03

「あらあらまあまあ、流石の宗也様と言えども婚約者には形無しのようでございますわね」

「うるさいぞかなめ先輩」


 あ、玉串様のお名前は飯田要いいだかなめ様とおっしゃいますのよ。

 なるほど流石に宗也様でも先輩を呼び捨てにするようなことはなさいませんのね、ちょっと新鮮な感じですわ。


「玉串様、宗也様はこうおっしゃっておりますけれども家ではいつもお優しい方なのでございますよ」

「そうなんですのねぇ」


 あら、なんだか玉串様のお顔がにんまりとしたような気がいたしますけれども、余計なことを申してしまいましたでしょうか?けれども宗也様が家ではお優しくしてくださいますのは事実でございますので、ここははっきり言っておかなければなりませんわよね。


「ええ、いつも私のことを気遣ってくださいますし、その日にあったことをお話してお聞かせするのですが、いつも心配してくださっておりますのよ。私がこの学院に馴染めているのか、今でも心配しているようなのでございます。それに学業の方も見てくださっておりますし、私が編入試験で満点を取れましたのもきっと宗也様のご指導が的確だったからに違いございませんわ。それになんと申しましても、寝る時に抱きしめてくださいますがそれがなんとも安心できるのでございまっむぐむぐ」

「まあ、その辺にしておけ」


 宗也様に口をふさがれてしまいました。ここからが重要なのですけれどもどうしてでしょうか?

 私に敵意を向けてくる方々にこのお話をする予定なのですが、駄目なのでしょうか?


「……この話しは、駄目でしょうか?」


 あ、ちなみに私の身長は153センチ、宗也様は伸び盛りですが178センチございますので見上げる形になりましてじっと見つめておりますと、宗也様のお顔が赤くなって目をそらされてしまいます。

 最近気が付いたのですが、これはかなり宗也様に対して有効な方法なのですわ。所謂上目遣いというものですわね。


「……ほ、ほどほどに」

「はい、相手は選びますので大丈夫ですわ」


 主に私へ敵意を向けてくる方々に対していうだけですのでご安心くださいませ。


* * *


 さて、玉串様にも宗也様にも許可を頂きましたので、私は翌日の放課後、早速実行に移すことといたしました。

 私に敵意がある方々をお呼び出し致しましてお話合いをしているところでございます。


「さて、私の呼び出しにお答えいただきありがとうございますわ。つきましては今日に至るまでのことでお話合いをいたしたいと思っている所存でございますの。貴女方は私に対してよい感情を向けているとは到底思えない態度を取ってくださっておりましたわよね。そのことはもちろん悪く言うつもりがございますのよ。だって私被害を受けておりますもの、主に心理的に。ですので、私はこの場で皆様にはっきりと申し上げようと思いますの」


 私一人に対して相手は六人なのですが、特に気にすることはありませんわ。実力行使を受けても所詮はか弱いご令嬢たちでいらっしゃいますもの。私は護身術もたしなんでおりますので問題はございませんわ。


「私は修二お父様の養女となりまして宗也様の婚約者となっております。皆様からしてみれば突然現れたような物でございましょうが、これは純然たる事実でございますし、今後覆る予定はございませんの。そもそも皆様はこの私に対して悪感情を向けていらっしゃいますけれどもお判りでしょうか?私は宗也様に愛されておりますのよ?そのことがどれほどの事かお分かりになりまして?夜は一緒に眠っておりますし、朝はおはようのキスから始まりますの、一緒に朝食を頂きまして、一緒に登校をいたします。ああ、これはご存じですわよね。そうして講義を受けて昼食は時折一緒に頂いております、放課後は先日より玉串様のお手伝いをすることになりましたので放課後も一緒ということになりますわね。ああ、玉串様とも友人関係にならせてい頂きましたのよ。玉串様って気さくでお優しい方でいらっしゃいますのね。私のことも心配してくださっておりましたわ」


 虎の威を借りてみます。まあ、ある意味事実ですので、嘘は言っておりませんわよね。

 あら、皆様のお顔の色が悪くなってきましたわね。ではダメ押しをいたしましょうか。


「家に帰りますとその日にあったことをお話いたしますのよ。もちろん皆様の事もお話させていただいておりますわ。まあ、私たちの問題ですし、手出しは無用とお願いしておりますけれども、宗也様も愛する者には弱いと申しますか、過保護なところがございますのでいつまで持つかはわかりかねてしまいますわね。ああそうそう、私のことを妹に婚約者を寝取られた哀れ者などとおっしゃっていたこともお伝えいたしました。とても面白そうに笑っていらっしゃいましたわ。私は確かに妹に婚約者を寝取られましたがそれは計算の内でございます。もっとも、在原家の方々とこんなに親しくさせていただけるとは思いませんでしたけれども。……そうそう、修二お父様も私の学院生活には興味がおありのようで、よく聞いていらっしゃいますのよ。特に、私に悪感情を向けてくださっている皆様のお名前などには特に興味があるようでございますわ」


 ああ、これも虎の威を借りておりますわね。

 さて私もそろそろ自分の力を使うことにいたしましょうか。


「そういえば私、今度玉串選に出馬しようと思いますのよ。玉串に選ばれました暁には色々と対応させていただこうと思いますのよ、ええ、色々と」


 玉串選というのはわかりやすく言えば生徒会選挙のような物でございますわね。まあ、そのほかにも成績やそのほかの能力を見ていただいての判定になるのですが、最終的には投票になりますので人気投票のような物になってしまいますのだそうです。

 ですから二年連続で要様が玉串様になっているとご本人はおっしゃっておりましたが、それだけでも十分にすごいことだと思いますわ。


「た、玉串選ですって?貴女のようなこの学院に来たばかりの方が参選してどうなるといいますの?私共は認めませんわよ」

「ええそれでも結構ですわ。私は結果主義者でもございますので、出た結果には従いますわよ。ただし、その代わり相手にもそれを求めてしまう傾向がございますの。従わない方にはそれなりの対応を取らせていただくかもしれませんわねぇ」


 ちらり、と視線を向けてみればますます顔を青ざめていらっしゃるようでございます。所詮は烏合の衆といったところなのでございましょう。

 宗也様を狙っていたようですけれども、それこそ身の程知らずというところでございますわよね。この学院に入っているということはそこそこの出のご令嬢なのですけれども負ける気がいたしませんわ。

 まあ、もう婚約者ですので勝っているのですけれどもね。


「よろしいですわね。私に対する文句は玉串選の後に聞きますわ!」


 これで玉串選で落選したら笑えませんけれどもまあ何とかなりますわよね。


* * *


 そんなわけで私は宗也様に玉串選の特訓をしていただいている次第でございます。玉串選は主に教養の他はピアノ、ダンス、武術という項目で競っていくものになります。私は今、宗也様相手にダンスの特訓をしている最中というわけでございますわ。

 ダンスは苦手ではございませんが、大和様とのダンスに慣れているせいか、宗也様とのダンスには少し戸惑いがありますわね。もっとも宗也様のリードがお上手ですのですぐに慣れてしまいましたけれども。


「そう、ここでターン。相手に身を委ねて」

「こうでしょうか?」

「そうだよ」


 踊っているうちにダンスがだんだんと愉しくなってきました。宗也様とのダンスは素敵ですわね。やはり大和様とは比べるまでもないという感じでございますわね。


「宗也様、私ダンスがこんなに楽しいものだとは思いませんでしたわ」

「あんな小童とのダンスと一緒にしてもらっては困るからな。ダンスとは踊る相手と一緒に楽しむものだ」

「はい」

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