妹は兄を認めない!
(⌒-⌒; )
第1話 約束
「お兄ちゃんどこ行くの?」
「ごめんな。お兄ちゃんはもう冬美とは一緒にいれないんだ」
準備を進めたカバンを背負うと、困惑した妹の冬美は俺の言葉に寂しそうに顔を歪めた。泣きぼくろが印象的な左目にはうっすらと涙を溜め込んでいる。
「どうして?なんでいっしょじゃダメなの?どうして?」
「どうしてって言われてもな」
「やだよ。私お兄ちゃんといっしょじゃなきゃイヤだよ」
そう泣きつく妹の頭を撫でることしかできなかった。実際自分でもどうして離れるのかわからなかったから。
両親の都合で別れるのはわかったが、それが知らないほどに俺達はまだ幼かった。
「晴翔、そろそろ行くぞ」
「あ、うん。じゃあな」
父さんに呼ばれるままそちらに足を向けると不意に袖を掴まれる。妹が小さな手で、一生懸命引っ張っていた。
「やだよ。私お兄ちゃんと離れたくないよ!もっと遊びたいよ!」
「お兄ちゃんもできることなら離れたくないんだ。でも仕方ないだろ」
「冬美、お兄ちゃんはもう行くから離してあげましょう」
「やだ!冬美、お兄ちゃんといっしょにいる!」
母さんの呼びかけにも応じず涙を流しながら必死にしがみつく。
「もう、この子は」
俺はそんな健気な妹の頭をもう一度優しく撫でた。小さくてサラサラな髪の、もう会えないかもしれない妹の頭を。
「冬美、じゃあ約束だ」
「約束?」
「ああ、約束。お兄ちゃん絶対すごい人間になってまた会いに来るから冬美もすごくなれ。そしたらまた会えるはずだ」
「ほんとに?!すごくなれば冬美、お兄ちゃんとまた会える?」
「うん。絶対会える。だからそれまでお別れな」
そう言って別れる前、妹の小指に自分の指を絡める。
「約束だ。絶対また会おう」
「うん、約束!私いっぱい頑張るから、お兄ちゃんに会えるように頑張るから!」
「ああ。じゃあ母さんも体に気をつけて」
母さんもそれまで我慢してくれていたのか俺を抱きしめた。
思えば母さんの抱擁を受けるのもこれで最後か、と幼いながらに感じていた。もう会えない暖かくて強い力に俺は涙を堪えた。
「ごめんね、私たちのせいで。最後までいてあげられなくて」
「ああ、お母さんずるい!冬美も!」
冬美も抱きついてくる。けど母さんはそんなことなど構わず涙ぐんだ目で俺を見た。
「晴翔。こんなこと言える立場じゃないけど、ちゃんと生きて」
それが母さんから聞く最後の言葉だった。
そうして俺は家を出た。
「じゃあな、冬美」
「うん!約束だよ!」
そしてこれが最後に聞いた妹の声だった。
それから別の生活がスタートすることになった。小学校に行き、中学に上がり、そしていよいよ高校生に。
まだ早い一人暮らしを父さんに了承してもらい高校から近いアパートを借りた。いよいよ明日入学式だ。
この抑えきれないドキドキをまくらに押し込み俺は目を瞑った。
そういえば隣の人も俺と同じ制服届いてたな。どんな人なんだろう。明日が楽しみだ。
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