第4話 ギルドに登録した後でメイドとお茶を頂く
俺とパルヴァは意気込んで部屋を出て一階に戻り受付に行く。
「あら早かったわね」
「ええ、ご主人様はやる気です」
パルヴァは目を閉じたまま姿勢良く受付の人にそう言うので、俺も負けじと胸を張り頷く。それを見てくすくすと笑う受付の人。美人に笑われるのは嫌な気がしない。
鼻息荒かった俺も釣られて微笑むと、何故か肘鉄が脇腹を直撃した。それをした張本人は何事も無かったかのように姿勢を正す。
「え、何で攻撃したの?」
「は?」
「じゃあ二人とも、改めてここに氏名を書いてね。一応特技を書いてくれても良いけど、こちらでも見るから」
「見る、ですか。何か試験とかあるんですか?」
「いいえ無いわ。私が魔法で貴方たちの得意不得意を
受付の人は分かり易く一冊の本をカウンターの下から取り出し俺たちに開いて見せてくれる。右側の紙の一番上には”スライム討伐”と書かれており、その下に条件と場所に報酬が書かれていた。
「ここには火の魔法が使える者、ではなく得意な者という注意書きがあるのが分かる? 恐らく森に近い場所で繁殖してしまったスライムを討伐して欲しいから、使えるだけでなく扱いに長けた者が欲しいって言う依頼主の希望があるから、ギルドとしてはそれに適した者をあっせんするの。でないと失敗した時に出る損害をギルドで補填しなければならない。ちなみに何かあった時の為に、報酬の五パーセントを保険料として貰ってるわ」
なるほど、スライム退治くらいならと思ったがそう言う条件が相手から出るのか。じゃあ
「私たちに有利に書いてくれるのかしら?」
「有利には書かないけどなるべく穏便に済むようにはするし、ある程度は協力するわ。だって私はどの話でもそうしてきたもの……そう言えば自己紹介がまだだったわね。私の名前はミレーユ。宜しくね」
「よ、宜しくお願いします。俺はクニウスです」
握手を求めて手を差し出すと、俺の手をピシャリと叩くメイド。何なんだと抗議の視線を向けるも、取り合う気はないと言わんばかりに書類に記載を始める。
ここで揉めても特は無いのでパルヴァの隣で記載をしていく。とは言え得意なものなんて何も無いので名前だけ書いて提出する。パルヴァを見ると凄い速度で俺より多く書き込み、少し遅れて提出した。
「パルヴァはこのまま登録するわね。クニウスは……どうしようかしら」
ミレーユさんは俺に向かって掌を向ける。そしてその中に小さな魔法陣が浮かんで光を放ち俺を照らす。
「馬鹿力とでも書いておけばいいかと。後はそうですね……肉体労働専門とか」
「それは良いけど、直ぐにバレるんじゃない?」
「その時は”突然力に目覚めた!”みたいに書いてくれれば良いです」
「貴女案外雑なのね」
案外? パルヴァは元々雑だと思うけど。それに直ぐにバレるってのは何なんだ? 俺は自慢じゃないがこの愛くるしい顔しか取り柄が無いんだが。
「いってぇ!」
「自惚れ屋な上に失礼なご主人様ですこと。では後は頼みました」
「分かったわ。事務処理が済んだらまた呼ぶから近くのテーブルでお茶でも飲んでて頂戴。左手に食堂があるから」
ヒールで足を急に踏まれて倒れ込む俺を放置し、パルヴァはミレーユさんに教えられた食堂へ向かった。訂正しなければならない。あのメイドは雑なのではない、凶暴なのだ。
「ってぇ……」
「何時までもグチグチ五月蠅いですわよご主人様。お茶でも飲んで静かにしてなさい」
食堂の空いてる席に座ると、パルヴァがトレイにティーカップとポットを乗せてこちらに来た。誰のせいでこんな目に遭ったのかと言いたいが、ポットからお茶をカップに注ぐ佇まいは長年勤めたメイドのように綺麗で見惚れてしまう。
「何か?」
「い、いやぁ佇まいは一流のメイドだなぁと思ってさ」
「まぁこれでも一子相伝の術を受け継いできたので、模倣はある程度得意ですわ。何においても先ずは真似るところから始めなければ遠回りになりますしね。辿り着くところが同じなら、先人に敬意を払いながら真似て短縮した方が無駄も無くて良いでしょう?」
それを聞いて俺は幼い頃を思い出す。親父や兄貴の真似をして何度も何度も魔法を出そうとしたが失敗し、それに対して失望して行く二人の顔を。
「私には真似出来ない人の苦労は分かりませんが、先人というものは何時の時代もそう言うものなのでしょう。全て真似出来る訳ではありませんし、その人だけの特技というものもありますし」
「俺に他人が真似できない特技があれば住所不定無職にはなってないっしょ」
「どうでしょうね。有無を言わせず勘当するのも変ですし、勘当するにしても少々乱暴ですわ。貴方の見送りもせずに石を首都に持って行くというのも気になりますし」
「まぁ今更気にしても仕方ないさ勘当された事実は変わらないし。何とか頑張って先ずは金を手に入れないと……ってこのお茶の代金は?」
「私、ご主人様と違って質素堅実を旨としております故」
俺がお茶を見た後問うと、パルヴァは鼻で笑いながらそう答えた。一々喧嘩を売らないと気が済まないのかこのメイド様は。
憎らしいと思いながらも無一文なので黙ってお茶を頂く。タダで飲むお茶は格別だと言っていた奴が居たが、お茶自体の美味しさは変わらないのに美味しく思えない。
自分が今改めて地べたに居るのを感じるだけだった。
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