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 さて、その玉串様への接触方法なのですが、どういたしましょうか。ここが寮であればお部屋にお邪魔させていただくという方法もあるのですけれども、なんせ寮はございませんのでお忙しくなさっている玉串様のお手を煩わせてしまうのはためらわれてしまいますのよね。

 とはいえ、編入してから一か月経ってもなお私の周囲には好機の目や敵意の目が集中しておりますのでどうにかしなければなりませんわよね。

 私はどうしたものかと考えながら、本日も図書館に参ります。この学院の図書館は書籍が充実しておりますし、読書中はほかの方が寄ってまいりませんのでここの所唯一安堵できる時間と空間でございますわね。

 まあ、窓辺で読書をしている私の姿を見て、図書館の妖精なんて言われるようになっていただなんて私は存じ上げていなかったことなのですけれどもね。あとで渚様にお聞きして顔から火が出るかと思ってしまいましたわ。

 ただ大人しく本を読んでいただけですのに、そのようなあだ名を頂けるなんて、流石は在原家の使用人が作り上げた超絶美少女ですわね。ちなみに今の私は長いサラサラ艶々ストレートヘアーをゆったりと一つに肩下で結んでおりまして、軽く化粧はしておりますが、元々舞花と双子ということもございますので、顔の方は美少女なのでございます。在原家使用人のおかげで超絶美少女に変身できているのもこの効果でございますわね。まあ、お化粧を取ってもあまり変わらないというのが使用人方のお話なのですがそのようなことがございませんわよね。

 そのようなことを考えながら本を読んでおりますと、ふと前の席にお座りになる方の気配がいたしまして顔を上げますと、なんと玉串様がいらっしゃいました。


「ご機嫌よう」

「ご、ご機嫌よう」


 まさかのご本人様のご登場に思わずどもってしまいましたがお許しくださいませね。


「藤原渚様よりお聞きしましたのよ、なんでも私に頼みごとがあるとかで」

「まあ、渚様がそのようなことを」

「渚様は私にとっては妹のような存在ですので、ちょっとしたお願い事でしたら聞いてしまいますの」

「そうなのですか。その、お願い事と申しますのが、私が編入して以来どうにも注目を浴びてしまっておりまして、それで困っていると申しますか、そろそろ皆様に普通に接していただきたいと申しますか…」

「なるほど」

「けれどもそれを玉串様にお願いするのもどうかと悩んでいた次第でございますの」

「そうですね、私がわざわざ言うほどの事でもないでしょうね。ご自分でなんとかなさるのがよろしいでしょう」

「そうですわよね」


 やはりそうですわよねえ。こういったことに玉串様の手を煩わせるのは間違っておりますわよね。

 どうにかしなければなりませんけれども、あのように慕ってくださる方々を無下に扱うのもどうかと思ってしまいますのよね。

 まあ敵意を向ける方々には容赦しなくてもいいと思うのですけれども。


「ちなみに、好意を向けてくる方々だけではないのですが、そう言った方々にはある程度の対応をしてもよろしいのでしょうか?」

「そうですね、目には目を歯には歯を、というわけではありませんが、悪感情を向けてくる方にまで親切にすることはないのではないでしょうか」

「そうなのですか、わかりましたわ」


 玉串様公認で反撃が出来ますわね。

 さて、お話は終わったのですが、玉串様がご退席なさいません。この状況で本を読み続けるのは何というか不躾ですので本を置いて玉串様を見ます。

 思いっきり目が合ってしまっているのですが私の顔に何かついているのでしょうか?使用人曰く何の問題もないとのことなのですが、何か気に入らない部分があるのでしょうか?


「あの、なにか…」

「ああごめんなさい、綺麗な子だなって思って見とれてしまったのよ」」

「まあ」


 思わず頬を染めてしまいます。


「あら照れた顔も可愛らしいわね。なるほどこれは総代が惚れ込むわけですね。総代が突然婚約者を編入させると言い出した時は驚きましたが今でしたら納得です」

「そう言っていただけると光栄ですわ」

「貴女、玉串選に出てみる気はありませんか?貴女だったらいいところまで行けると思うんだけどな、何だったら私が後援演説についてあげてもいいよ」

「まあ!そのようなことをお願いしては申し訳ありませんわ。と申しますか、そのようなことになりましたらまるで出来レースではありませんか。そのような真似できません」

「うん、いい返事ですね。気に入りましたわ」


 気に入られたようで何よりです。


「ところでの仕事の手伝いをしていただけますか?」

「お手伝いでございますか?」

「ええ、補佐の補佐とでも申しましょうか?これでもすることが沢山ございまして人手が足りておりませんのよ」

「私にお手伝いができるかわかりませんけれども、無理のない範囲でしたらお手伝いいたしますわ」

「助かります。では早速今から」

「い、今からですか?」

「ええ、実は書類の整理をさぼってきておりまして、そろそろ戻らないと渚様あたりに怒られてしまいますの」

「渚様もお手伝いをなさっておいでなのですか?」

「そうですよ、渚様も次期玉串候補のお一人ですからね」

「そうだったのですね。玉串候補というのは何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか?」

「今の所は五人、貴女を入れたら六人になりますわね」

「そうなのですか」


 それは中々に激戦なのではないでしょうか?まあ宗也様の補佐ですものね、激戦になるのは当然と言えますでしょうか。

 さて、連れてこられましたのは総代と玉串様の執務室でございます。扉を開けられてまず驚いたのは書類の多さでございますわね。嘆願書なども混ざっているとのことですが、このデジタル時代に不釣り合いなほどのアナログさに思わずめまいがしてしまいそうになりましたが、デジタルの方はもっと情報量があるのだそうです。


「とりあえず、そこにある書類を日付順にまとめてくださいね」

「かしこまりました」


 私が担当いたしましたのは嘆願書の仕分けでございますわね。目安箱のような物が学院内の各所に設置されておりまして、気軽に意見を言える用意なっている仕組みなのでございます。

 その分このように膨大な量の書類が届いてしまうというわけでございますね。

 執務室には私や宗也様、玉串様以外にも五人ほどいらっしゃいまして渚様もその中にいらっしゃいます。私とは別のお仕事、パソコンに向かって何かを入力していらっしゃるようです。

 それにしても嘆願書を見ておりますと、大体嘆願の内容は似通っておりますわね。同じ日付だけでなく大まかな分類でもまとめておきましょうか。


 そんな感じで二時間ほど経過しましてやっと嘆願書の仕分けが終了いたしました。


「玉串様、終わりました」

「ご苦労様、助かりました。…あら?日付以外にも何か分けられているようだけれど?」

「はい、嘆願の内容は主に食堂のメニュー改善や例えば自動販売機の設置数の増加、イベントごとの増加や改善などというのが多かったので、そういうものは分けておきました」

「なるほど、そういうのは変更しても変更しても減らないのが悩みどころですね」

「大変ですね」

「なにをおっしゃっているのですか、もし貴女が玉串になったらこのお役目を引き継ぐのですよ」

「まあ、気の早いお話ですわね」


 ここには渚様もいらっしゃいますし、私が玉串様になれるとは限りませんので、やんわりと誤魔化しておきます。


「雪花が玉串か。そうなると色々やりやすいな。家でも仕事ができるようになる」

「まあ宗也様、お仕事を家に持ち込むのはマナー違反というものでございますわよ」

「そ、そうか?」

「そうでございます。そもそも家というのは家族のだんらんを楽しむためのものであって仕事の話をする場所ではございませんのよ。在原の家が特殊だとしても、学園の仕事を持ち込むのはどうかと思いますわ」

「そうか」


 あら、わずかにしょんぼりとしてしまった宗也様がかわいくていらっしゃいますわね。

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