第二章 『勇者』は商売です!9

「無事のお帰りをお待ちしております…」


 そう言って、グイードを筆頭に、ダリヤとフレイアに送り出されたのが、懐かしいと思うほどに数日が過ぎた。


「めんどくさい…」


「そうだよねぇ…」


 馬車の中で、二人は溜息をついた。

 討伐依頼に出かけるのは珍しくない。寧ろ、城にいるより気が楽である。

 今回、問題なのは…。


「なあんで、魔族の王子様が来るかなぁ……」


 御歳二十歳の魔族の王子が、討伐に加わることになったと、向かっている途中で連絡が入ったのだ。


「魔族もこっちと同じやり方で構わないとは言われたけどさ…」


「予想される理由が、『聖女』に求婚するつもりじゃないかって……」


「「無理でしょ…」」


 はぁと二人は再び溜息をついた。


「サクッと片付けて、サッサと帰ろう…」


「だね…」


 同行の騎士達も、長い付き合いの者ばかりなのだ。理解してくれるはず。


 そうして、話し合ったものの。翌日、目的地に到着するなり、


「魔族領の第一王子ガディル・ヘリオ・ギルメットだ。お前達が『勇者』と『聖女』か?」


 二人の前に陣取り、頭一つ背が高く、腰まで真っ直ぐ伸びた銀の髪に金の瞳の王子は、開口一番そう言った。


「「…………」」


 突然、二人の周りを歩きながら、上から下までジロジロ見てくることに、二人は不愉快になった。


「ふむ。随分と貧弱そうな『勇者』と、色気のない『聖女』だな」


 元の位置に戻るなり、そう言われた瞬間、王子側の魔族はアタフタと真っ青になって慌て出し、双子側の騎士達は殺気を押さえながらも半眼で王子を見ていた。


「そちらも随分と頭の悪い『王子』様ですね。脳筋ですか?頭の悪さは『聖女』の癒しの力でも治りませんよ、お大事に♪」


「レオ……」


 にっこりと笑って言い返したレオに、エレは片手で顔を覆い、護衛騎士達はやっちまったという顔をした。


「俺の頭が悪いだと?」


「我々がここにいる理由が分からないから、そのようなことを言われるのでしょう?貧弱そうな『勇者』に頼らねばならない討伐ですよね?貧弱な私では務まらないでしょうから、帰らせていただきますね♪」


 そう言って身を翻し、乗ってきた馬車へ向かうレオ。


「…色気をお求めなら、その手の方々にお声がけ下さい。私もお役に立てそうにありませんので、帰らせていただきます…」


 ぺこりと頭を下げて、エレもレオの後を追う。

 同行の騎士達も一礼をすると、速やかに二人の後に続き、帰り支度をはじめる。


「お、お待ちくださぃぃっ!!」


 依頼主である魔族領の領主が慌てて追いかける。

 来るまでに討伐対象の調査はしているので、冒険者達で事足りることを知っていたからこそ、帰っても問題ないと判断したのだ。


 本命は、討伐ではなく『』と『』の見合い。


 そう結論が出た以上、ここに留まっても意味がない。

 面倒なことになる前にさっさと帰りたいのだ。

 そもそも男同士で見合いもない。


 帰り支度が整った頃、山沿いから赤い煙が立ち上っていくのが見えた。


「スタンピードだっ!!」


 赤い煙は、スタンピードの発生を知らせる合図。


「……このタイミングでそう来る?」


「これは仕方ないよね…」


 馬車の中から煙を見上げ、二人は顔を見合せた。


「さ。お仕事だよ、レオ」


「仕方ないなぁ。に励みますか!」


 一行はスタンピードに備えるため、急ぎ防衛線を張るために協力するのであったーーーー。


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