02
「舞花もきっと修二お父様がお店に行ったら喜ぶと思いますのよ。なんといっても私のお父様ですもの
」
「そうだといいけどね」
「まずは私と一緒に参りましょう?舞花は修二お父様の顔は覚えていると思いますけれど、より一層印象深くするために。それに、その後に一人で行ったほうが舞花に会いに来たと思い込ませるにはいいはずですわ」
「なるほど、雪花は悪だくみが得意だね」
「まあ、人聞きが悪いですわね。在原の嫁に相応しいとおっしゃってくださいませ」
「確かにその通りだ」
私と修二お父様は血が繋がっていないはずなのに、とても似た笑みを浮かべました。
* * *
「いらっしゃいませ、在原様」
「ご機嫌よう」
一週間後、私と修二お父様は銀座の高級クラブにやってまいりました。もちろん警護の者もいますが、私は以前よりもドレスアップして修二お父様の腕に自分の腕を絡ませての入店です。
今日は舞花が同伴出勤出ないことは確認済みですのでこの姿を見ているかもしれませんわね。
「今日は父と参りましたので、何人か女の方を付けていただけるかしら?」
「かしこまりました」
いつものように奥の席に通されると、すぐさまママさんがいらっしゃいます。遅れて何人かの女の方がいらっしゃいますが、舞花の姿はありませんね。
「ママさん、この店の一番人気の方ってどなたですの?」
「それは……」
「マイちゃんですよ」
言い淀むママさんの代わりに席に着いたホステスさんが答えてくださいます。
「ではその方をお呼びくださいますか?修二お父様、よろしいでしょう?」
「ああ、構わないよ」
ママさんは躊躇ったような素振りを見せましたが、修二お父様が呼ぶように再度おっしゃったので舞花を呼ぶように黒服さんに伝えます。
そうしますとすぐさま舞花がやってきました。一瞬だけ私を親の仇でも見るかのような目で見てきましたが、すぐに営業スマイルで修二お父様の横に座ります。
「こんばんわぁ、マイですぅ。今夜は来てくれて嬉しいですぅ」
私のことは完全に無視のようですわね。まあ構いませんけれども。
「今日はじゃんじゃん飲んで楽しんで行ってくださいね。マイとことん叔父様にお付き合いしちゃいます」
「いやぁ、可愛い娘さんだね。娘の雪花と同い年ぐらいかな?」
「そんなぁ、女の子に年を聞いちゃだめですよぉ」
「これは失礼、ついね。雪花がもしこのような仕事をしていたら私は心配で心配でたまらないのではないかと思ってね。ああ、いや君たちの仕事を馬鹿にしているわけではないんだよ。一人の親としての心配だ。君のご両親は何も言わないのかな?」
「えぇ、マイのこと覚えてくれてないんですかぁ?ショックぅ」
「おや、どこかであったかな?こんなかわいい娘さんを見たら忘れるはずがないと思うんだけどな」
「会いましたよぉ。でもぉ許してあげます。そのか・わ・り、またマイに会いに来てくださいよぉ」
舞花がそうやって修二お父様に秋波を送るのを私は素知らぬ素振りで見ています。舞花が私を無視するのですから、私も無視いたしますわ。
ここで懇親会の時のように暴れられても困ってしまいますもの。
それにしても、こうしてみてみますとなるほど、舞花と他のホステスの方々の間には溝があるように感じますわね。ここに集められたのはこの店でもトップクラスの方々でしょうし、調べた限りでは皆さま舞花にお客様を寝取られた過去がございますものね。
「それにしても皆様お綺麗ですわね。その秘訣をお聞きしたいですわ」
「まあ、お嬢様こそお綺麗です。私共の方こそその秘訣をお聞きしたいぐらいです。ねえ皆」
「まあ、お上手ですこと」
私は私の方でホステスの方々とコネを作っておきましょうか。私はホステスの方と和やかに会話をしながら、すっかり修二お父様を独占した舞花の様子を見ます。
あの顔は私の友人を奪ったときと同じ顔ですわね。自分のものになると信じ切っている顔ですわ。
「でも、こういうご職業って大変なんでしょう?いろいろな知識が必要になりますものね、尊敬いたしますわ」
「在原の婚約者でいらっしゃる雪花様には負けますよ」
「そうですよ、雪花様のお噂は私共の耳にも届いておりますもの」
「まあそうなのですか?お恥ずかしい、みっともない噂でなければよいのですけれども」
「まさかそんな、全て素晴らしい噂ばかりですよ」
「そうだと嬉しいですわ」
今回席について私の対応をしてくださっている方々とはお名刺の交換させていただきました。もちろん舞花とは交換しておりませんわ。だって一言も話しておりませんもの。
結局その日は舞花は修二お父様を独占して、帰りも自分の腕を絡ませてお見送りをしておりました。
「いかがでした?」
「中々に面の皮が厚いと思ったよ。明後日にでも早速また行ってみようと思う」
「明日ではないのですか?」
「明日だとあからさまだろう?だから一応一日開けるんだよ」
「なるほど」
「そっちはどうなんだい?綺麗なお姉さんたちと随分仲良くしていたようだけれど」
「色々と勉強になりましたわ。なによりも人心掌握術と申しますか接客態度と申しますか、流石はプロだと思いましたわ」
「それは良い勉強になりそうだね。今後も通う予定かな?」
「ええ、申し上げましたでしょう?しばらくは夜遊びをしますと」
「そうだったね」
修二お父様は酷く楽しそうにお笑いになられました。こういう笑みは初めて見ましたが、中々に様になっていらっしゃいますね。流石は修二お父様ですわ。
* * *
「ご機嫌よう」
「いらっしゃいませ、在原様。お席にご案内いたします」
「ええ、お願いしますわ」
私は今日は一人で銀座の高級クラブにやってまいりました。
相変わらずママさんが付いてくださいますが、今回からは普通にお姉さま方にもついていただいております。
「そういえば先日お父様がいらっしゃってましたよ」
「まあそうですの?修二お父様ってばきっとこの店が気に入りましたのね」
「気に入ったのはマイちゃんではないかしら?」
「マイさんというのは、先日修二お父様のお相手をしてくださっていた方ですわね」
「ええ、この店で一番人気の子なんです」
「私と同い年ぐらいなのにすごいですわ。けれど、お父様もお気になさっていましたけれど、彼女のご両親は何も言わないのでしょうか?」
「それがここだけの話、彼女のご両親がホステスになるように勧めて来たんですって」
「まあ!そうなのですか?」
「なんでも借金を背負って首が回らなくなってしまったからだとか。あと、彼女ああ見えて人妻なんですよ」
「そうなのですか?見えませんわね」
「それも子持ちなんです」
「ますます見えませんわ」
まあ、全部知ってますけれどもね。それにしても実の両親がホステスになることを薦めていたとは流石に知りませんでしたわね。借金に関しては会社の負債ですのでどうしようもありませんが、娘に稼がせるとはひどい話しですこと。
まあ、縁も切っておりますので関係はございませんけれど。
「ご主人様は何をなさっておいでなのですか?」
「さあ?あんまり旦那さんのことは話しませんからわかりませんね」
「そうなのですか。ぜひ聞いてみたかったのですが、どなたか今度聞いておいていただけますでしょうか?」
「そうですね、それとなく聞いておきますね」
まあ、アルバイトもろくにできない穀潰しだなんて言えませんでしょうし、なんていうのでしょうね。
さて、あとは修二お父様の方ですがうまくやってくれてますでしょうか?あと何回か通うとおっしゃってましたしまだ時間はかかりそうですわね。
私もその間に色々と情報を集めてみましょうか。こういうことも在原の嫁になるための準備のような物ですものね。
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