第3話 入学式

 入学式は学校ではなく近くのホールで行われる。ホールはまだ開いていないがもう既に多くの人が集まっていた。会場の前には入学式と書かれた看板が置いてあり、その看板で写真を撮ろうと行列をなしている。そのほとんどが親と同行している人達ばかりだった。

 そりゃ一世一代のイベントだし当たり前なんだけど、なんか複雑な気持ちになる。

 別に親が来ないことに不満はないが少し寂しいと感じる俺もいたり。なんて歩いていると見知った顔と目があった。


 「………なに?」


 うわあ一番回避しようとしていたのになんでこうも会うのかね。

 朝俺に鋭い視線を向け、あろうことか初対面なのに罵詈雑言をかましてきた美少女が不機嫌そうに立っていた。彼女もみたところ一人のようだった。


 「い、いやあんたも一人なんだな〜と思って」

 「勘違いしないで、私は一人が好きだから一人なの、それにいちいちこんな行事に親なんか連れてくる方がどうかしてると思うわ」


 いやどう考えても来るだろ。それにこいつ絶対友達いないタイプだろ言動がまさにぼっちのそれだ。


 「両親は?仕事?」

 「お母さ……母親は仕事」


 あ、今絶対お母さんっていいかけてやめたな。


 「じゃあお父さんは?」


 不意に目が冷たくなった気がした。もともと冷たいのだが。何か隠すように俺から視線を外した。


 「いないわ」


 その声音に寂しさのようなものを感じた気がした。こいつも俺と同じで複雑な家庭なんだろうか。そう思うと無性にほっとけない気がした。

 寂しさを知る俺だから彼女の気持ちもわかってしまう。

 きっと同情されるのは嫌だろうが……


 「そうか、聞いて悪かった。実は俺も母親はいないんだ。だから苦労を分かるとは言えないけど何か力になれたら」

 「だからなに?私は別に同情してなんて言ってないしむしろいないからと言って困ったこともないわ。そもそも何?弱みに漬け込んで私を落とそうとしたの?ならお構いなく、別にあなたなんかに力になってもらうことなんて何一つないから」

 「……………」


 心配した俺がばかだった。しかも恥ずかしい。ちょっとこいつの言ってることが当たってることが。

 心に抱えてる問題をわかってやる、みたいなハーレム系主人公のような考えと台詞を吐いたつもりがただのイタイやつみたいになった。恥ずかしい、もうこの場に入れない。穴がなくても潜りたい気分だ。


 「それとあなたと仲良くする気はないと言ったはずだけど」

 「でも喋るなとは言わないんだな」

 「同じ意味だと思っていたのに、あなたの理解が乏しいだけじゃない」


 この野郎。綺麗なくせにどんな性格してんだよ。


 「ホールが開きました。新入生の皆さんは渡された番号の順に入ってください」


 ホールが開くアナウンスが鳴る。各々が声に従い早い順番の人達からホールに入っていく。俺は結構後ろの方の番号だから、と前に視線を戻すともう彼女はいなくなっていた。

 なんだよあの女ちょっと声かけてからとかでもいいだろうに。



 ホールにはクラスごとに席が分けられていて三組と書かれた席の一番の席に座った。俺のクラスは三組らしい、それと自慢じゃないが俺の名字が「雨宮」なので小学校から一番を逃したことはない。まあほんとに自慢じゃないが。


 開始までまだ時間がありどんな人がいるのか周りを見てみた。ここはそこそこの進学校らしく入学してくる人も多いと聞いていたが噂に違えない人数だった。

 三組はみたところまだ空きが多くある。ていうか、あいつほどじゃないが可愛い子もやっぱいるな、さすが高校。中学レベルが国内なら、高校は世界というのは本当だった。


 なんだあいつ筋肉すごすぎだろ、あいつ結構イケメンだな。お、あの子もスタイルすごいし顔も可愛い!あの子は…………

 一番合いたくないやつとまた目があった。仕方なく手を振るもシカトされる。あいつ一緒のクラスかよ。でもやっぱりどこに紛れても目立つ可愛さをしてるな。腹たつけどその証拠に数人の男子生徒に声かけられている。くそ塩対応だけど。あいつ友達作る気あんのかよ。


 「となり失礼」


 不意に掛けられた声に緊張しつつ視線を移した。端正な顔の男が席を下ろし座っていた。身長は同じくらいかちょっと高いぐらいで、かなりイケメンでなんか雰囲気がある。


 「ああ自己紹介がまだやったね。俺は小澤舜、気軽に舜ってよんでくれていいよ。よろしく」

 「ああ。俺は雨宮晴翔、俺も晴翔でいいよよろしく」


 なんかすごい鈍ってるな、初対面なのに結構フレンドリーだし。でも悪いやつじゃなさそうだ、なんか仲良くなれそうだな。


 「いやあ、となりが君でよかったわ。可愛い子とかやったら緊張してまうから」


 なんか若干ひどいこと言われ気がしなくもないが。


 「それあいつのこと言ってる?」


 俺は当の美少女に指をさした。未だ男子にも女子にも囲まれ嫌そうにしているそいつを。


 「ああ、あの子な。確かにむっちゃ美少女やんな。外でもむっちゃ噂なってたわ、べっぴんな子がおるって」


 やっぱあいつ他から見ても美少女に見えるんだな。


 「まあ当の本人は誰も相手にしてないっぽいけど」

 「それな、てか」


 俺はさっきから気になってることを聞いた。


 「なんで関西弁?」

 「俺京都出身やから、やっぱ変?」

 「いやそんなことないけど、普段聞かないからな。そうかそれでそんな砕けたしゃべり方なのか」

 「それ人のこと言える?晴翔も同じように返してきたやん」

 「そうか?でもやっぱ関西ってそんな気するしな、なんていうかみんなフレンドリーっていうか」

 「なんやそれ。まあ初対面でこんな会話できるんは初めてかもしれんわ。なんか話しやすいっていうか。仲良くできそうやわ」

 「なんだよそれ、バカにしてんのか」

 「してへんよ。まあこれからよろしく」

 「おう」


 こうして俺の高校初めての友達が出来た。

 えっと、あいつは………


 「ほんっとしつこいわねあなた達。◯んだ方がいいんじゃない?」

 「おお!ありがたいお言葉」


 まあそれなりに毒舌は一部の男子にお気に召しているようで。てかあいつ友達作るの下手すぎないか。俺も言えたもんじゃねぇけど。

 ん?なんだ?なんか喋ってる。


 「(こっち見んな、◯すぞ)」


 「どしたん?そんな青ざめた顔して」

 「いや、今殺害予告された」

 「うん?」


 ほんとおっかねぇ。あいつなら目だけで人殺せるかもしれない。



 そんなわちゃわちゃした前振りがあった入学式は滞りなく終わった。

 校長の話があって校歌を歌って、担任の教師の発表があったくらい。唯一何かあるとするならそれはあの美少女とトイレですれ違ったくらいだった。


 「ストーカーしないで!」

 「してねぇよ!」


 くらいに。

 会場から人が出ていく。あんなにいた生徒もいなくなってホールはやや広く感じる。


 「晴翔はこのあと来んの?」

 「このあと?なんかあるのか?」

 「この後親睦深めよう言うてクラスで打ち上げするみたいやねんけど」

 「いや、今日は疲れたから帰るわごめん」

 「全然ええよ。じゃあ明日また学校で」

 「おん」


 こうして激動の入学式は終わった。明日から本当の高校生活がスタートする。そう思うと無性に走りたくなって急いで帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る