第7話 初めての自分メインの依頼
早速依頼書にサインしてその紙を持ってギルドを出た。場所は町の北の丘の上に屋敷があり、東には草原そして西に山脈がある。今回の依頼があった場所はその西の山脈、一番高い山の麓付近のようだ。
町から出て草原を抜けて森に入ると小動物たちを多く見かける。どうやら昨日の落石や大雨の影響で、元の住処から追われてこっちまで来たようだ。
町の近くは凶暴なモンスターも動物も居らず日中は牛や羊、豚そして番犬が居るくらいでのんびりしている。居たとしてもギルドに依頼が来て直ぐに退治されてしまうから、小動物にとっても住みやすいだろう。
「グゲゲ!」
進んで行くと森も深く暗くなり町の付近に居ない生き物が出現して来た。コイツは俺でも知っている。首都へ出かける時に馬車に乗っていた時に見た覚えがあった。
二足歩行で緑色の肌をし、角と長い犬歯を生やしたゴブリンと言う種族だ。兄が馬車から手を出して魔法で瞬殺してしまったから、そう強くは無いだろうと思っていたがこうして対面して見るとその怪しさにたじろいでしまう。
しかもその手に持つこん棒は乾いた血の色が付着していて、腰に付けている鎧はどう見ても人間が付けていたものだし、その兜もそうだとしか思えない。
人の死を感じる機会があまり無かったので想像するだけでも血の気が引いてしまいそうだ。
「クニウス、下がっていて」
パルヴァは前に出て手をかざすと掌が光り、そこから氷柱が飛び出てゴブリンを貫いた。ゴブリンが悲鳴を上げた後で絶命すると、その声を聴きつけてゴブリンが数名茂みから現れる。
どうすべきかパルヴァに尋ねようとしたが、その間にパルヴァはゴブリンを退治してしまう。その姿に兄を思い出した。ラファエロ家の長男にして幼い頃から魔法の天才として謳われた神童クラウド。
現在は国軍に所属し防衛の任務に当たっている。年始に帰ってくるといつも口癖のようにつまらないと嘆いていたが、兄が楽し気にしていたのは十歳くらいまでだったような気がする。
親父は首都に行けば兄より凄い人間が沢山居るから良い刺激になると言っていたけど、兄は落胆しある時ボソッと他の国にでも行きたいよと言っていたのを覚えている。
「ご主人様、行きますわよ?」
「あ、はい」
パルヴァに促されて先に進む。迷いもせず、驚きもせずに襲い来るモンスターたちを氷漬けにして退けるパルヴァ。やがて周囲のモンスターたちもパルヴァに恐れをなしたのか暫く進むと全く出てこなくなった。
「凄いなパルヴァは。これなら一人でやってけるんじゃないか?」
「残念ながらそうもいかないのよ。正直なところ
次々に繰り出すものだからパルヴァの魔力は底なしなのかと思いきや、そんな筈も無く調整して使い続けていた。ここでも俺はお荷物に過ぎず、現実は厳しい。
依頼を即答したのも金銭だけなのだろうかと疑問が浮かぶ。ひょっとするとパルヴァは俺に気を遣って受けてくれたんじゃ……。
「なぁパルヴァ」
「ご主人様、着きましたわよ」
問おうとしたところで現場についてしまった。見ると岩が道を塞いでおり、その前に人が集まっている。
「こんにちは。冒険者ギルドから参りました」
「おお! 冒険者さんか! ……ってあれ?」
パルヴァが声を掛けると、茶色のジャケットに茶色のスラックス、白い縦じまのシャツが膨張した御腹を更に大きく見せているものを着た、白髪白髭で恰幅の良い御爺さんが代表してこちらに来る。
そして俺の顔を見ると首を傾げた。何処かであったっけな。
「何か?」
「いや何、あそこの御屋敷の坊ちゃまかと思ったが見間違いかな」
「いえ間違いでは御座いません。ですが昨日勘当されましたので元坊ちゃまです。私は今もメイドですが」
「はぇ~あの箱入り息子がねぇ。お母さんと似て体が弱いって聞いてたが元気に育ってるのを見て安心したんだがな」
そう言われてドキッとしてしまう。母の話は俺には良く分からない。記憶にあるのはぼんやりとした面影だけで、兄も父も詳しくは教えてくれなかった。
ちなみに俺は一度も大病はした記憶が無いので昔から無駄に元気だけはあった。母が体が弱かったのならその分元気に生んで貰ったのを感謝したい。
「仕事なのですが」
「あ、ああそうかすまない。出来ればこの岩をどうにかして欲しいんだよな。ここを通れないと隣町にも行けないし物資の行き来が出来なくなると生活に影響も出る」
「分かりました。ご主人様、この岩をどうにかしてください。私休んでますから」
「えぇ!? この坊ちゃまがやるのかい!? そんな仕立ての良いジャケットにスラックスにシャツが汚れるぞ!?」
「止めますか? ご主人様」
俺はジャケットを脱いでパルヴァに渡すと、シャツの腕をまくりながら岩の前に出る。コイツをどうにか出来ると思ってミレーユさんもパルヴァも依頼を俺に回してくれたのだから、期待に応えたい。
このままずっとお荷物のままなんて我慢出来ない。少しでも自分の力で生きなきゃ下剋上なんて夢のまた夢だ!
大きく息を吸い込んでから岩に両手をそえると、息を吐くと同時に力を込めて岩を押した。
「お、おぉ!?」
後ろでさっきの御爺さんや他の人たちがどよめく声が聞こえる。少しずつ動いてはいるが動いただけだ。まだこれじゃ意味がない。
俺は両手をそえたまま体を岩に預け
「動けぇえええええ!」
と大声を上げて全力て押してから突き飛ばす。すると岩はゴロンと転転がり始め、ゴロンガスッと散らばる岩に当たりながら斜め左へ向かって行きそのまま窪みへ落ちて行った。
確かに転がれと思いながら全力を出したが、まさか本当に転がって行くとは思っていなかった。自分でも驚いてしまい後ろを見ると、御爺さんや他の人たちは目を丸くしている。ただパルヴァだけが詰まらなそうな顔をしていた。
「す、すげぇ……一体何がどうなってるんだ?」
御爺さんがそう口にすると他の人たちが歓声を上げて俺の方に駆け寄って来て手を握った。まだ岩の小さいのが残って居たのである程度握手が終わってから再度退かす作業に戻る。
初めて岩を退かすなんてやるが、あまりの軽さに驚きを隠せない。確かに昔から物を持ったりぶら下がるのに苦労した覚えは無いけど、まさか自分より大きな岩を動かせるなんて……。
「こんな細い体の何処にこんな力が」
「屋敷の引きこもり息子って聞いてたが、こんな怪力だとは知らなかったぜ!」
引きこもり息子って何だと言いたいが、皆喜んで感謝の言葉を述べた後、書類にサインをして依頼を完了した旨も記してくれたのでまぁ良いかと思い、俺とパルヴァはギルドに戻った。
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