちのはるか上空で、翼竜が炎のブレスを吐き出した。火炎はアリクイが舌でアリを舐めとるようにして、鬼の集団を焼き尽くす。
「蹴散らせ、ケルベロスっ!」
「ウォオオオオオウンッ!ウォンウォンウォーーーン!!」
俺を号令に、ケルベロスは三つの頭すべてで答えた。その巨体が疾走するだけで、オーガたちは手出しも出来ずに轢かれていく。
「ひいいいいい」
「ひどいいいいいいいい」
逃げ惑うオーガ。
ふははははっ、鬼どもがゴミのようだー!
もちろん、俺だってただ命令していただけじゃない。一応、弓矢で参戦はしていた。
桃尻太郎、鏑(かぶら)を取つてつがひ、よつぴいてひやうど放つ。小兵(こひょう)といふぢやう十二束三伏(じゅうにそくみつぶせ)、弓は強し、浦(うら)響くほど長鳴りして誤たず、逃げ惑う子鬼どもの背中をひいふつとぞ射切(いき)つたる。
いっぱいいるからデタラメ射ちまくってもプスプス当たるし、巨大な犬の上からなので反撃もこないしね。ぷすぷすいくよー!
「リンちゃーん! どこだー!? りぃぃいいーーーん!」
「む、桃尻太郎よ、あそこに小屋のようなものがある」
ケルベロスの三つある頭の内、ひとつがそれを教えてくれる。たしかに、原始人まるだしのオーガ島に、昔ヒトが建てたものだろう、ポツンと一つ小屋があった。
きっと、あそこにリンがいる。
見張りのような鬼はいない。俺はケルベロスの背中を降りて、小屋へ駆け寄った。
全力疾走。むき出しの素足が砂利を踏む。
ザクザクザクザクべちんべちんびたんびたん
「リンちゃーん!」
ザッザッザッザッびったんびったんびったん
「リンちゃん! ここかぁっ!」
思い切り、扉を開く。やはりそこに、エルフの美少女の姿があった。縛られてはいないが、子鬼二匹に囲まれている。俺を見てリンはすぐ顔を輝かせた。
「桃尻太郎! きてくれたか!」
「当然ですっ! ロリコンですから!」
「待っておったぞ! ところでさっき、駆けつけてくるとき、足音とともに聞こえたベチンビタンと何かをビンタするような音は何の音じゃ?」
「走れば鳴って当然です! 全裸ですから!」
リンは首をかしげたが、解説している暇はない。目の前の子鬼をなんとかしなくては!
俺の身長の半分ほどしかない子鬼らは、俺という乱入者に戸惑い、キキイと悲鳴を上げた。
だが取るに足らぬヒト風情と判断したのだろうか、すぐに背を向け、リンのほうへ向き直って、
「キキッ。邪魔が入ろうとも関係ないゾ。お前はココでオレたちにモテアソバレて、鬼の子を孕むのグァ」
なんという御馳走――もとい、卑劣なセリフ。しかしリンは怯まなかった。エルフ族の姫は細い眉を吊り上げ、気丈にも顎を引いて見せる。
「ふん。下種どもが。好きにするがいい。そんなことで我の魂は穢れはせぬ。貴様らにはじきに、森の精霊の裁きが下ろうぞ」
「ヌアアアアアアアッちがうゥウウウウッ!」
子鬼たちが絶叫する。
「そこ許容しちゃダメ! 簡単にあきらめちゃダメだって! もっと泣き叫んでいやがってくれないと盛り上がらないだろうグァ!」
「もしくは『くっ殺』! どうせ気を張るなら穢されるよりも殺せと言ってくれ!」
「さあ! リピィートアフタァミィー!」
「知るか! なんじゃお前らさっきから同じようなことを延々と。なぶるならばさっさと犯せと言うておろうに、手出しもしないでセリフや所作を細々指示してきおって」
「大事なとこだから! コレ大事なとこだから!!」
「やかましいわ下郎っ! これは演劇の講習か? 姉上たちのドッキリか!? なんでわたしが貴様らの用意した台本を読まなければならんのじゃーっ!」
ちっちゃいもん三匹で喧々諤々。かわいい。
「――のう、桃尻太郎!? お前からも何か言ってやれ!」
「え? あ、うん。まあ……結果的にリンちゃんが無事ならそれで。内容としては俺も小鬼たちに同意だし」
「変態三兄弟が、話にならぬわっ!」
助けに来たのにこの罵倒(ごほうび)。本当にありがとうございました。
俺はリンに向かって、ぽいと弓矢を投げ渡した。以心伝心。すぐにリンは矢をつがえ、いかにも熟練の狩人といった手つきで小鬼の眉間をブスブス射抜く。あまりの早さにこわばる間もなく、二匹の小鬼は倒れていった。
さすがエルフ、日常的に使っているだけあって俺なんかよりよほど上手いね。
「リンちゃん強ーいキャーステキー」
「……どうも。……桃尻太郎よ、お前には、こう、男のプライドとかそういうものはないのか」
「そんなもんよりリンちゃんが助かるほうが絶対大事でしょう。でたらめメッタ射ちならともかく、この至近距離だからこそ求められる精密射撃なんてできませんよ。一匹しとめてももう一匹に襲われる」
「……。存外、理知的な男よ。全裸のくせに……」
リンは嘆息すると、ふと小さな笑みを浮かべた。
「来てくれてありがとう。……本当に嬉しい。……とても……怖かったのじゃ」
碧の瞳が細められ、ほんのかすか、うるんで見えた。レモンイエローの睫毛が、赤い目じりを縁取っている。
「期待はしておった。きっと来てくれると。しかしこんな早くにとは、思ってもおらず……覚悟をしておった。はあ。今更、心臓が痛い」
胸に手を当て、リンは言う。その掌が、服の形を歪ませた。……まるきりぺったんこかと思いきや、凹凸があるようなないようなあるようなないような。
「……む。外が騒がしいな。桃尻太郎は仲間連れなのか? ならばわたしも合流しよう。お前の連れが心配じゃ」
うあああんリンちゃんイイコすぎてつらい。
俺の横を抜け小屋から飛び出すリン。俺はしばらく立ち上がれずにモダモダしていたが、やがては開き直り、勃ち上がったままで立ち上がった。
いくら弓を持っているとはいえ、リンをオーガらの前に出すのは怖い。
やっぱり女の子だもの。ノーパンだし。
ていうか……たぶん、リンの加勢はもう要らないと思うんだよな。
などと考えながら、俺も小屋から出て行った。
その眼前には、案の定――
「ウァグルルルルウウウァァァアアアア」
「ゴォオオオオオオオオオオオオオオ」
「シャギョォオオオオオオオオオオオン」
「……桃尻太郎、お供強すぎィ」
暴れ狂う魔獣たちと、呆然とつぶやくリンちゃんの姿があった。
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