第2話 美少女
俺
また夢を見ていた。妹と別れた最後の日の。あれから連絡も取り合っていないし、噂も聞いたことない。冬美は今何してるんだろうか。
なぜか天井に伸ばしていた腕を下ろす。
学業普通、部活にも所属していないそんな普通の俺。冬美は立派になってすごくなってるんだろうか。幻滅されたらどうしよ……
「って、今何時だ?!」
慌てて隣に置いたスマホをとった。時間はまだ六時半、入学式まで二時間はある。
こういう日はやっぱ早く起きれるんだな。
俺は早速ベッドから飛び起きカーテンを開いた。雲ひとつない快晴の空から太陽の光が部屋を照らす。
いよいよ今日から正確には二時間半後から俺の高校生活がスタートするのか。
俺はその興奮を抑えられず思わず。
「ひゃっほー!」
と叫んだ。
スマホをベッドにバウンドさせ洗面所に行き歯を磨き、髭を剃り顔を洗う。人生一回しかない高校の入学式なんだ気合い入れないとな。
「よし、髭OK、鼻毛OK、髪の毛OK!」
鏡に映る俺は高校生なんだ。
朝食に目玉焼きと食パンを焼き、コーヒータイムといっしょに嗜んでいると気づけば七時半を過ぎていた。
真新しい制服に身を包み持ち込み表を見て、リュックにそれを詰めるともういい時間になった。思ったより時間が足りなかったことよりもこれからスタートする高校生活が楽しみすぎてそれどころじゃなかった。
いよいよ登校。この日のために新調したスニーカを履き紐を結ぶ。
「行ってきます」
誰に向かって言ったのかわからない挨拶を済ませ扉を開ける。この景色から俺の新たな第一歩だ。そう足を伸ばした矢先、隣からもドアの開く音が聞こえた。
「行ってきます」
この人も誰に向けたものでもない挨拶をしている。
そして隣に目を向けるや否や俺の目は奪われた。
まだシワのない制服とスカートとニーソックスで出来た絶対領域。これがいわゆるJK。
それよりも目を釘付けにしたのは、長くて艶のある黒色の髪の毛、少し垣間見えた横顔は真っ白で透き通るような肌が美しく、切れ長で茶色がかった瞳は宝石のように映った。スラリと伸びた鼻筋と小さく可愛らしい桜色の唇。まさに今まで見たどの生徒よりも、どんな女優よりも綺麗で可愛いと断言してもいいほどの美少女だった。
文字通り俺の目は奪われ、その美少女から目が離せなかった。
とうとうその美少女は鍵を閉めこちらを向く。正面から見ると余計に可愛く見える。左目の泣きぼくろが妙に色っぽかったり、黄金比と呼ばるほど顔のバランも取れていた。それに顔だけでなく、華奢な体には余りある胸部。マジで完璧だった。
そうして数秒固まっていると彼女は歩を進め、目の前に来る。身長は俺より少し低いくらいか。いやあ、近くで見るともっと可愛いな〜。
「あの、」
うわあ声も綺麗だ。まさに天使が奏でる音楽のような……などと俺は油断していた。
そして次に発せられた声に、俺の背筋は絶対零度まで冷えこんだ。
「さっきから何じろじろ見てんの?キモいんだけど」
恐ろしいほどドスの効いた、とても彼女とは思えない声だった。
「あと、邪魔なんだけど。どいてくれる?」
え?気の、せいだよな。
「ああ、ごめん。ちょっと綺麗だなあと思って。俺も一人暮らしなんだ、学校も一緒だし今日からよろしくな」
「口説いているの?わざわざ自分の立場明かして。俺一人だからって誘ってんの?言っとくけど私あなたと仲良くする気ないから」
気のせいじゃ、ない?!
「…………」(そこまで言ってないんすけど………)
通り過ぎていく彼女を見送る。
……………なにあの目つき?怖すぎないか。まさにバラにトゲがあるとはこういうことだ。もう俺の高校生活は終わったのか………
いや、ちがう!今日からだ。俺の高校生活は今から始まる。待ってろ俺の青春!
若干彼女と距離を開けつつも向かう場所は同じなので彼女の背を見ながら入学式の会場に向かう。
その時、昔の光景がフラッシュバックした。あの日、妹と別れた最後の日を。不意に彼女の背が妹に見えた。ほんの一瞬だが、昔見たあの背中に。
いや、さすがに気のせいか。俺の妹があんなにおっかないわけないしな。
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