06
家に帰りますとまず、修二お父様にご挨拶をいたします。修二お父様は家でお仕事をなさっていることが多いので、挨拶は欠かせませんのよ。なんと言っても私を引き取ってくださった方ですもの。
「修二お父様、今帰りましたわ」
「お帰り雪花、今日も無事に帰宅できたようで何よりだ」
「ご心配には及びませんわ、宗也様が付いておりますもの」
「その宗也が心配なのだけどもね」
「何のことでしょうか?」
「帰宅途中に襲われるんじゃないかって心配しているんだよ」
「まあ、くすくす。修二お父様ってば心配性ですわね、流石の宗也様でもそこまではしませんわよ」
「そこまでは、ね。まあ仲良きことは良きことかな。でもくれぐれも避妊はしておくように」
「分かっておりますわ。ピルもちゃんと飲んでおります」
「だったらいいけどね」
本当に修二お父様ってば心配性ですこと。
さて、修二お父様にご挨拶をいたしましたら着替えに部屋に戻ります。今日の気分はラフな格好ですので、そのように使用人にお伝えいたしまして、着替えを用意していただきます。
この家に来てからは毎日このような感じで、自分で何かをするという機会はすっかり減ってしまいましたわね。
まあ、在原の家の女主人になるのですから、そうでなくてはいけないのかもしれませんが、一応一通りできるように仕込まれはしますのよ。とはいっても、もともと仁木家で仕込まれておりますのでその辺は抜かりなくと言ったところでしょうか。
着替えが終わったら宗也様のお部屋に参ります。特にお約束しているわけではありませんけれども、日課になってしまっておりますのよ。その日の課題を持って行くこともございます。幸い今日の課題は休み時間中に片づけてしまいましたので、特にありませんけれども。
「宗也様、よろしいでしょうか?」
「おいで雪花」
「はい」
ソファに座っていらっしゃった宗也様の胸に飛び込むような形で私は抱き着きに行きます。宗也様も鍛えていらっしゃいますので、私のことを楽々と受け止めてくださいますのよ。
抱き着いてスリスリと硬い胸板に顔を擦り付けて宗也様エネルギーをチャージいたします。なるほど、学校とはまた別ものですわね。
「宗也様、今日は課題は残っておりますか?」
「いや、もう済ませてある」
「流石は宗也様ですわ。私ももう今日の分は終えておりますのよ」
「そうか、じゃあ夕食までは自由時間だな」
「そうですわね」
チュッチュ、とバードキスをされて目を閉じますと、今度は唇にキスをされます。何度キスをされても心地がいいものですね。
ちなみに、宗也様とのキスがファーストキスになっております。大和様とはそういったことは一切しておりませんのであしからず。
そんな感じに宗也様といちゃついているといつの間にか衣服が乱れてしまうのが困りものなのですが、ラフな格好にしておりますので、直すのも簡単ですわ。
決してこれが目的でラフな格好にしたわけではありませんのよ。
さて、そうしているうちに夕食の時間になってしまい、使用人が呼びに来ます。
夕食は家族全員で、と言いたいところなのですが、宗也様のお爺様とお婆様はいらっしゃいますが、お父様とお母様はお忙しくなさっていることが多く、相席できないことがほとんどでございます。その代わりに修二お父様がいらっしゃるのですけれどもね。
「んんっ、宗也目立つところに後をつけるのはいかがなものかと思うぞ」
「どうせメイクで隠すじゃないですか」
「そう言う問題じゃないだろう。まったく、どこで育て方を間違ってしまったんだろうなあ」
「修二叔父さんの育て方が悪かったんじゃないですかね」
「おや、それは心外だな」
あら、もしかして首筋あたりにキスマークでも残ってしまっているのでしょうか?宗也様ってばたまにそういういたずらをなさいますのよね。
それに、本当にたまにですけれども使用人に隠さないように指示を出してキスマークを付けたまま登校させられることもあるんですのよ。困ったものですわ。
* * *
「あ、雪花お姉様」
「なんでしょうか?」
私は今日も今日とて玉串の雑務に追われていますと、望さんが私の方を見て、正確には首元を見て顔を赤くしていらっしゃいます。
「首に、その…」
「ああこれですか?ちょっとしたいたずらの名残ですのでお気になさらないでくださいませ」
「い、いたずらですか?」
「ええ」
「雪花お姉様の肌は白いですから目立ってしまいますね」
「そうでしょうか?…渚様もそう思いますか?」
「思いますけれども、もう触れないようにしておりましたので話を回さないでいただけますかしら?望さんもこのことについては深く突っ込んではいけませんわよ」
「そ、そうですか。わかりました」
また宗也様のいたずらですわね。純粋な望さんにはまだ早かったかしら?
「えっとえっと、そうだ雪花お姉様。私思うんですけれどもっと人手を増やしたほうがよくないですか?流石に三人では仕事が多すぎると思うんです」
「そうですわねぇ。けれども中々人材が見つからなくて」
「それなんですけど、雪花お姉様ファンクラブの人でいい人がいるんです」
「ファンクラブ…」
「あら、ご存じなかったの?結構前からありますのよ」
「渚様、ご存じなら教えて下さればよろしかったのに」
「非公認だったものですから」
「もし公認されたらもっともっとお姉様のお役に立って見せます!」
「そ、そうですか」
これは困ってしまいましたね。
公認しておいた方がよさそうな気がいたしますけれども、公認したら何をされるかわかりませんわよね。
「そうですわね、そのファンクラブの詳細や活動内容を教えてくださいますか?それを見て規律なども考えた後に公認するか考えますわ」
「わかりました!お任せください!」
「それで、補佐の仕事を手伝ってくださるという方はどのような方なのでしょうか?」
「私の一個上の先輩なのですけれども、
「そうなのですか、まあ望さんのご紹介でしたら信用いたしますわ。明日にでもお連れしていただけますか?」
「かしこまりました!」
翌日、望さんが連れてきていらっしゃたのは、まじめそうな女生徒さんでいらっしゃいましたが、私を見ると顔を赤くしてもじもじとなさってしまいました。
「は、初めまして雪花お姉様。私は新貝珠樹と言います。どうぞ珠樹とお呼びください」
「珠樹様でよろしいかしら?」
「様付なんていらないです!」
「では珠樹さんですわね」
「はい。雪花お姉様のために身を粉にして働く所存です」
「そこまで気合を入れなくても構いませんわよ。雑用も多いですし、嫌なことがあったらすぐに言ってくださいね」
「はいっ」
「では望さん、珠樹さんに案内をして差し上げてね。お茶の準備などもしていただくようになるお思いますし」
「かしこまりました」
望さんと珠樹さんが少し離れた間に、望さんが早速持ってきてくれた非公認ファンクラブの活動内容や規約などを呼んでいきます。これは玉串としての業務外なのですが、私の予感が早めに片づけておかなければならないと告げておりますので、こうして読んでいる次第でございます。
なるほど、確かに私のファンクラブですわね。玉串になる前からあったようで驚きですけれども、規約などは流石は名門校の女生徒が作ったファンクラブなだけあって問題はなさそうです。
これでしたら公認してもよさそうですわ。
「ところで渚様」
「なにかしら?」
「どうして渚様もファンクラブに入っていらっしゃいますの?しかも名誉会員だなんて」
「あら、だって私は雪花様の数少ない友人ですもの。別に入りたいと言ったわけではないのですけれども、入って欲しいと言われたので仕方なく入りましたのよ」
「そうですか」
尚更もっと早く言っていただきたかったものですわね。
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