第12話

 なんか迷ってたら教職員の間についちゃったんだけど......?

ま、いっか。先生に聞けば教室の場所わかるからね。

 それにしてもこの年で道に迷いました、なんて言わなきゃいけないのか......

少し、いや結構恥ずかしいかも......

一応前世も合わせれば20年以上生活してきてるのになぁ......

 少し躊躇しながら私は教職員の間入口へと向かった......のだが、

なんか廊下の奥から変な声が聞こえてきてるような......?


「おい、この俺様に逆らうってことがこれから先でどういう意味を持つか分からないお前じゃないだろ?」


「で、でもこの学園では身分を問わないって話では......?」


「うるさい!学園のきまりは学園の中だけだろ?学園を出た後はどうなる?」


(そうなんだよね......学園の身分を問わないっていうのはほぼ意味をなしてない、親が国王様の側近でもあるから変に事を荒立てるわけには......)

(なんか変なやりとりしてるなぁ.......しかも片方は女神みたいな声だなぁ......)


「ん......?女神のような美しい声だ......なんだかとっても聞き覚えがあるなぁ......」


「や、やめてください......」


やっぱりお姉様では?そう思って視線を向けてみると......


「やっぱりお姉様だ!」


 意図せずにお姉様を見つけた私。


「変な人に絡まれてるなら私が助けてあげないとね!」


廊下を小走りでお姉様の元へ向かおうとした私だったのだけど......


「この!いい加減にしろ!」


「きゃ!」


 お姉様の手首を強引に掴んで振り上げる取り巻きらしき奴らと偉そうな奴を見た私は完全にタガが外れる音がした。

プチッ


「あいつら誰に許可を得て私のお姉様に乱暴してんの?」


 私のお姉様はあんなことされていい存在じゃないよ?

そんなことする奴らは......


 私の家族に危害を加えるなら......


......なにされても文句は言えないよね?


 私は大きく息を吸い、目を閉じて神経を研ぎ澄ませる。

 目を閉じているにも関わらず周りの人の表情や呼吸の様子、心音まではっきりと伝わってくる。

 お姉様を囲んでる奴らからは慢心して油断している様子が、お姉様からは少し緊張している様子が分かる。

 お姉様にそんな感情を与えた奴らに怒りのがふつふつと湧き上がってくるが押し殺す。

 感情に身を任せてしまうのは上級貴族としてのふるまいとしては正しくない。

感情のコントロールは幼少期から常に教えられることなのでさほど難しいというほどでもない......といいたいのだけど、姉妹になにか害をなす場合は別だ。

 私の唯一にして最大の地雷。


 それを踏み抜いたあなた達は......死んでも文句言えないよね?


 代々レイチェル家に伝わる型は決まった型じゃなくて技の印象しか記されておらず、独自にその型について考える必要がある。

 よって人それぞれ同じ型でもかなりの違いが生まれる。


鞘に手をかけて足を軽く開いて楽な姿勢になる


「四の舞」

『刹輪華』せつりんか


四の舞は『花』

 剣閃が空中に銀色の花を、さらに相手の血しぶきが地面に紅の花を作り出す

それが私のイメージ。

 動き出すその数舜、なにかを感じ取った貴族の体温がすっと下がり異変に気付く。


「な、なんだこの寒気は......」


取り巻きも表情が恐怖に染まる。

 殺気を感じ取られるなんて私もまだまだってことか......

 脱力し、重力に任せ体が前に倒れるその刹那、一瞬で加速し前傾姿勢から一気に獲物の首先へ迫る。

 脱力で力の抜けた体は獲物の3人への体の運びを異次元の最高効率で行う。

 体に力が入った状態では到底不可能な芸当で相手の懐まで入り込む、その瞬間......何者かが割り込んできて鞘から少し出た刀身がキンという音と共に止められる。


 は?誰だ?獲物3人の気配はさっきの位置から変化は無い。私は驚きを隠せずに私の刀を受け止めてる刀身の先を見ると、無精髭を生やした中年の男がこちらを見ていた。


「おいおい......ここはいつからそんな物騒な空気が出るようになったんだ?」 


 ふとお姉様の方に目をやるとぽかんとした顔でこちらを見ていた。とても可愛い。


「シャ、シャロ......?」


「さぁ?なんでこんな空気なんでしょうねぇ?」


 顔を逸らしてとぼけてみるが......空気が冷たいよぉ......

まぁ私が悪いんだけども、なんかお姉様の可愛いご尊顔を拝んでいたら怒りも静まってきたな、仕方なく、ほんとーに仕方なく許してやるとしますかね......


「お、おいもういくぞ......!」


 殺気に怯えたのか先生が来たからか貴族達はそそくさとその場を後にした......が、

残された私とお姉様と先生と......気まずい......!


「え、えっとぉ......そのぉ......」


「見かけない顔だな、この学院の生徒ではないな?」


 め、めっちゃ警戒されてるよ!お姉様!助けて!


「え、ええっと、ニック先生、この子は私の妹なんです!」


 あたふたしながらお姉様が先生に説明してる、可愛い。

 可愛いばっか言ってて私の語彙力無さすぎるかも、でも事実可愛いしいっか。


「そいうことは校内見学か......妹ねぇ、本当にお前より若いのか?俺より長い時間を生きていないと出せないような殺気だぞ、あれは......」


「お、お姉様のことを思ってつい......」


「じゃ、じゃあお姉様は見つかったので!それでは!」


「ちょ、ちょっと!?ルーナ!?」


 私はそそくさとお姉様の手を引っ張ってその場を足早に去る。


「意味がわからん......これまであんな殺気を感じたことなんてほとんどないぞ......」


 呆然としながら足元を見るとそこには土魔法で勢いを殺そうとしたが相殺しきれずえぐれた地面があった。


「あいつが技を止めてなかったら......いや、考えるのはよそう.......」


 まだ学園にも入学していないのにも関わらないのにとてつもない力を持つ少女に、

学園の剣術指南ニックは震えている足にも気づかずに立ち尽くすのだった。


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