妹が面倒ごとを起こしているのでどうにかします 01

※この世界では16歳以上で飲酒可能及びホステスなどの職業に付ける設定です。


 皆様覚えていらっしゃいますかしら?私に敵意を向けてきている方がいらっしゃったことを。その方々は今のところ基本的には大人しくなさっておいでなのですが、たまに嫌味を言ってくるのですよね。


「ご機嫌よう雪花様、貴女の元妹さんですけれども、随分派手にやらかしていらっしゃるみたいですわねぇ」

「まぁ、なんのことでございましょう?」

「銀座のホステスになったのはいいけれど、お仲間のホステスとはトラブル続き、枕営業もしていらっしゃるようで、私だったら縁を切ったとはいえ恥ずかしくて仕方がりませんわ」

「……そうですの。けれども縁を切っておりますので、その後のことなど分かりかねてしまいますわ」


 舞花ってばせっかくホステスになれたというのに、まだ私に迷惑をかけるのでしょうか?本当に厄介な娘ですわね。

 私だけではなくこのままでは宗也様にまで迷惑が掛かってしまいますわ。どうにかしないといけませんわね。さて、どうしましょうか。


* * *


 私は護衛を連れて銀座にやってまいりました。直接舞花の働きぶりを見るためですわ。

 舞花が働いているのは銀座でも屈指の高級クラブですわね。よくもまぁ雇ってもらえたものですけれども、顔と成績だけはいいですから、最初の内は良かったのかもしれませんわね。それに私から取った友人とはうまくやっておりましたし、外面は良いのですわよね。

 お店に入りますと、黒服の方に少し驚いたような目で見られてしまいましたが、すぐに訳ありと判断されたのか奥の席に案内されました。

 少し待つと品の良い女性、恐らくはこの店のママでいらっしゃるであろう方がいらっしゃいました。


「ご機嫌よう」

「いらっしゃいませお嬢様。当店に何か御用でございましょうか?」

「少しお話を聞きたい人が居りますのよ。源氏名はわかりませんけれども舞花という娘の事でございますわ」

「マイちゃんのことですか?」


 ママさんは困ったような顔で周囲を見渡した後に、笑みを浮かべて首を振ります。

 なるほど、簡単には教えてはくれそうにもありませんわね。


「私、在原雪花と申しまして、舞花の元姉でございますの。在原家の次期当主の婚約者と言えば話が早いでしょうか?」

「在原家の……雪花様でいらっしゃいますか」


 流石にご存知のようですわね。


「ええ、ですからここで聞いたことは他言しないと誓いますわ。私と致しましても、元妹に厄介事を起こされるのは困ってしまいますの。縁を切っているとはいえ、社交界には私の経歴を知っていらっしゃる方が多くおりますので」

「然様ですか。マイちゃんは当店でも人気の子ですよ」

「人気なだけですか?仲間のホステスの方とトラブルが続いていると聞きましたけれども」

「それは、マイちゃんにお客を取られてしまったこと揉めてしまっているだけで、よくある話ですよ」

「そうなのですか?枕営業をしているとも聞きますけれども、このお店ではそれは認めていらっしゃるのでしょうか?」

「それは…」

「…なるほど、それは各個人にゆだねていると言ったところなのですね。それで舞花はその枕営業で先輩ホステスの方々のお客様を取っていると」

「……ええ、まあ」


 酷く言いにくそうですけれども、それはそうですわよね。在原の名を使わなければ絶対に言いそうにない情報ですものね。


「そのお客のリストはございまして?」

「申し訳ありません、それは流石にご用意できかねます」

「そうですか、それではこちらで勝手に調べさせていただくのみですがよろしいでしょうか?」

「そのようなことをして雪花様にどのような意味があるのでしょうか?」

「意味ならありましてよ。舞花が何かをすると巡り巡って私に迷惑が掛かってしまいますの」

「……三日ほど待っていただければご準備いたします」

「そうですか、ではよろしくお願いいたしますわ」


 そう言って私は席を立ちました。ママさんにはこう言いましたが、私の方でも調べておくに越したことはございませんわね。

 といいましても、修二お父様のお力をお借りすることになるのですけれども。


* * *


 三日後、私はまたお店にやってまいりました。すぐさま奥の席に通されてママさんがやってきました。手には封筒を持っていらっしゃいますので、リストをお約束通りご準備してくださったのでしょう。


「ありがとうございます」

「いえ、ただしこの情報は…」

「もちろん外には漏らしませんわ。私にとってもアキレス腱ですもの。そうそう、今日は舞花は来ているのかしら?」

「マイちゃんですか?今日は同伴ですのでまだ来ていませんけど」

「そうですか、遠目にでも顔を見てみようと思ったのですが残念ですわね」


 本当に残念ですわ。あの面の皮の厚さでどのような接客をしているか見たかったのですけれども。


「あ…」

「何かしら?」

「マイちゃんが来たようです」

「そうですか」


 私はママさんの見ている方向に目を向けますと、観葉植物の隙間から濃い化粧をした舞花の姿が見えました。

 すっかり夜の蝶になっているようですわね。

 こうしてみると、やはり私と似ているのでしょうか?使用人の手で超絶美少女になった私にどこか似ているように感じられます。

 一緒に入っていらっしゃったのは……なるほど、私に因縁をつけてきた方のお父様でいらっしゃいますわね。なるほど、それで私にあのような嫌味を言ってきたのですか。

 そう考えるとお気の毒といった感じですし、同情の余地もあるのですが、それならばそうだと言っていただければよかったのに、遠回しな方でいらっしゃいますわね。


「舞花、よくやっているようですわね」

「はいそうですね。マイちゃんはうちでも人気の子ですよ」

「枕営業の結果でもあるのでしょうけれどもね」

「……それは」

「ああ、構いませんのよ。では用事も済みましたのでこの辺で失礼いたしますわ。舞花の無事も確認できましたし、安心いたしました」


 本当に元気そうで何よりですわ。それでこそ舞花というものです。

 さて、家に帰ったらさっそくリストを照らし合わせてみましょうか。抜けがあったら大変ですものね。


 家に帰ってリストを見ていると、部屋のドアがノックされました。「どうぞ」というとなんと珍しく修二お父様がいらっしゃいました。

 私はリストを伏せて笑顔でお出迎え致しますと、修二お父様はリストにちらりと視線を向けました。


「夜分遅くすまないね。娘が夜遊びをしていると聞いて父として心配になってきてしまったよ」

「まあ、それはご心配をおかけいたしました。もうしばらくは夜遊びをしようと思っておりますが、もしよければ修二お父様もご一緒いたしますか?」

「宗也はいいのかな?」

「宗也様にもお声をおかけしたのですけれども、今回の件は私に任せてくださるとのことでした。とはいえ、危なくなったらちゃんと言うようにとおっしゃっておいででしたけれども」


 私はお父様にソファに座るように勧めて、使用人にお茶を淹れるように指示を出します。


「舞花がトラブルを起こしているようで、学院で私に嫌味を言ってくる方がいらっしゃいますの。これ以上そのようなことがないように潰しておこうと思いまして、……修二お父様はどうお考えになりますか?」

「そうだな、そう言った芽は早めに潰すに限るね」

「そうですわよね。今は舞花が枕営業をした方のリストを照らし合わせておりますの。修二お父様のお力をお借りして調べたものと、ですけれども」

「なるほど。私が見ても構わないものかな?」

「私が調べた物の方でしたらどうぞ。こちらのリストは他言しないとお店のママさんとお約束しておりますの」

「そうかい」


 そう言って修二お父様は私が調べたほうのリストを見ます。


「なるほど、中々に大物を捕まえているようだね。流石というべきかなんというべきか」

「驚きですわよねえ。その方々のほとんどにとって舞花は娘と同じぐらいの年齢でしょうに」

「なに、男なんて単純なものだ。さて、私は何を協力すればいいかな?」

「そうですわねぇ。お父様には囮になっていただこうかしら?舞花のお客になるというのも面白いと思いませんか?舞花のことですもの、きっと私のお父様を奪おうとするはずですわ。どんな方法を使ってでも」


 そう、絶対に舞花は私のものを欲しがるのですから、間違いはありませんわ。

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