第二章 『勇者』は商売です!8

「「…………」」


 レンドルに呼ばれていた双子は、戻ってきてからひたすら黙り込んでいる。


「……お二人共、どうかされましたか?」


 フレイアはお茶とお菓子をセッティングしながら、二人に問いかけた。


「…あー…」


 ソファに足を組んで凭れていたレオは、だらだらと体を起こした。


「三日後にね。魔族領との境目に向かっていくことになったんだよね…」


「魔族領……」


 人族と魔族とは、仲が悪いわけでもなく。寧ろ、混血もいるくらい仲が良い。

 なのに、何故二人が嫌そうにしているのかと、フレイアは首を傾げた。


「四年前だったかな?魔族領で変異体の魔物の討伐の手伝いで、レオと行ったんだけど…」


 エレがチラリとレオを見た。


「レオがちょーっとはしゃぎすぎて、変なもん流行らせちゃったんだよねぇ…」


「…黒歴史……」


 黒歴史?と、レオの呟きに首を傾げるフレイアに、エレはにっこりと笑った。


「フレイアは聞いたことがないかな?『商売繁盛~♪』ってヤツ」


「ああ。冒険者の間で流行ってる言葉ですか?確か酒場でよく聞くと聞いたことがあります」


 パンと軽く両手を合わせて頷くフレイア。


「「商売繁盛~♪ササ持ってこ~い♪」」


 エレとフレイアの言葉が重なる。


「だーーーっ!!」


 レオは唸ってソファに倒れ込んだ。


「レオ様!?」


「だぁって、『勇者』って、〖職業〗なんだよ?『商売人』と同じじゃん!しかも、目の前に二つも揃ってたら、口ずさんだって仕方ないじゃないっ!!」


 クッションを抱きしめ、あーだこーだと騒ぎ出したレオを、フレイアは必死で宥めた。

 そんな二人を見ながら、エレは当時を思い出していた。



 ※※※※※※※※


[エレオノール視点]


 十三歳のある日。魔族領で暗黒熊ブラックベアの変異種が現れて、手こずっているため力を借りたいと、レオ兄様に書状が届いた。


「親子の変異種らしい。子連れな上に変異種だ。かなり被害も出ているそうだ。行ってくれるか?二人とも」


 レン兄様からの頼みなので、勿論、二つ返事で引き受けた。


 サバンサの密集した森の中。白色の多い変異種の暗黒熊ブラックベアの親子はそこにいた。


「なんだ、あの模様は…」


「見た事ないな。しかもサバンサを食っているぞ…」


 一緒に来た騎士達の声を聞きながら、レオの目は変異種に釘付け。


「……が笹食べてる…」


 ボソッと呟いた言葉に、私の頭にレオの言う異世界のパンダが笹を食べる姿が浮かんだ。


 うん。パンダだね。でも、こっちにはいないからね。


 笹もこっちでは、〖サバンサ〗と呼ばれる植物の事だった。

 ちなみにこっちの世界では『ササ』は別の物のことだ。


 隠れて様子を見ていた私達の反対側で、冒険者達が動き始めた。


「先に親を潰せ!」


 リーダーらしき男の声に、変異種の親の方に魔法や物理攻撃が集中した。


「…………」


 攻撃は吸収され、変異種達は気にせずサバンサを食べ続けている。


「攻撃が効かないだと……!?」


 いや、驚いてるけど、説明されたよね?聞いてなかったのかな?


 レオはオリクスとグランに頼んで、サバンサを一つ切り倒して、枝を落として槍のようにしていってた。


「エレ。ちょっとこれ、強化してくれる?」


 先を斜めに切って、槍状にしたサバンサを強化すると、レオはそれを投げようと構えた。


「商売繁盛…」


 その言葉に、私の脳裏には異世界のある場面が浮かび上がった。


「ちょ、レオ。それは何か違うでしょ!!」


 私の言葉と、レオが掛け声に合わせて、槍を投げるのは同時だった。


「ササ、持ってこ~い!!」


 ブンと音を立てたサバンナの槍は、変異種の親の真正面を捉えていた。


「っ!」


 変異種は飛んできたサバンサを前脚で受け止めようとしたが、威力が強すぎて前脚で挟んだまま額を貫いた。


「……」


 口からゴフッと血を溢れさせ、ブルブル震えながら変異種の親は息絶えて倒れた。


『……う、うおおおおぉーーっ!!』


 周りからの歓声も気にせず、レオは二本目も強化して変異種の子供に投げつけた。


 哀れ変異種の子供は、親にすがりついてる所で、脳天を貫かれて息絶えた。


「……終わっちゃった……」


 肩をグルグル回しながら、ポツリと言うレオ。


 いやいや。終わっちゃったじゃないでしょ!


「レオ!何であんな事叫んだの!?」


「……いや、ついつい言いたくなっちゃって…。どうせ『勇者』も〖職業〗なんだから、〖商売〗みたいなもんじゃない?」


「だからって…」


 二人でコソコソ話してると、冒険者達の方が賑やかになっている。


「…お二人共。とりあえず討伐終了です。魔族領の方に報告に参りましょう…」


 グランに促され、討伐終了の報告をすると街をあげてのお祝いパーティとなった。


 堅苦しいことから抜け出し、四人で街を散策していた時だった。


『商売繁盛~♪ササ、持ってこ~い♪』


 そんな言葉があちこちから聞こえてくる。


「………はい?」


 レオの口元がヒクヒクと引き攣っている。


「こっちの世界では、ササはあれだからね…」


 レオの耳にだけ聞こえるように囁き、酒場を指さす。


『商売繁盛~♪ササ、持ってこ~い♪』


 言葉に合わせて、酒杯を持ち上げてく冒険者達。


「……マジか…」


 この一件で、この言葉は各地の冒険者達が酒場で『勇者』にあやかろうと叫び出し、あっという間に広まっていったーーーー。



 ※※※※※※※※


 異世界の商売の神様関係だなんて、誰にも言えないよね。


 今度行くのは、その言葉の始まりの地だ。

 絶対、騒ぎになるよね………。


 今から憂鬱ですーーーー。


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