04
「ほらもっと近づいてくれ」
「それにしてもダンスというのはこうして密着する分、相手の香りを強く感じますね」
「ああ、そうだな」
宗也様の香りを強く感じることが出来るのでついうっとりしてしまいますね。
「だがこれはいけないな」
「何かいけないことがありましたでしょうか?」
「こんな風に雪花を近くに感じていると、思わずダンスではなく抱きしめたくなってしまう」
「ま、まあ…。いけませんわ、今はダンスの練習中なのですからそう言ったことは後ほどに」
「わかってる。そのかわり今日の夜は抱き枕決定だ」
「抱き枕で済みますか?」
「すませてやろう」
「まあ、お優しいですこと」
クスクスと笑いながらダンスを踊っていきます。こういっていらっしゃいますけれども、きっと抱き枕だけではすまないのではないでしょうか?まあ私はよろしいのですが、まだ加減が微妙でございますので、朝足腰が立たないことがあるのでございますよね。午前中の授業に間に合わなかったら大変ですわ。
そう考えますとダンスの練習というのは中々に危険なものでございますね。
「なんて、冗談はともかくと致しまして、玉串選のダンスのお相手は総代がお勤めになるのですよね?」
「ああ、といっても総代選に出るものからランダムでとなるな、玉串選と総代選は同時に行われるからな」
「なるほど。けれども宗也様の対抗馬などいらっしゃいますの?」
「チャレンジ精神というのはいつの時代も大切なものだろう?」
「まあ、ということは挑戦は受けるけれども譲る気はないということでございますのね」
「もちろんだ」
「悪いお方でございますね」
「いやむしろ親切だろう?さて、ダンスの練習もこのぐらいでいいかな」
「はい」
ダンスの練習の次はピアノの練習になります。ピアノは不得手なのですよね、琴でしたら得意なのですが、今回の課題はピアノなので残念です。まあ、手習い程度のものしか習ってなかったので、久しぶりの感触でございますね。
練習曲からはじまりまして、次第に曲の難易度を上げていきます。こういったステップを踏んでいくのは簡単な事なのですが、課題曲まで行くのは中々に難しいですね。ちなみに課題曲はソナタ 第17番「テンペスト」ニ短調となっております。
中々に難易度の高い曲を選んでくるあたり、今の玉串様である要先輩の性格がわかるというものでございますよね。
「ピアノは苦手です。琴の方が得意ですわ」
「そういうなって。雪花ならすぐにマスターできるから」
「とは申しましても、本当に手習い程度のものでしかないのですよ?」
「とかいいながら、もう課題曲の練習に入ってる当たりが雪花だよなあ」
「時は金なりと申しますもの」
「玉串選まであと一ヶ月だからなぁ、まあ頑張るしかないんだが、武芸の方は大丈夫なんだろう?」
「はい、一通りの護身術は身に着けております」
「流石は雪花だ」
* * *
そんなわけであっという間に一か月が過ぎてしまいまして、玉串選が始まりました。まずは教養を競い合うのですが、クイズ形式ではなくペーパーテストと実技試験となります。実技試験には茶道や華道も含まれておりますので着物も持ち込まなければなりませんわね。
玉串選に参選すると修二お父様にお話したところ、ご自分が総代をなさっていた時を思い出されたようで、長々とお話をしてくださいました。宗也様のお父様もいらっしゃいましたので、どちらが総代になるか、争う年度もあったのだそうですわ。もちろん、その時は修二お父様が負けてしまったのだそうです。
総代選では流鏑馬なども行われますので宗也様の流鏑馬を目に納めることのできるよい機会ですので嬉しく思います。総代選や玉串選のお題内容は昔から変わってはいないとのことです。
「はあ、緊張いたしますわね」
「緊張してるようには見えませんわよ」
「そんなことありませんわ渚様、これに受かって公私ともに宗也様のパートナーになれるかがかかっておりますもの」
「まあ、総代選のほうは総代続投がほぼ決定ですものね。昨日見た限りではすべてがダントツでしたわ。今日あるダンスで決着がつくとはいえ……といいますか、雪花様のダンスの相手が総代以外になってしまった場合、総代の嫉妬が怖そうですわよね」
「そうなのですわよね、そこのところは職権乱用してでもぜひともペアになってみたいものですわ」
「そんなことで職権乱用を使わないでくださいませ」
「冗談ですわよ」
玉串選も競技はほとんど終わっておりまして、あとはダンスの競技のみとなっております。心配したピアノの方も何とかこなせたのではないのでしょうか?
「ピアノだけが不安でしたが、一か月特訓したかいがありました」
「一か月であれだけ弾ければ十分ですわよ」
渚様が深くため息をはいてしまわれました。何かおかしいことを言ってしまいましたでしょうか?
さて、今はダンスの競技のペア発表待ちとなっております。午前中は玉串選の武術の協議が行われておりました。もちろん私の圧勝といった具合でございますわ。申し訳ないのですが本気でやらせていただきました。まあ、皆様もそのぐらいお強かったというべきでございますわね。
まあ、怪我はさせておりませんのでご安心くださいませ。まあ、怪我をしていても笑顔でダンスを踊るということも競技の課題なのですが、今回はそのようなことはございませんでした。痣ぐらい出来ていらっしゃる方はおりますけれども、お化粧で消せる範囲と申しますか、もう特殊メイク張りのメイクで隠して参加いたしますので問題はございません。
「…やりましたわ、宗也様がお相手ですわ!」
「私も宗也様ですわね。と申しますか、総代選には三人しか参選しておりませんので一人に対して二人ダンスの相手を踊るということになりますわね」
「三組ずつの競技になりますわね」
「そうですわね」
「渚様とは別のチームになってしまって少し残念でございますわ」
「まあ私と一緒でしたら私の素晴らしいダンスに影響を受けてしまうかもしれませんわね」
「私も宗也様と沢山練習をいたしましたもの、負けてはおりませんわよ」
「まあ、そうですわよね。筋肉痛になって登校するのも大変になっていたぐらいですものね」
「え、ええ……」
そう言えばそういうことにしていたのでしたわね。宗也様が手加減を覚えて下さらないのがいけませんのよ。
「あら、お顔が赤いですけれどもどうかなさいましたの?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
全ては宗也様がいけないのですわ。
それにしてもダンスのお相手が宗也様でよかったです。もし他の方でいらっしゃいましたら宗也様が嫉妬して今夜は寝かせてくれなかったかもしれませんものね。今でも休み前の夜は寝かせてくれませんのよ、まったく困ったものですわよね。
「先に渚様のチームがダンスをなさるようですわね。頑張ってくださいませ」
「まあ、ライバルに対して頑張ってだなんて余裕がありますわね」
「あらそうですわね、ではお気をつけていってらっしゃいませ」
「ええ、そういたしますわ」
そうおっしゃって宗也様と一緒にダンスホールに躍り出た渚様は、ご自身がおっしゃった通り素晴らしいダンステクニックを披露なさいました。宗也様も踊りやすそうでございますし、よろしいのではないでしょうか?ちょっと嫉妬してしまいますわね。今夜は私が寝かさないというのはどうでしょうか?最近やっと最中に余裕を持って宗也様を見ることが出来るようになりましたしね。
渚様達のダンスが終わりますとすぐに私たちの番になります。私は宗也様に手を取られてダンスホールに躍り出ます。
すっかり馴染んでいる宗也様の体に私の体も自然と反応を示します。ホールの中央を占拠してダンスを続ければ他の方々を圧倒しているのは間違いございませんわよね。
あ、その後の玉串選と総代選の結果ですか?
もちろん総代は宗也様、玉串はなんとか私が選ばれることとなりました。
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