004 3
中には十二単に身を包んだ、十六歳くらいの女の子が四人居て、男と私が入って来たのを見るなり嬉しそうにする者や、嫌そうにする者、または興味がないと言わんばかりにお喋りに興じる者様々だった。
「穂積様、その女の子が言っていた最後の一人ですか?」
「そうです。これでやっと巫女候補が揃いました。ちょうど今夜、龍神様が下りて来られる日です、儀式は夜に行います。それまで皆さん仲良くしていて下さいね」
「はい、穂積様」
穂積と呼ばれた男はそう言うと私の背中を押して中に入れると御簾を下ろしてしまった。
「初めまして、貴女は何ちゃん? 私は
「藤宮譲羽。こう見えても十六歳だから」
「えー! うっそー! 見えないよぉ」
「病気だから」
「あ、ごめん。聞いちゃいけない感じ?」
「別にそんなことは無いけど……」
朱里という少女は、十八歳ぐらいだろうか? セミロングの髪を流行りのゆるふわウェーブにしている。
「さっきの男の人は誰?」
「え、自己紹介されなかったの?
朱里の瞳はキラキラと輝いており、穂積というあの男に恋をしているのだという事がバレバレである、誘拐犯に恋をするなんて、どんな心理状態なのだろう?
「朱里ちゃんは穂積様大好きだもんねー。憧れちゃってるもんね、いや、むしろ恋? いやぁ、お年頃だねぇ」
「もう! からかわないでよ、梨歩ちゃん」
「あはは、ごめんってば。あ、私は
「同い年」
「聞こえたけどマジ? 全然そうは見えないよ。ねえ、友枝ちゃん」
梨歩に声をかけられた少女が眉間にしわを寄せて溜息を吐きながら、ずるずると十二単を引きずって近づいて来る。
「人の事、あんまり言うのはどうかと思うわよ。聞こえたけどホルモン障害なんでしょ? 本人じゃどうしようもないじゃない」
「そりゃそうだけどさー」
「私は、
「同感、これって集団誘拐?」
「そうなんじゃないかしら? 龍神とか言うのを崇めてる怪しい宗教団体だって思ってるわ」
「ちょっと、友枝ちゃん。穂積様の事を悪く言うのは止めてよ」
友枝を朱里が睨むが、あまり迫力はない、どちらかというと小動物が一生面命力んでいるようで可愛らしいと言ったほうが当てはまるのかもしれない。
友枝は育ちが良いのが手にとるようにわかる感じで、切れ長の瞳を引き立てるような姫カットの真っ直ぐな背中まである黒髪を垂らしている。
残る一人は、と言い争いに発展しそうな朱里と友枝を気にしつつ残りの一人を見てみると、丁度こちらを見ていたのか、目が合ってヒラヒラと手を振られた。
「あ、あの子は
「そだよー」
「だって。私達、皆こんな訳のわからない場所に連れて来られちゃったもの同士仲良くしてこ」
「人身売買とかだったらすぐに離れ離れになるんじゃないかな?」
「穂積様に限ってそんなことするはずないじゃない。譲羽ちゃんって友枝ちゃんみたいに、穂積様が嫌いとか言っちゃう気?」
瞬間、朱里が面倒くさい少女だと察してしまう、嫌いだと答えても、好きだと答えても気に入らないに違いない。
「私、さっき目が覚めたばっかりなの。状況が分からない以上油断できないって思ってるだけ」
「大丈夫よ。穂積様が私達は龍神の巫女候補だって言ってるんだし、信用出来るってば」
どこに信用できる要素があると言うのだろう? 朱里は私や友枝達が知らない事を知っていると言うのだろうか?
「なんでそんなに穂積ってヤツの肩を持つの?
」
「私、一番最初にここに来たのよ。それで、皆が揃うまで穂積様には色々と面倒見て貰っちゃったから、信頼できるって思えるんだよね」
これはあれだろうか、ストックホルム症候群という物なのではないだろうか? 正直言って、朱里以外の少女は穂積に気を許しているようには見えないのだけれども、それを鑑みたうえで朱里は穂積を信用できる等と言っているのだろうか?
最初にここに来て、他の少女よりも接する時間が長かったから、錯覚しているだけなのではないだろうか?
穂積は確かに眉目秀麗という言葉がピッタリな美青年だが、私からしてみれば誘拐犯でしかない、そんな男のどこに好意を抱けと言うのだろう。
「朱里ちゃんはホント、穂積様大好きだよね。うんうん、いいんじゃない? 想いは人それぞれだよ。ま、私は穂積様にはまだ心開いたつもりはないけどね」
「梨歩ちゃん!」
「だってぇ、友枝ちゃんの言う通り、誘拐犯っていう可能性は残ってるわけじゃない? 私、別に朱里ちゃんみたいに天涯孤独っていう身の上じゃないし、一般家庭のフッツーの高校生だし、いきなり異世界から召喚しただの、龍神の巫女候補だ、とか言われてもって感じなんだよね」
「わかるー。私もそう、別に困った事とか、事故に遭ったとかでもないし、いきなり気が付いたらコンクリートジャングルの世界から自然豊かな科学文明未発達世界に召喚とか言われても意味わかんないってカンジだよね」
「ほら、朱里さんが特殊なのよ。譲羽さんだって、穂積様を警戒しているじゃない」
「なんで皆分かってくれないの? 穂積様は素晴らしい人なんだから!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます