第2話

僕を迎えたのは、もう暮れかけた日が差し込む、アトリエのような部屋だった。薄暗い部屋に、くっきりと陰影をつける光。ふわっと絵の具の匂いがした。


正面に見える黒板が辛うじて学校らしさを保ってはいるが、タイルやコンクリート等の校舎特有の堅い雰囲気など見当たらない、小さな教室。

板張りの床と壁に、微かに木の香りも漂う。目を射る蛍光灯のような明るさでなく、柔らかく、激しい夕日が作る陰影で形度られた部屋。秘密の世界に迷いこんだようだった。喧騒は遠く、静けささえ感じた。


部屋の中央に、イーゼルがあった。こきれいに整えられた部屋の中央に、ポツンと。影がながく伸びて、道を作り、壁まで這っている。

まるで何かを待っているような姿に、訳もなく惹かれ、僕は足を踏み出した。


載せられた一枚の画用紙が、半分だけ、赤く光っている。

夕日のせいかな。

手を伸ばし、確かめるようにそっと触れてみた。やっぱり、まだ何も書かれていない、真っ白な紙だった。ざらっとした厚い質感だけが、伝わる。


指に残る感触を確かめていると、唐突に窓際の薄黄色のカーテンがふわっと持ち上がり、外に巻き上がった。


人がいた。

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