婚約者を寝取られたけど割とどうでもいいです

茄子

婚約者を寝取られたけど割とどうでもいいです 01

※この世界では16歳以下で特別養子縁組が出来ることになっております。

(片親でも可能。実親の同意なしでも可能とします)


「は?私から舞花まいかに婚約者を変更、ですか?」

「そうだ、相手方からの要望だ。一体どういうことなのか説明してもらおうか」

「説明、とおっしゃいましても…」


 お父様の言葉に頬に手を添えて首をかしげてしまいます。書斎の机越しの会話なのですが、お父様の威圧感は相変わらず凄まじいですわね。娘を威圧してどうするのでしょうか。


「舞花のほうが相性がよかったのではないでしょうか?」

「それだけか?」

「それだけとおっしゃいますと?」

「お前が舞花を虐めていたという報告を受けているのだが」

「まさか、そのような暇があったとお思いですか?私は朝起きてすぐに朝食を作り皆様にお出しして学園に行き、学園では生徒会の仕事に忙しく、学園が終わりましたら仁木にき様のお宅に花嫁修業に通っておりましたのよ?」


 あえて言うのならば学園の中での虐めですが、そんなことをしている暇があったら生徒会の業務をしたほうがよほど効率的ですものね。


「舞花も雪花せっかに虐められたと言っていたのだが」

「勘違いではありませんか?そもそもこの1ヶ月舞花と朝食時以外に会ったことなどありませんけれども」

「そうか、わかった。行って構わないぞ」


 本当にお分かりになったのでしょうか?

 それにしても仁木様は今になって急に婚約者の変更だなんて、言うのでしたらもっと早めに言っていただきたかったものでございますわね。

 それにしても、まさか婚約者を寝取るという古典的な手法に出るとは思いませんでしたが、まあ、舞花にはお似合いなのかもしれませんわね。

 昔から私のものを取るのがお好きでしたし、今回もそのノリなのでしょうが、一回婚約をしてしまえばそう簡単に破棄できないということをちゃんと考えているのでしょうか?

 まあ、私の場合は舞花がいるから簡単に破棄できましたけれどもね。実際に婚約者が務まるかどうかは別として、ですけれども。


 翌日、早速となってしまいますが、婚約者変更の手続きの為、仁木家を訪問した私と舞花ですが、婚約者様の仁木大和にきやまと様が舞花を・・・お出迎えにいらっしゃいました。


「もう、大和君ってばこんなところまでお迎えに来てくれなくてもよかったのにぃ」

「いいんだよ、1秒でも早く舞花に会いたかったからね」

「やぁん嬉しい」


 仲が良くて結構なことですが、ここは仁木家の玄関で、仁木家の皆様も、我が家の者たちもいるのですが、いい加減にしていただけないものでしょうか?

 私は学園で見て慣れておりますが、仁木家の方々なんて唖然としていらっしゃるではありませんか。


「舞花、大和様。中に入ってから存分にいちゃついてはいかがでしょうか?」

「雪花お前もいたのか」

「ええ、私と大和様の婚約破棄も兼ねておりますので」

「ふん、ならさっさと済ませろ」

「そうさせていただきます」


 私は仁木家の皆様を誘導して家の中に入っていきます。勝手知ったると言わんばかりに応接間まで行きますと失礼ですが先に座らせていただきました。


「で、では舞花さんに婚約者が変更になるといことで、雪花さんとは婚約破棄でよろしいですね」

「異議はございません」

「当然だ」

「ねえ、早くアタシと大和君の婚約を結んでよぉ。何だったら結納までやっちゃう?」

「いいなぁそれ」

「流石に結納はまだ早いでしょう。ちゃんと我が家のことを学んでいただいてからでなければ」

「えー、雪花ですらできたことですしぃ、アタシが出来ないわけないじゃないですか」


 さて、それはどうでしょうかね。まあ、私はもう関係ありませんが。

 舞花の成績はともかく、普段の行いが仁木家に受け入れられるとは思いませんが、大和様がそこはフォローしてくださるのでしょうね。私にはそう言ったフォローは全くございませんでしたけれど。


 お茶を飲んで舞花と大和様の婚約が調う姿を見ていると、廊下を歩く足音が聞こえて、応接間に新しい人が入ってきました。

 仁木家の本家に当たる在原ありわら家の御曹司でいらっしゃる在原宗也ありわらそうや様でいらっしゃいます。


「宗也様、ご機嫌よう」

「やあ雪花。婚約破棄になったんだって?」

「はい」

「じゃあ俺と婚約しようか」

「まあ、このような婚約者に見捨てられた私を拾ってくださいますの?」

「もちろんだよ。雪花のことは本家でも有名になってたからな」

「では私もご挨拶に行ったほうがよろしいですわね」


 私と宗也さんがお話しておりますと、舞花が入り込んできました。


「宗也さんっていうんですね、アタシ舞花って言います。雪花の妹なんですよぉ、よろしくおねがいしますぅ」

「…ああ、話は聞いているよ。君が舞花君か」


 鼻で笑うというのはこういうことを言うのでしょうね。

 まあ、舞花はわかっていないようですけれども。

 さてはて、舞花は仁木大和様とたった今婚約を交わしたところなのですが、私の物を奪うのが趣味の舞花が次のターゲットに宗也様を選んだのだとしたら、面白いことになりそうですわ。


「ふふ」

「なんだ雪花楽しそうだな」

「はい、舞花が宗也さんを狙い始めたのだとしたら面白そうだなぁと思いまして」

「それって俺に被害が来るじゃないか」

「ふふふ」


 舞花がこちらを気にしながら仁木家についての説明を受けているのを眺めつつ、私はもはや関係がないと言わんばかりに宗也様と共に中座させていただきました。

 実際もう関係ありませんものね。


「宗也様、私はこの後は在原家に行けばよろしいのでしょうか?」

「そうだな、両親には今メールで雪花の婚約破棄のことを伝えて、それとお前を連れていくことも伝えておいた」

「便利な世の中になりましたわよね」

「まったくだ」

「在原のご当主様方にお会いするのは先日の野点以来となりますわね、お変わりはございませんでしょうか?」

「変わらないさ」

「それは結構でございますわ」


 そんな会話をしながら廊下を歩いていると、背後から追いかけてくる足音が聞こえてきます。この家に、こんなバタバタとはしたなく足音を立てる使用人はおりませんので、恐らくは舞花でしょう。

 そう思って振り返ってみれば、やはり舞花でした。その後ろには大和様や私の両親、仁木家のご両親もいらっしゃいますわね。


「どこにいくんですかぁ?」

「我が家に帰るのだが?」

「えぇ、舞花ぁもっと宗也さんとお話したいなぁ」

「雪花、在原家のご子息と婚約とはどういうことだ」

「まあお父様、お聞きになった通りでございますわよ?それと、この度の婚約破棄をもって私、家を出させていただきますわね。所謂、縁切りというものでございます」

「なんだと!?」


 あら、随分と驚いたようなお顔でいらっしゃいますが、私の方が驚きですわ。今までのことを考えてみても縁を切られないと思っているのでしょうか?

 舞花に誘導されていたとはいえ、暴力こそなかったとはいえ立派なネグレクトをされてまいりましたし、私も馬鹿ではございませんのでしっかりと証拠は揃えております。縁切りには十分なほどに。


「婚約をして家を出るのでしたら、と耐えておりましたがそれが破談になりましたので、この度縁を切らせていただくことにいたしました。ちなみに、宗也様がメールでご連絡していらっしゃったように、私も弁護士の方に連絡を済ませております。そもそも、私もまだ16歳ですので」


 にっこりと微笑んで言えば両親はまるで鯉のように口をパクパクと開けてうろたえております。自覚はおありになったのでしょうか?


「えぇ意味わかんない。雪花が本家にいくとか身の程知らずっていうかぁ、ありえなくない?ねえ大和君」

「あ、ああそうだな。分不相応にもほどがある」

「この俺と両親が認めているんだ、何か文句でもあるのか?」


 あらあら、宗也様ってば睨みつけてしまって威圧なさっておいでですわね。威圧された側もお可哀そうに、所詮は格の違いというものを思い知らされるというものですわね。


「じゃあいこうか雪花」

「はい、宗也様」


 私は宗也様にエスコートされて仁木家を後にいたしました。

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