05

 玉串になって公私ともに宗也様のパートナーとなたわけなのですが、思いのほか雑務が多いのが悩みどころです。スケジュールなんてまさに過密で、これでは宗也様とデートもなかなかできませんね。

 けれど、前任の玉串様に補佐役がいたように私にも補佐役がいらっしゃいます。そう、渚様です。渚様はなんだかんだ言ってお手伝いしてくださるツンデレさんでいらっしゃいます。


「渚様、この書類なのですが、計算が合っていないようなので確認をしていただけますか?」

「またなの?あそこの会計はいっつも適当ですわね。あ、例のデータですけれど送っておきましたので確認をしていただける?多分間違ってはいないと思うのだけれど、時間のスケジューリングが微妙なところがあって…」

「わかりました確認しておきますわね。あ、そうだ渚様」

「なにかしら?」

「これが終わったら流石にお茶にいたしませんか?宗也様も一区切りつきそうですし」

「そうですわね、そういたしましょうか」


 本当に、総代や玉串には休みが必要だと私は思いますわよ。これでテストや行事を乗り切っていらっしゃる宗也様を改めて尊敬してしまいます。

 そうそう、宗也様と言えば家に仕事を持ち込むのを禁止したせいか、家では以前にも増して接触なさってくる機会が多くなったように感じます。修二お父様がストップをかけることもよくあるんですよ。

 流石に私も、寝室までお姫様抱っこで運ばれるのは恥ずかしいのですが、宗也様はそれが最近はお気に入りのようなのです。誰かに入れ知恵されてしまったのでしょうか?


 そういえば、最近下級生が私のことを玉串様ではなくお姉様と呼んでくるのですがどうしてでしょうか?渚様曰く、それっぽいからだそうなのですがわかりませんね。

 使用人の手によって超絶美少女になっているはずなのですが…。あ、あとよく女生徒からラブレターもいただくようになりました。もちろんすべて丁寧にお断りしておりますが、私が宗也様の婚約者だとわかっているはずなのに、皆様どうしてそのようなことをなさるのでしょうね?不毛なのではないでしょうか?


「そういうお年頃なのですわ」

「そういうものなのでしょうか?」

「雪花は美少女だが凛としているからな、そう言ったのが好きな下級生方はモテるんだろう」

「そういう宗也様もラブレターはたくさんもらっていらっしゃいますわよね?」

「俺はすべて無視しているけどな」

「婚約者としては喜ばしいやら、なんとやらですわね」

「渚様もラブレターを貰っていらっしゃいますわよね、男性から」

「ええ」

「私は男性からラブレターを貰ったことはないのですが、どんな気分なのでしょうか?」

「特には。私にも婚約者がおりますし、全てお断りしていますわ」

「そうなのですか」


 まあそうですわよねえ。通常はそうなりますわよね。そう考えますと、大和様の行いがどれほど非常識だったかがわかりますわよね。

 そういえば、不肖の妹はどうやら無事に出産を終えたそうで、名実ともに仁木家の新妻となったようでございますわ。子供は男の子だそうで、仁木家でこれで安泰と思っているようですけれども、どうなのでしょうかね?


* * *


「雪花お姉様。これ受け取ってください」

「ごめんなさい、こういったものはお断りしておりますの」

「そんなぁ、今日もですか?」

「本当にごめんなさいね」


 私は今朝も校門で待ち伏せをしていた女生徒から差し出されたお弁当をお断りしております。この子はここのとこと毎日ここで待ち伏せをしている子で、毎日このやり取りをしているのですがなかなか懲りない子なのですよね。

 調べたところによりますと、中等部二年生の学年トップの子だそうで、頭の回転は速くお顔立ちも可愛らしいのに、どうも男性に興味がないという噂ですわね。まあその噂も私に対する態度が原因のようなのですけれども。

 そういえば、下級生にお姉様と言われるようになったきっかけはこの子がきっかけだったように思いますわね。初めて校門前で「雪花お姉様」と言われた時はさすがに驚いてしまいましたけれども、よくよく見れば可愛らしい方だったのでそれを許してしまったのが事の始まりだったのかもしれませんわね。


「とはいえ、有能な子を遊ばせておくのももったいないですわよね」

「雪花お姉様のお手伝い、がんばります!」

「と、言うわけで今日からこの子、木原望きはらのぞみさんが玉串の仕事をお手伝いしてくださることになりましたわ」

「そうなの?私は藤原渚ですわ、よろしく木原様」

「望で結構です。様付けもいりませんわ、藤原様」

「そう?では望さん、改めてよろしくお願いいたしますわ」

「はい!雪花お姉様のためにがんばります!」

「では早速ですがこちらの嘆願書を日付順にまとめてくださいますか?」

「かしこまりました!」


 望さんが作業を始めたのを確認して、私と渚様はパソコンの画面を一緒に見ながら作業を進めていきます。そうしますと、渚様が小声で話しかけてきました。


「あの子を後釜にするおつもりですの?」

「さあ?けれども毎朝校門の前で待ち伏せされるよりはましかと思いまして」

「それは確かに。けれど同じようなことをする子が現れるかもしれませんわよ」

「それは困りますわね。けれども能力が伴っていない子を引き入れるつもりもありませんわ。正直諸先輩方に雑務をお願いするのは気が引けておりましたので助かりますわ」

「確かに、先輩に雑用をお願いするのは躊躇われますわよね」

「優秀な方々が多いのに残念ですわ」

「けれど、在原の家にお嫁に入ればそのようなことも言ってはいられないのではありません?」

「それはそれ、これはこれですわよ。ちゃんと切り替えは致しますわ」

「それでこそ雪花様ですわね」


 こそこそと話しながらも仕事をこなしていきまして、本日の業務は無事に終了いたしました。


「皆様ご苦労様です。本日はここまでに致しましょう」


 そう言えば渚様や望さん、宗也様のお手伝いをなさっていた方々が帰宅なさっていきます。私と宗也様も帰宅をしようと思ってバッグを持ち上げたところで急に後ろから抱き着かれてしまいました。

 宗也様、思わず鳩尾に攻撃を仕掛けそうになりますのでこういうことは控えていただきますようお願いしておりますのに、懲りないお方ですわね。


「どうかなさいましたの?」

「今日は雪花が構ってくれなかったからエネルギーチャージ中」

「まあ、不思議なことをおっしゃいますのね。家に帰ればいくらでも出来ますでしょう?」

「制服姿の雪花との学校でのチャージは別物」

「そういうものですか」


 私はクスクスと笑って前に回された腕に自分の手を重ねます。実のところ私も宗也様エネルギーが足りなくなっていたのでちょうどよかったのですよね。

 まあ私は車までは我慢しようと思ったのですけれど。

 車は外からは見えないようになっておりますし、運転手さんとの間にも仕切りがあって見えないようにあっておりますので正直イチャイチャしほうだいなのです。流石に最後までは致しませんが、キスぐらいはいたしますわよ?

 それにしても、宗也様ってば意外と甘えん坊さんでいらっしゃいますわよね。こうやって学校でエネルギーチャージだなんて、私を萌え殺す気なのでしょうか?まあ、無意識なのでしょうけれども。


「今日から入ったあの望という下級生は毎朝校門で待ち伏せしていた子だろう?」

「はい、優秀だそうなのでスカウトいたしましたのよ。その代わり校門での出待ちとプレゼント攻撃は止めていただくようにお願いいたしましたわ」

「そうか。雪花の周囲にだんだんと女生徒が集まっていって俺の入る隙間がない気がなくなっていく気がして寂しいぞ」

「まあ、宗也様ってば可愛らしいことをおっしゃいますのね。私こそ宗也様がおモテになって嫉妬してしまいますのよ?」

「そうか?全然そんな風には見えないぞ」

「だって宗也様のことを信用しておりますもの」

「まあな。俺は仁木大和とは違うからな」

「そうでなくては困りますわ」


 私はクスクスと笑いました。

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