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 * * *



「君は小鳥遊くんだったね。連絡ありがとう。ここからは任せてくれ。また学校でな!」


あの後、応対してくれた先生にしどろもどろになりながらも状況を説明すると、三十分と待たないうちに横山さんが車で来てくれて、高井さんを運んでくれる事になった。二人とも学生寮とは別の棟にある、教員や職員用の寮に住んでいる。

走り去る車をどこか消化不良な気持ちのまま見送っていると、スマホにメッセージが届いた。

差出人は紘人だ。


「……あ、忘れてた!」


モールにいると聞いた時、俺も行くからそこで昼飯を一緒に食べようと約束していたんだった。

いつまでも来ない俺を心配して連絡してきたらしい。「すぐ行く」と短く返信して、ショッピングモールまで急いだ。




「遅くなったごめん!」


紘人と落ち合い開口一番に謝る。

自分から誘っておいて約束をすっぽかしかけるとは。


「元々ゆっくりお店見て回る予定だったから大丈夫だよ。それと、あけましておめでとう」

「あぁうん、あけましておめでとう。今年もよろしく」

「こちらこそよろしく。思ってたより遅かったけど、何かあったの?」

「あー……」


さっきまでの事をそのまま話すのはなんとなく躊躇われた。少しの間考えて、ざっくりと大まかにだけ説明する事にした。


「途中で高井さんっぽい人がいたからつい気になって、見てたらいつの間にかこんな時間になってた」


嘘は吐いていない。が、流石に大雑把すぎたか……?

案の定、紘人はぽかんとした顔をしてこちらを見ていた。


「ははっ、何それ。三澄って時々変なとこあるよね。それよりもお腹空いちゃったから早く何か食べに行こ」


きっと紘人は俺が何か誤魔化している事に気付いている。その上で気付かなかったフリをしてくれているのだ。

感謝の言葉を心の中だけで述べつつ、俺たちはフードコートへと向かった。


昼時を少し過ぎていたおかげで、苦労なく空いている席を確保する事が出来た。

テーブルの上には天ぷらでトッピングしたうどんがそれぞれ置かれている。

大盛りにして天ぷらを付けても数百円。

お財布に優しく、腹は満たされる。

だから大抵ここへ来た時はついうどんを選んでしまっている気がするが、美味しいから良し。


「久しぶりの実家はどうだった?」

「いやーもう相変わらず騒がしくてさ、宿題やるって言ってんのに、ここぞとばかりに力仕事を次々頼まれるし、弟たちの相手したり邪魔は入るしで、結局あんまり進めらんなかったよ。しかも予定が変わったとかで兄ちゃんも姉ちゃんも帰ってきたんだけど、全員いると部屋が狭くなるって理由で今朝姉ちゃんに追い出されたんだぜ。理不尽だと思わねぇ?まぁでも俺の好きなお菓子とかいろいろ買ってきてくれたし、お年玉もくれたんだけどさ。そうだ、美味しそうなアップルパイ買ってきたんだ。帰ったら食べようぜ」


うどんを食べながら、お互いのここ数日のあれこれを話す。

大晦日、寮では残った生徒たちで談話室に集まってお菓子やジュースを持ち込んでのカウントダウンパーティーをしたらしい。

普段は談話室の利用は夜十時までと一応決められてはいるけれど、この日ばかりは先生たちも大目に見てくれるんだとか。

なんだそれ、絶対楽しいやつじゃん。


「ねー!すっごい楽しかったね!」


思わず声に出していたかと思ったほど絶妙なタイミングでの相槌が横から聞こえてきた。

通路を挟んではいるものの、席が近いために隣の女子二人組の会話が聞こえたらしい。

それなりに賑やかな場所だし、特別聞き耳を立てているわけでもないけれど、明るく高い声はよく通る。

最近観たドラマや漫画の感想から始まり、新しくオープンしたカフェのメニュー、残りの冬休み中にどこへ遊びに行くか、同じクラスの女子の恋愛事情やとある先生の癖まで、話題は尽きる様子がない。





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