第3話 メイドは異世界人
「そ、そんな訳が無いだろう」
「なら使って見なさいよ」
「こんな場所で使える訳ないだろ?」
「は?」
一回無意識でやっただけなのに、どちゃくそこっちにやってくるな子供かコイツ……いや見た目は子供だけども、さっき俺を坊や呼ばわりしたし何なんだこのメイド。
「仕方のないご主人様ね」
メイドは呆れた顔でそう言った瞬間、目の前から姿を消した。俺は辺りを見回すが何処にも居ない。な、何が起こってるんだ!?
「あらよ」
背後から声が聞こえて振り返ろうとしたが両膝の裏を硬い物で押されつんのめってしまう。
「お気に召しましたか? ご主人様。これが魔法だよ。魔法と聞いて真っ先にここじゃ出来ませんーとか言うのは有り得ない。正解は”出してやるから表へ出ろ”だ。そう言わない理由は一つだけ。使えないから、だ。この世界でそんな奴は一人もいない」
そう言いながら俺の尻を蹴るとメイドは元の位置に歩いて戻った。メイドの言葉に返す言葉も無い。確かに誰もが魔法を当たり前に使いそれをコントロールしている。あの言い方は迂闊だったと悔いる他無い。
それにしてもこのメイドは変だ。この世界と言ったり生まれて初めて見る魔法を使ったり。俺は魔法は仕えないが相手が何の魔法を使ったかくらいは分かるから避けようもあった。
だがあれは理解出来ない。身体強化系魔法でもなければ風魔法でもなく精霊魔法でもない。召喚も行われておらずいつの間にか後ろに居た。
「考えても無駄だよ。お前は魔法を見破れるがこれは理解しえない。正直有益な魔法とは言えないが、私の家系が長年命題として取り組んでいたものだから他の奴らも理解しえないだろう」
「お前何者なんだ? 親父が用意したメイドじゃないんだろ?」
「私だってこんな格好したくてした訳じゃないんだ! お前の屋敷に運び込まれた物を追ってたらこうなった……」
「俺の屋敷に?」
そう言えば先々週、うちに変な商人が来てたな。爽やかな二枚目だが目が笑ってない、何か企んでるって感じの二十歳半ばの男が。
親父に空から降って来た石、確か黒隕石とか言ってたがそれを売り付けにきていた。バッタもんだろうと親父も分かってるだろうに、何を言われたのか高額で買い取ってたのを思い出す。
「何か覚えがあるだろう?」
「それと御前に何の関係があるのか聞いて、納得したら教えてやる」
メイドは俺の条件に対して即答せずに唸り声を上げ始めた。暫く頭を抱えて悩んだ後
「良いだろう聞いて驚け。私はこの世界の人間ではない」
「さようなら」
「待って! 待ってくださいご主人様!」
「アホか! 幾ら俺がお坊ちゃまでそこかしこで馬鹿と蔑まれていても、だ。そんな冗談をはいそうですか鵜吞みにする訳ないだろう?」
「じょ、冗談でそんな話する訳ないじゃないですか~真面目に話を聞いてくださいよご主人様~」
出て行こうとする俺の腰にしがみ付き猫なで声で言う胡散臭いメイド。他人を馬鹿にするのも大概にしてくれと言いたい。異世界から来ましたって冗談にしても笑えないだろ。
第一どうやって来たんだ? まさかさっきの魔法か?
「ご主人様も分かってるでしょう? 私のさっきの魔法はこの世界では無いものだって~!」
「あれでこの世界に飛んで来たとでも言うのか?」
「実はそうなんです……。ご主人様にそこでお願いがあるんですぅ! 私を元の世界に返す為に協力して欲しいんですっ!」
「きょ、協力って言ったって俺今住所不定無職だし」
「今から御屋敷に戻って先週運び込まれた物を取ってきてくれればそれだけで良いんです!」
見ると目をうるうるさせながら頷くメイド。さっきまでのあの態度と口振りは何だったんだ? 情緒不安定かコイツは。
メイド曰く、胡散臭い商人が売りつけて行った黒隕石を奪う為にうちに潜入。慣れない仕事に疲れて婆や達の目を盗んでリュックの中で仮眠を取ろうとした結果、思いの他熟睡してしまい今に至るって感じらしい。
と言うかうちのメイドたちも何で中身も確認しないでこれ持たせたんだ? たるんでるだろ! ……まさか知ってて厄介払いしたんじゃないだろうな……違うよな婆や……?
「綺麗さっぱりそれで御終いですからぁ……!」
「それは残念だ」
「あら、一目惚れですの?」
「違うわい、おたんこなす! あれは今屋敷にはもう無いんだよ」
「え”!?」
「親父が国王のところに持ってったぞ?」
「じゃあ今直ぐ首都に!」
「どうやって国王に会うつもりだよ。こっちは住所不定無職」
「い、一応領主の息子で社交界デビュー!」
「勘当されました。その上こちとら上の方では有名な特異体質なんだから国王に謁見なんて無理無理」
俺の言葉を聞いて床にへたり込むメイド。余程ショックなんだろうなとは思ったが少しばかりいい気味だとも思った。偉そうにするからそんな目に遭うんだ……俺もそうだけど。
「どうやったら国王に会えます?」
「そりゃ功績を上げれば当然会えるよ」
「功績? 竜でも倒せば良いの?」
「簡単に言うな! でもまぁそれくらいの分かり易い功績を立てれば会えるべな」
「やるしかない……」
「は?」
メイドは急に立ち上がり他人の胸倉を掴んで涙目で睨み付けた。
「な、何だよ……」
「これからお前と私は一蓮托生だ。お前も成り上がりたいんだろ? なら私が力を貸してやるからお前も私に協力しろ!」
「えぇ!?」
「お前は魔法を使えない、私は魔法を使える。これから協力して功績を立てて名を上げ、お前は名声を手に入れ私は石を手に入れる。そして元の世界に帰る。何処にも損は無い筈だ!」
「で、でも」
「デモもプロテストもないんですよご主人様……! やらなきゃ私たちは御終いなの。分かる?」
「名前も知らない人と協力はちょっと……」
「耳かっぽじってよーーーく聞いてくださいよご主人様ぁ! 私の名前はパルヴァ。パルヴァ・アインホルンていうんですよぉ! ドイツ生まれベルリン育ちですわ!」
めっちゃ怖いんだけどこの人。口は笑ってるけど目をかっぴらきながら、小さいが低く威圧感のある声で名乗ってる最中も俺の胸倉をずっと小さく揺さぶってるんですけど! これ断ったら間違いなくやられる奴じゃん! どうなってんだ俺の人生! ドイツってどこ!? ベルリンて何!?
「貴方の御名前なんてーの?」
「メイドなら知って……いって!」
「な・ま・え・は?」
「は、はい! クニヴァース・フォン・ラファエロですっ!」
「チッ、貴族臭い名前の上に長い! 面倒だから今日からクニウス」
「え!? 他人の名前変えるなよ!」
「五月蠅いなぁ。もう勘当されたんだから一人でどうにかするしかないでしょ? なら名前も生まれ変わりなさいよ」
絶対貴族ってところが気に食わないし長いからってのが理由で生まれ変われなんて後付けだろ。だが確かにもうこの名前で何か通用するものはない。
生まれ変わったつもりでやるしかない!
「良いだろう……生まれ変わって必ず成り上がってやる!」
「良いわよクニウス! アンタになら出来る!」
分かり易い持ち上げ方をされてイラッとしたが、何はともあれ気合は入った。貴族の名残も捨てて一介の冒険者として必ず名を上げてやるっ!
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