03
だって、本家の方々と直接やり取りをできる私を差し置いて舞花を婚約者に変更するなんて、なにか余程の事がなければないと思っておりましたもの。
まあ、あったんですけれどもね、余程の事、つまりは舞花の妊娠ですわ。舞花もあざといと申しますか、おろせなくなるまで待ってから打ち明けるとか、ひどいことをしますわよねぇ、お腹はあまり目立ってはいませんでしたけれども、あの後無事に出産なさったそうで、大和様とは取り急ぎ婚姻届けだけは出しているそうなので、舞花はすでに仁木舞花となっており人妻ですわねぇ。
まさかとは思いますけれども、子供もいる人妻が私の物というだけで宗也さんを狙ってくるとは思いませんわよねぇ。まあもっとも、今は修二お父様にロックオンしているみたいですけれども、修二お父様は舞花のことをよくご存じですので、取り込むなんて無理な話ですわよねぇ。
それにしても舞花ってば、子供を産んだと聞きましたので少しはまともになっているかと思ったけれどまったく変わっておりませんわね。少しふっくらしましたけれども、態度は全く変わっておりませんわ。本家の私たちに対する態度ではないとわかっていないようで、本当に残念で仕方がありませんわね。
「興味がなくても教えるのが婚約者の役割じゃないか。それが出来なかったお前はやはり俺の婚約者として失格だったんじゃないか」
「まあ…、私のせいですか?そうですか残念ですわ、そのように思ってしまわれるのですね。私は何度か大和様に本家の方々とお話するようにご案内いたしましたけれども、大和様がすべて私に任せるとおっしゃってお会いする機会をふいにしてしまったのではありませんか。ちなみに仁木のご両親はご存じでいらっしゃいましたわよ」
「なっ……だ、だが舞花が妊娠したんだ、仕方がないだろう」
「ええ、ですから別に婚約破棄のことについては特に気にしてはおりませんわよ。むしろありがとうございますと言いたいぐらいですわ。もっとも、もっと早くに言い出していて下さればもっと早く私も修二お父様の養女になれておりましたのに、とは思いますけれども」
本当に、修二お父様の養女になって人生が変わると申しますか、まさに生まれ変わったかのような感覚を実体験いたしましたわ。今までは舞花の陰に隠れていたような感じでしたものね。
そもそも、舞花が私のものを欲しがるようになったのは、両親が私よりも舞花をかわいがっていたことが原因なのですが、舞花にもその素質があったからとしか言いようがありませんわよね。
私が舞花に差し出すのをためらうと、舞花ってばすぐに両親に告げ口をしてしまって、私が怒られて結局は差し出すことになってしまう事になるんですのよね。
今回の婚約破棄の件もその関係なのではないでしょうか?両親は婚約者変更については何の疑いも持っていなかったようでございますものね。
それにしても、修二お父様もおっしゃいましたけれども、同じ牡丹の着物でも手間暇のかけ具合でこうも出来が変わってまいりますのね。まあ、舞花のも悪くはないのですけれども、私の着物は修二お父様が丹精込めてこだわっておりますので、ある意味国宝級になってしまいましたもの、比べるのも烏滸がましいというものですわよね。
それに、舞花は着物に着なれていないので、裾裁きなどがちょっと、いえ、かなり荒いですものね。まあ一応着物で参加したことだけは褒めて差し上げてもいいのではないでしょうか?仁木家の新妻としてのお披露目ですものね。
「雪花、そう言ってくれて嬉しいよ。私も雪花を一日も早く養女に迎え入れたかったからね」
「ふふふ修二お父様ってば」
「おいおい、修二叔父さん俺の婚約者とイチャイチャしないでくれませんかね。雪花は俺の婚約者なんですよ」
「おやおや、これはすまないね」
「まあ宗也様ってば可愛らしい嫉妬をなさいますのね」
「ははは」
「ふふふ」
私たちがすっかり舞花たちを置いてきぼりにして会話を始めて移動しようとしましたら、いきなりガシッと腕を掴まれてしまいました。掴んできたのは舞花です。
「ちょっと、アタシを置いてどこに行こうとしてるのよ」
「関係ありますか?私たちは必要な方々とご挨拶をしに行くのですけれども?」
「アタシがまだ此処にいるのに勝手に行くなんて許されると思ってるの?」
「思っておりますが何か?」
「はあ!?ふざけないでよ!アタシがいいって言うまでいるべきでしょう!」
ちょっと言ってることが分かりませんわね。なぜ本家の私共が分家の舞花たちに合わせないといけないのでしょうか?
舞花は私の時間まで欲するようになってしまったのでしょうか?私のものを何でも欲しがる舞花ですが、ついにそこまで行ってしまいましたか?精神病院に行くことをお勧めいたしますわ。
「ふざけて居るのはそちらでございますわね。私は本家の人間、貴女は分家の人間。もう縁も切っておりますし姉妹でもなんでもございませんのよ、なぜそのようなあなたに私が従わなければなりませんの?もう一度言いますわね、私と貴女はもう無関係の人間ですの。今後は私のことは本家の人間として接してくださいませね。大和様もですわよ」
「なっな…」
「……わかった」
「ちょっと!」
「いい加減にしてくれないか」
あら、ついに宗也様が出てきてしまいましたわ。私が出ている間にかたがつけばよかったのに残念ですわ。これで仁木家は終わったも同然ですわね、仁木家のご両親にはお気の毒ですが、これもご子息の教育を誤ったのが原因ですわよね。
私は出来る限りのフォローをいたしましたけれど、それがかえって逆効果になってしまったのかもしれませんわねえ。それに関しては申し訳ないと思っておりますわ。ええ、本当に心から思っておりますわよ。
さて、宗也様が出てきてしまいましたので、ここからはナチュラルに威圧がかかっておりますわね。何気に修二お父様も威圧をなさっておいでですわね、どうしてでしょうか?
あ、着物のことで何かお気に障ることがあったのでしょうか?
「俺の婚約者に何か文句があるようだが、仁木家の嫁如きが何の用だ」
「……そ、宗也さんですよねぇ、覚えてますかぁ舞花ですぅ」
舞花、その肝の太さに感服いたしますわ。
「私、雪花と話してたんですけどいきなり雪花が無視してくるんですよぉ。ムカつくと思いませんかぁ?身の程知らずっていうかぁ」
「確かに身の程知らずだな」
「ですよねぇ」
「貴様がな」
「え?」
「この俺の婚約者にして修二叔父上の養女となった雪花はもはや本家の人間だと雪花自身も言ったがな。俺は雪花ほど丁寧に説明してやる気はないんだ、下がれ下郎共が」
「なっなっ…」
あらまあ、これで本格的に仁木家も終わりですわね。次期当主が下郎扱いされてしまいましたもの。
仁木家は確か、土木関係の仕事を請け負っておりましたわね、代わりの家は……あそことあそこに分散させることにいたしましょう。多少の混乱はあるでしょうが、所詮は身内内のパワーバランス調整ですから何とかなりますわね。
「そ、宗也様っ」
あら、大和様ってばまだ何か食い下がるおつもりなのでしょうか?
「なんだ、俺は下がれと言ったはずだぞ」
「無礼は承知でお聞き届けください。この俺が婚約を破棄したことで宗也様は雪花を手に入れることが出来たんです。そこのところをよくお考えいただきたい」
「は?」
何言っちゃってるんでしょうかね、大和様は。威圧の効果で頭のねじが飛んでいってしまったのでしょうか?そもそも、私が宗也様の婚約者になる話が出たのは、大和様が舞花と浮気を始めたからであって、そうでなければ確かに私は大和様と結婚しておりましたけれども、それを恩着せがましく言うなんて、なんてことなんでしょう。
これにはさすがの私も怒髪天を衝くと言った感じでございますよ。
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