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 在原家というのは古くは平安時代から続く家となっておりまして、この国におけるフィクサーの一角となっております。

 仁木家はその在原家の分家の分家、そのまた分家といったところでしょうか?まあ、ほどほどに離れているところな感じですわね。

 もちろん本家に逆らうような真似は出来ませんわよね。ちなみに我が家は在原家とは系列が違いますので、悪しからず。それで本家が主催する野点等がありまして、私は大和様のパートナーとして参加しておりましたの。

 そこで見初められた、というのはおかしいのですが、本家の方々に気に入られたのは事実なので、まあ、見初められたと表現しておきますわね。

 ともかく私は本家の方々に気に入られまして、個別にご連絡を頂けるほどの仲になっておりました。もちろんその中には宗也様もいらっしゃいましたわよ。

 本家では大和様の不義のことはいち早く察知なさっていたようで、情報もそれ経由でいただいておりました。もちろん、婚約が破棄になったら本家においで、てきなノリで。

 宗也様がいらっしゃったのもそういうノリですわね。

 ちなみにですが、婚約破棄の話しが出てからというもの、私の私物は少しずつですが在原の本家に運び込んでおりましたので、あとは大きな家財だけなのですが、そういったものは在原の本家にございますので、実際のところこのまま在原本家に行くだけなのでございます。

 だって舞花に婚約者を変更するという兆しがあってから一ヶ月ほどかかっておりますもの、そのぐらいの準備期間があればいろいろなものの移動は出来ますわよね。


「雪花、学院の編入手続きも済んでいるから」

「まあそうなのですか?ありがとうございます」

「学院では俺の婚約者ということで通すのでそのつもりでいるように」

「まあ、そのような大役を仰せつかるなんて思ってもいませんでしたわ」

「わざとらしいな」

「わざとですもの。それにしても、大和様に取り立てて恋愛感情を抱いたことはございませんが、舞花もどうして大和様の婚約者の座を奪おうと思ったのでしょうか?」

「雪花の物はすべて欲しがっていたのだろう?だったら婚約者の座も欲しがって当然じゃないか。愛など関係なくな」

「では、宗也様も狙われますわねぇ」


 私はリムジンのシートにゆったりと座りながらくすくすと笑って見せますと、宗也様もおかしそうにクスクスと笑います。


「あのような阿婆擦れが本家に出入りできるわけがないだろう。まあ、本家主催の行事には参加するかもしれないが、あの調子だからなあ」

「私の戸籍の方はどうなりました?」

「ああ問題ない。修二叔父さんの養女に問題なく書き換えてある」

「流石にお仕事が早くていらっしゃいますわね」

「このぐらいのことは造作もないさ」


 流石はフィクサーでいらっしゃるお宅でいらっしゃいますわね。恐ろしいですわ。まあ、私も今後その恐ろしい家に関わっていくのですけれどもね。


* * *


 さて、私が在原家に来て半年が経ちました。大分家にも慣れてきましたけれども、まだまだ覚えることが多くて大変でございます。まあ、仁木の家で多少は勉強しておりましたので多少の予備知識はございましたわね。

 ほとんど役に立たない予備知識でしたけれども。やはり本家は奥が深いですわねぇ。

 ところで本日は本家が主催いたします野点の日でございまして、仁木家といたしましては初めて舞花をお披露目する日となっております。まあ、在原の家も私のお披露目を兼ねておりますので主目的は私になりますわね。

 私は大振袖に着替えまして、養父となりました在原修二ありわらしゅうじお父様と一緒に野点に参加いたします。修二お父様はいわゆる独身貴族というものでございまして、私のことを本当の娘のようにかわいがってくださっております。


「修二お父様、どこか変ではないでしょうか?」

「いいやとてもよく似合っているよ。やはり雪花には牡丹の花がよく似合う」

「ありがとうございます。けれども思いますのよ、今日の舞花の衣装も牡丹の柄だと聞いておりますから、あえて被せたのではないかと」

「いやなに、身の程を弁えさせるには正面からぶつけるのも一つの手だと思ってね」

「まあ修二お父様ってば意地の悪い事をなさいますのね」

「元妹とやり合うのは気が引けるかい?」

「いいえ修二お父様。舞花とは一度じっくりと話し合うべきだと常々思っておりましたのよ。ただ今まではその機会に恵まれませんでしたけれども、こうして機会を得たのですからじっくりと話し合ってみたいと思いますの」

「流石は雪花だ。いい答えだよ」


 私は修二お父様に連れられて野点の会場に参ります。すでに分家の方々が集まっておりますので注目を浴びますけれども、毅然とした態度で歩いていきます。

 目の端に舞花と大和様が写りましたけれど、随分と距離がありますので、その分格が違うというものなのでございますわ。あとは総本家、宗也様達がいらっしゃるだけですものね。

 宗也様達がいらっしゃったら後は順番にご挨拶をしていくだけでございますけれども、皆様が必ず声をかけていただけるというわけではございませんのよ。それもこれもすべては宗也様方総本家の方々の自由意思によるものですわよ。


「雪花、その着物よく似合うな」

「ありがとうございます宗也様。修二お父様ってば奮発なさったようでぎりぎりまで仕上がりにこだわっていらっしゃいましたのよ」

「そのようだな。よくわかる」

「ふふふ」


 そうやって私と宗也様が話していると、目の端にこちらに近づいてくる舞花と大和様の姿が写ります。

 まあ、自由意思での会話ですので構いませんけれども、基本的には下の者は上のものから声をかけられるまで待つのが基本なのですけれども、理解できているのでしょうか?


「雪花」


 理解できていなかったようですわね。


「まあ、舞花ご機嫌よう」

「久しぶりじゃないの、家を突然出て行って以来よね」

「ええ、修二お父様の養女になって以来ですわね」

「本当に養女になったんだぁ。ふぅん」

「うちの娘に何か用事ですかお嬢さん?」

「……あ、私ぃ舞花っていって雪花の妹ですぅ」

「失礼、私には娘は一人しかいなくてね、舞花なんて言う娘は家にはいないんだよ」

「えぇ。雪花のお父さんなら舞花のお父さんも同じじゃないですかぁ」

「申し訳ないが言っている意味も分からないな。それにしても、同じ牡丹の着物を着ているというのに、こうも違うとは驚きだな」

「え!舞花ってばそんなにこの着物にあってますかぁ?」


 嬉しそうに言ってますけど舞花、多分貴女が想っているようなことではありませんよ。そもそも、修二お父様に対してそのような態度を取ること自体大問題なのですが、大和様はどうして止めないのでしょうね。


「ああ、安物がよく似合っているよ。うちの雪花の着物とは大違いだ」

「はあ!?なにそれ」

「舞花、修二お父様に対して失礼ですわよ」

「安物とか言われたんだけどぉ、大和君酷いと思わない?なんか言ってよぉ」

「ぁ…、修二様、その…」

「なにかな?」

「い、いえっなんでもありません」

「ちょっとぉ、大和君どうしちゃったのぉ?雪花に言いたいことがあるんでしょぉ?」

「私に言いたいことですか?なんでしょうか」

「俺と婚約をしていた時期から在原の本家とやり取りがあったことをどうして黙っていたんだ。わかっていたら婚約破棄なんかしなかったのに」

「聞かれませんでしたし、このような懇親会で本家の方々とお話していてもご興味がなさそうでしたのでとくにお話しをしなかっただけですわ」


 だってねぇ、普通懇親会でパートナーが本家の人と話してたら少しは気にするものだというのに、大和様ってば全く気になさっていなかったようですので、私も特に報告をしていなかっただけですわよ。もっとも、大和様のご両親にはご報告しておりましたけれどもね。

 ですから私、大和様のご両親が今回の婚約破棄に同意なさったことに少なからず驚いておりましたのよ。

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