第5話 初依頼に挑戦!
「二人ともお待たせ」
お茶をしているとミレーユさんが俺たちを呼びに来たので、ティーポットやカップを片付けて受付に再度出向く。
テーブルの上には二枚のカードが横にして置かれていた。見ると冒険者証と書かれた横に名前が書かれていて、右に精密に描かれた似顔絵そして左には特技が書いてある。
「力持ち……」
「現状ではそれだけね。でも貴方の凄い特技だから自信をもって。ここに入って来た時も皆それに驚いていたんですから」
ミレーユさんの慰めの言葉に苦笑いして答える。パルヴァのを見ると俺と似て一行のみだが全然違う。
「魔法全般」
「万能メイド、と御呼び下さい」
目を閉じたまま右手を胸元に当てそう言うパルヴァ。魔法全般て何だよ超人か何かか? 普通得手不得手がある筈なのに。
「一応貴方達はコンビと言う指定にしておいたから、コンビの仕事を優先的に回すわね」
「お気遣いどうも。早速依頼を受けたいのだけど」
「そうね、ならさっきのスライム討伐はどうかしら? 貴女なら造作も無いと思うけど、こなせば経験値も貯まるしお勧めよ」
「俺は何をしてれば良いんでしょう」
二人は俺の顔を見てニコッとしただけで何も言わない。カウンターの上にさっき見せて貰った本を出し捲り、これまた見た頁にパルヴァはどこから出したのかペンを取り出すと、ミレーユさんが出したインクに先を付けてサインした。
「行きますわよ?」
「行ってらっしゃい」
ミレーユさんに依頼の紙を渡されパルヴァはギルドを出て行く。それに慌てて付いて行く俺。魔法が極力必要ない依頼くらいあるんじゃないかと期待していたが、やはりないのだろうか。
この世界は何をするにも魔法が第一。とは言え魔法を使うにも体力も魔力も必要なので、何でもかんでも魔法ではない。なので仕事はあると思うんだけどなぁ。
「ここね、依頼の場所は」
ぼーっと地面を見ながら歩いていると、パルヴァが足を止めて言う。危うくぶつかりそうになりながら止まり顔を上げる。そこは草原と森の境目で、少し離れた場所には町に入るべく他から来た人たちが通る道があった。
「依頼主は?」
「町の役人から。この先にスライムたちが繁殖しているからそれを退治するみたいね。森を燃やされては困るから相当の腕が無いとっていうのも分かるわ」
見た感じ他に人も居ないようだけど、依頼をこなしたって分かるのだろうか。パルヴァはそのまま前に進んで森に入るので後に続く。
昼間だったのでまだ見通しは良いけど、夜なら危ないなと言うくらいぼうぼうとした草むらを掻き分けて進んで行く。そして分かり易い感じに草木が減って行き
「凄い繁殖してるわね……何よこれ」
ついには木も草も無い場所に出る。そこには草木の代わりに透明な液体がうねっていた。俺たちが近付いて来たのが分かったのか、赤い小さな球体がうねりの中に何個も浮かんだ。
どうやらそれは目のようなものらしく、それを中心に小さな水たまりに分かれ水面から飴のように赤い球体を真ん中にして隆起する。
「一応気を付けるけどクニウスも気を付けてね。あれの吐く硫酸は中々強力だから、下手すると火傷程度じゃ済まない」
「き、気を付けろってどうやって?」
「逃げるしかないでしょ? 行くわよ!
パルヴァは右手を前に突き出しそう叫ぶと、掌から炎が前方へ出て広がりスライムの群れを焼いて行く。それに対して相手も逃れようと移動を始める。
掌を動かし炎を移動させ逃がさない。だが数がかなり多く、またパルヴァは森を燃やさないよう気を付けているのでどうしても全てを焼き尽くせなかった。
「不味ったなぁ……あ、そうだ。ご主人様~今暇ですわよね?」
とてもいい笑顔をしながらこちらを向くパルヴァ。きっと碌でもない方法を思いついたんだろうな、というのは短い付き合いだが分かる。だが仕事がないよりマシだ。
このまま何もせずに他人からお金を恵んでもらうなんて耐えられない。勘当されたとは言えこれでもプライドがある。
「何をすればいいんだ?」
「あら素直……ならお言葉に甘えさせてもらおうかしら。あのスライムを引き付けて目の前の場所に集めて欲しいんだけど」
「どうすれば良い?」
「恐らくこっちを敵として認識しているだろうから、スライムの前に出ておちょくればこっち目掛けて襲い掛かってくると思うわ」
「よし!」
取り合えずあのスライムの前に出て、変な動きでもしてみよう。それで釣れなかったら石投げるなりすれば良いし。
俺は散り散りになったスライムを集めるべく森へ入る。すると早速一匹飛び掛かってきてそれを間一髪避けるのに成功。
向かい合うも向こうはやる気満々で直ぐに再度飛び掛かって来た。食いついたと判断し、森の中を走ると後から後からスライムが俺を追い掛けてくる。
「パルヴァ!」
「へー、やるじゃない」
叫んだ後先ほどのスライムたちが草木を溶かした場所に出た。パルヴァは先ほどと同じように掌を突き出したので、それに向かって走る。
「退きなさい!」
「頼んだ!」
横っ飛びした後でパルヴァの魔法がさく裂し、スライムは蒸発した。それから残りが居ないかどうか確認して回り、無さそうだから帰ろうとパルヴァが言うので村へと戻る。
「御苦労さん! こっからちゃんと見えてたぞ!」
塀の見張り櫓から兵士が出ていて、森から出た俺たちに声を掛けた。なるほど口だけじゃなくしっかり仕事したかどうか見届ける人間が居たんだなと納得する。
「お帰りなさい。暫くまた向こうで待っていてね」
ギルドに戻るとミレーユさんに声を掛け出る時貰った書類を返すとそう言われ、食堂で待機する。暫く経った後、さっきの兵士がギルドに来て問題無いと報告してくれた。
依頼主の確認も終わりやっと俺たちは報酬を貰える。宿代や事務手数料それに保険料を引いた額である銀十枚が今日の仕事の報酬だ。
銀十枚なんて初めて見るし手に取るが、あんな危ない目に遭ってもこれだけ。俺の元居た屋敷の椅子一つすら買えない金額だと言う事実にショックを受ける。
「ご主人様、顔に出てますわよ」
「あ、ごめん」
「御屋敷からしたら銀十枚何て少ないでしょうけど、冒険者の相場としてはボチボチよ。貴方達の名声が高まれば依頼も指名で来るし報酬も上がるから頑張って」
「はい」
さっきまで居たから仕方ないが、屋敷とどうしても比べてしまいこのまま生活して行けるのかとても不安になる。今までの感覚では生きて行けないのは間違いない。しっかり切り替えて行かないと駄目だと改めて思い知らされた。
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