お姉様と呼ばれて居りますがどうしましょう 01

「皆様ご機嫌よう、在原雪花と申します。本日よりこの学び舎で皆様と共に学べることを嬉しく思います。未熟な身ではございますがどうぞよろしくお願いいたします」


 私はこの日、私立玉梓たまずさ学院高等部に編入いたしました。私のことはすでに噂になっているようで、総代である宗也様の婚約者が編入してくるとあって中々に注目を浴びてしまっているようでございますわね。中には嫉妬の視線もちらほらほらございまして、宗也様の人気ぶりが分かるというものです。

 空いている席に座って授業の準備をしようと思いましたら、すぐさま囲まれてしまいました。皆様好奇心が旺盛でいらっしゃいますわね。丁寧に質問に答えていては時間が無くなってしまいますので、代表でいくつかお答えさせていただきましたけれども、やはり私の出自などに関する質問が多かったように思います。

 もっとも、修二お父様の養女になっておりますので出自に関しましては皆様黙ってしまわれましたけれども。まあ、それ以前でもそこそこの家の令嬢をしておりましたので、何も気にする必要はございませんけれどもね。

 さて、編入生のさがと致しましては目立ってしまうところなのですが、今の私は在原の家に磨き上げられた超絶美少女に生まれ変わっておりますので、何も恥じらうところはございません。元の家にいたことは髪を整える程度のことぐらいしかしておりませんでしたものね、仁木家の婚約者として。

 けれどもまあ、私が仁木家の婚約者だったと知っていらっしゃる方々はそれなりにいらっしゃいますので、そのことでからまれることも、まあございますのよね。


「妹様に婚約者を寝取られるだなんてお気の毒ですわよねえ。私でしたら恥ずかしくてこのような場所に出てくることなんて出来かねてしまいますわ」

「まあお言葉ですが、寝取られることを計算して婚約しておりましたのよ、ですのでこれは計算通りということでございます。もっとも、在原の皆様とこうも親しくできたことは計算外の誉でございますけれども」


 言外に私のバックには在原家が付いてるんですが文句がありますか?と言っておきます。


「ふんっ私は藤原家の分家序列3位のなぎさと申しますのよ。編入して担がれるのは今の内だけだと思っておくことですわね」


 渚様は所謂ツインテールのドリルヘアーというものでございますわね。これはツンデレの予感でしょうか?


「ご忠告痛み入ります。私と致しましても学び舎でいつまでも騒がれるのはあまり喜ばしい事でございませんので、一日も早くこの扱いが終わることを願っておりますのよ」

「まあ、そうなんですの?でしたら皆様にそうおっしゃればよろしいではありませんか」

「言ってはいるのですが、皆様熱心に私のことを聞いていらっしゃるので無下にもできずこまっておりますの。渚様からも仰っていただけると嬉しいのですが如何でしょうか?」

「私がですか?そのようなこと玉串たまぐし様にでもお頼みになればよろしいではございませんか」

「玉串様とはどなたのことでございますか?」

「まあ!そのようなこともご存じないのですか?一体あなたはこの学院に編入してきて何をきいていらっしゃったのかしら。玉串様というのは総代である方の補佐をなさるお方でございますわ。総代が男性、玉串様は女性がなるのが習わしでございます。今代の総代は宗也様でいらっしゃいますし、宗也様に頼んでもよろしいのではなくって?もっとも女生徒のことですから玉串様の方が聞き分けがよろしいかとは思いますけれども」

「なるほど、玉串様とはどなたなのでしょうか?」

「そのぐらいご自分でお調べになればよろしいではありませんか。集会などで総代の横に侍っていらっしゃいますからすぐにわかるというものですわ」


 あ、これはツンデレというものですわね。そう思えば可愛らしいのではないでしょうか。いっていることも舞花のように頓珍漢ではなくまともな事でございますし。


「ではそうさせていただきます。渚様、ご教授ありがとうございます。今後私の事はそうぞ雪花とお呼びくださいませ」

「わかりましたわ雪花様」


 これは早速お友達が出来たのではないでしょうか?元の学校では友人が出来るとすぐに舞花に取られてしまっておりましたので友人と呼べる方がいなかったのですわよね。


「ところで渚様、私ってそんなに目立っておりますでしょうか?」

「まあ!ご自覚がないのですか?時期外れの編入生ということだけでも目立っておりますのに、編入試験を満点で通過したとあっては目立たないわけがないでしょう」

「あらそのことは皆様ご存じなのですか?この学院の情報セキュリティはどうなっているのでしょうか?」

「心配するところはそこですの?他にもいろいろな資格をお持ちだとかで、習い事でご一緒になっていらっしゃる方もおいででしょう?」

「ええ、そうですわね」

「それで目立つなという方が無理ですわよ。玉串様の候補にさっそく挙げられていらっしゃるぐらいなのですからね」

「えっ!流石にそれは言い過ぎではありませんか?玉串様というのは総代の補佐なのでございましょう?私のようにこの学院に入ったばかりのものがなれるものではないと思いますわ」

「普通はそうなのですけれども、総代は宗也様でいらっしゃいますし、その後婚約者である雪花様が玉串様になることは自然の成り行き、と考える方々も多くいらっしゃいますのよ」

「そうなのですか、皆様の期待には応えられそうにもありませんわね。なんせ私まだ高等部の一年生ですし」

「この学院では高等部の一年生のことを四年生ともうしますのよ。中高一貫教育の学院ですもの」

「そうでしたわね、うっかりしておりましたわ」

「まったくそんなこともわからないだなんて、もっとお勉強なさるべきですわ。ちやほやされるのも今の内なのですからねっ」

「はい、色々教えてくださいませね、渚様」

「私が?どうして私が貴女に教えなくてはなりませんの?他の方々にお聞きになればよろしいではありませんか」

「もちろん他の方々にもお聞きいたしますけれども、渚様のご説明が分かりやすいのですもの」

「そうですか?それであればやぶさかではありませけれども」

「よろしくお願いいたしますわね」


 よっし、これでお友達ゲットですわ。正直私の周囲に寄っていらっしゃる方々は悪い子ではないのですがミーハー気分が強い方か、敵意むき出しの方々でしたので、本当に渚様のような方は助かってしまいますわね。


 さて、学園の玉串様について私なりに色々と情報を集めてみました。

 今年六年生の先輩で、二年連続玉串様をなさっていらっしゃるのだそうです。あ、ちなみに宗也様は私と同じ16歳でいらっしゃいますので四年生ですわよ。四年生で総代になられるとか流石は宗也様でいらっしゃいますわよね。

 あっと、話がそれてしまいましたわね。玉串様というのは総代の補佐をなさいますが、総代が不在の時などはその代行権限を持つ方でもいらっしゃいます。ようするに、総代と玉串様は常にペアで行動をなさっていると考えるべきですわね。

 渚様のおっしゃったように男性の代表が総代で、女性の代表が玉串様になります。これは男女差別ではなくこの学院の伝統のような物で、女性は月のものなどで動けなくなる時期もございますし、色々と体力面などでも男性に劣るので、このようになっているのであって決して差別ではございませんわ、これは区別ですわね。

 そして、今代の玉串様でいらっしゃいますが、中々に優秀な方のようで、女生徒の憧れの的とでも申しましょうか、とにかく人気があるのでございます。お姉様、と呼ばれて親しまれているとも申しますわね。

 お姿を拝見いたしましたが、色素の薄い茶色の髪の美しい麗人取った感じの方でございました。確かにアレではお姉様と呼ばれるのも納得できるというものでございますわね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る