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「ねぇ、あれは聞いた?」
「あれって?」
「二重人格の話」
「あー!それまで全然兆候とかなかったのに、突然別人格が現れるってやつね」
ついさっきまで新しいお菓子の話をしていたのに、もう次の話題に移ったらしい。
でも、二重人格か……。
頭を過ぎったのは、高井さんの姿だ。
あの高井さんが人に手を上げようとするなんて、自分の目で見た今でも信じられない。
彼女たちの話ではないけれど、別人格だと言われた方がまだ頷ける気がする。
話の続きがなんとなく気になって、少しそちらに意識を向けた。
「しかも、なった時と同じくらい急に元に戻るんでしょ」
「それね、元に戻せる人がいるらしいよ」
「お医者さんに診てもらったら、そりゃ普通に良くなるんじゃない?」
「違うの!そういうちゃんとしたのじゃなくて、もっとオカルト系」
「オカルト?」
「そ。病院とか専門家でも解明できないような、原因不明で治療の仕方もわからないって人まで救ってくれるんだって。実際どうやってるかまでは知らないんだけど、その人たちに依頼すると嘘みたいにあっさり治るみたい」
「えー、何それ。怪しすぎない?新手の詐欺とかじゃないの」
「私もそう思うけど、それにしては二人組だとか、一人はすっごい美少女だとか、おかしなキッチンカーに乗ってるとか、特徴が具体的なわりに注意喚起みたいのは全然ないんだよね」
おかしなキッチンカー、二人組、美少女……。
なんだかそのワードに妙に既視感がある気がする。それもごく最近見たような……。
「あーーーっ!」
思い出した。ここへ来る途中にいた、駅前広場で場違いなかき氷を売っていたあの二人だ!
ガタリと椅子を倒す勢いで立ち上がったために、目の前の紘人からも隣の女子たちからも注目を集めてしまった。
さらには女子二人の視線が怪訝なものになっていくのをそちらを見ずとも感じる。
そりゃそうだ。隣で飯を食ってた男が脈絡なく急に大声上げて立ち上がったら俺だって不審に思うわ。
「……あ、えっと、さっき見てた店にスマホ置いてきたかも。今行ってちょっと確かめてくるわ!」
「待って、僕ももう食べ終わるから一緒に行くよ」
「じゃあ先に食器片付けてくるな。出たとこで待ってる」
ちょうど食べ終わっていたのを幸いに、適当に思い付いた文句で誤魔化しつつ、隣の二人へ軽く会釈してから食器を片付け早足でフードコートを出た。
合流前に俺が寄った店の場所を聞く紘人に、よく見たらスマホはポケットじゃなくバッグに入っていた、ないと思ったのは勘違いだったと説明をすると、先程の挙動不審を疑う事なく喜んでくれた。
紘人が素直で助かったけれど、なんだか心苦しい……。
帰り道、再び駅前広場を通った時、そこに例のキッチンカーの姿はなかった。
きっとあまりにも売れなさすぎて早々に帰ったんだろう。何せ売っていたのがかき氷だったしな。
この時期に冷たいものが売れないだろうってのは子どもでもわかる。当然と言えば当然か。
寮に戻ると談話室で新年会と称したお菓子パーティーが開かれていたので、俺と紘人も誘われるまでもなくお菓子持参で参加した。
暫く騒いでいるうちに、フードコートで聞いた噂話も、高井さんの事も忘れてしまっていた。
翌日、横山さんの話を聞くまでは。
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