04

「貴様っ」

「お言葉ですが大和様」


 宗也様のお言葉をさえぎって私は口を開きます。怒っているのは宗也様や修二お父様だけではないのです。


「婚約破棄をしてやったというような趣旨のお言葉ですが、そもそも婚約期間中に浮気をした挙句に不貞を働いたのはそちらであって、私から責めこそすれ何を誇られることがございましょうか?確かに、仁木家との婚約がなくなりましたので本家に引き取られることになりましたが、あのままではいずれ結婚生活など破綻していたことでございましょう。そのことを踏まえましても、婚約破棄したから、などという発言は看過することが出来かねます。加えて言うのであれば、この場におきます舞花及び大和様の私どもに対する態度、到底分家ごときがするものではないとご忠告申し上げますわ。今までは仁木家のご両親にお世話になっておりましたのでご遠慮しておりましたが、もうその必要もなくなったと判断いたします。宗也様、仁木家の今後については解体ということでよろしいですわよね」

「ああ、構わない」

「なっおまちを!」

「くどい!」

「まったくもって見苦しいですわね。そもそも舞花、貴女は何をもってこの私のものを欲しがると言うのですか大和様で我慢しておけばこのような事にはならなかったというのに。大体、仁木家の婚約者に貴女ではなく私が最初に選ばれたことを考えれば少しはわかるというものなのではなくて?確かに貴方が学業はそこそこかもしれませんけれどその他のことが全くの無能ですから私が選ばれたのですわよ。そこのところを理解せずに、大和様を寝取った挙句に妊娠、おろせない時期まで黙っていて、強引に婚約そして結婚などということをして恥を知りなさいませ。その挙句今度は修二お父様や宗也様にまで秋波を送るなど言語道断ですわ」


 きっぱりと言って少しすっきり致しました。

 まあ、舞花にはこの半分も理解出来ていなさそうな気もしますけれどもね。

 そもそも論として本家と分家の立場の違いを理解しているのかが不安ですし、そこのところのフォローをするはずの大和様がこれですし、どちらにせよ仁木家には未来はなかったということですわよね。

 ああ、仁木のご両親にはそれなりの保証をいたしますわよ?なんといっても礼節を教えて下さったり、宗也様達と出会うきっかけをくださった方々ですものね。


「言ってることの意味が解んない!アンタのものはアタシのものだってきまってるのよ!あんたは大人しくその宗家の婚約者の座をアタシに譲りなさいよ」

「まあ!驚きましたわ。子持ちでしかも人妻である方の言動とは思えないですわね。そもそも、人の婚約者を寝取った挙句に妊娠なんて都合のいいことをなさっておいでなんですもの、DNA鑑定でもなさった方がよろしいのではありませんか?あの時期の舞花には他にも親しくなさっている男性がいらっしゃいましたわよねえ。私が懇親会で仲良くしていた方々ばかりでしたけれども、遊ばれていることにも気が付かずにほいほいと誘いに乗って、体を使って垂らしこんだおつもりのようですが、そんなものに乗るのは大和様ぐらいなものでしてよ。あのお歴々が貴女程度の体で満足するとお思いですの?たかが小娘を遊んでやったうぐらいにしか思っておりませんし、実際私にも妹と寝たけれども大したことはなかったと報告を受けておりますわ。全く持って不愉快極まりない上に、迷惑甚だしいですわね」

「なっ!猛は大和君の子供だしぃっそんなの母親であるアタシが一番わかってるしぃっ!」

「そうですか、では念のためのDNA鑑定をどうぞ、ああご安心為さって、最後の温情と致しましてそのぐらいでしたら傘下の病院で無料で受けさせて差し上げましてよ。もっともDNAで仁木家の子息と出てしまいましたらそのお子様はお気の毒な未来しか待っておりませんでしょうけれども。なんと言っても仁木家はこの後一家離散の一途をたどるのですものねぇ」

「はあ!?勝手なこと言わないでくれるぅ?あ、大和君のこともしかしてまだ嫉妬してるとかぁ?やだぁずうずうしぃ」

「そのようなわけがないでしょう、本当に精神状態は大丈夫ですか?一度病院にかかってみてはいかがですか?ああ、その際の治療費は当方では持ちませんのであしからず。大和様に対しては完全に政略でございましたので愛情の欠片もございませんでしたよ。むしろ厄介なものを押し付けられたとしか思っておりませんでした。まあ、そのうち舞花が手を出すと思っておりましたので耐えていた程度のものでございますわ」

「なんですってぇ!」

「だってそうでしょう?舞花は私の持っているものがすべて欲しいんですものねぇ、仁木家の婚約者の座、ひいては大和様に手を出すことは明白でございましたもの。私はただ知識を蓄えながら高みの見物をしていればよかっただけでございますのよ。まあ、舞花がもうちょっと早めに妊娠のことを打ち明けるなり手を出すなりしてくださっていれば私ももっと楽が出来たのですけれども、そればかりが残念でなりませんわ」

「うるさいうるさいっ!雪花のくせに生意気なのよ!」

「おっと、俺の婚約者に触れないでもらおうか」


 舞かが髪を振り乱して私につかみかかろうとしてきたところを宗也様が止めてくださいます。私は修二お父様に庇われて後ろにいる状況でございますね。


「離してよって、って宗也さん!聞いてました?雪花てばひどくないですか?このアタシに対してあんなことを言うんですよ」

「ああ酷いな」

「ですよねえ」

「お前の頭がな」

「なっ」

「何度も言うが雪花は俺の婚約者で本家の人間だ。その本家の人間にこの場で歯向かったことは到底許されるものではない。仁木家の者は即刻立ち去るがいい!連れていけ!」


 その言葉にスタンバイしていた警備の方々が大人しい大和様と暴れる舞花を連れていきます。とんでもないお披露目になってしまいましたが、これで私が宗也様に大切にされていることと、修二お父様に可愛がられていることが分かっていただけたと思いますので、よいお披露目になったのではないでしょうか。

 まあ、仁木家のご両親にはお気の毒としかもいせませんけれども。


* * *


 その後、念のためとDNA鑑定をした結果、舞花の息子の猛様は本当に大和様のご子息でいらっしゃいましたので、在原の家で引き取り下男として育てることにいたしました。

 所詮は親のしりぬぐいということですわね。それでもまあ、仁木のご両親のように一定の金額を受け取って海外生活を送るのではなく、国内から出ることもかなわずにろくな職に就くこともできず、離婚することもできずに一生を送ることになった舞花と大和様よりはましなのではないでしょうか。

 舞花はその持ち前の器量と要領の良さを使ってホステスになったようですが、高飛車な態度がたたって同僚とのトラブルが絶えないそうですし、大和様は今までボンボンとして暮らしてまいりましたのでそれこそ働くということをしたことがありませんでしたので、アルバイトも儘ならないようでございますわ。

 最終的には有閑マダムのペットに納まったようですけれども、その有閑マダムも舞花が手を出した方々の奥様方でいらっしゃるということは大和様はご存じないようでございます。所謂仕返しというところなのですが、舞花も大和様も気が付いていないので意味がないような気がいたしますわね。


 そうそう私ですが、ついに宗也様と結納と相成りました事をご報告申し上げます。婚前交渉はしておりますけれども、避妊はしておりますのでご安心くださいませ。もっとも婚前交渉に関しましては修二お父様が最後まで反対なさっておりましたけれど、あれは何でしょうか、過保護というものなのでしょうか?

 なんでも宗也様相手に私が壊されてしまうだとかおっしゃってましたがそんなことはございませんわよ?私こう見えても打たれ強いんですの。まあ、意味合いが違いますけれども。

 確かに初めてお情けを頂きました時は一日起き上がれませんでしたし、修二お父様の言葉を聞いておくべきだったと後悔もしたものですが、若さとは素晴らしいもので翌日には回復しておりました。

 まあ、回復するとまた食べられてしまうのであまり意味はないのですけれどもね。最近では加減を覚えて下さったので何とかなっております。

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