第二章 『勇者』は商売です!7
○『勇者』レオノーラの場合
「レオ様!どうか、こちらの品をお受け取り下さいませ!!」
「いいえ、レオ様!!ワタクシの品を!」
「お願いでございます!わたしのこちらを…」
騎士の訓練場で鍛錬を終え、王太子宮に戻ろうかと話していた所を、手に手に贈り物を用意した令嬢達に囲まれた。
「ごめんね。誰からも受け取らないようにしてるから」
にっこり笑うと、トンと飛び上がって、頭上にあった木の枝に飛びつく。
『レオ様ーっ!!』
クルリと体を回して、木の枝の上に立ったレオノーラに、令嬢達の叫びが届く。
「……」
苦笑しながら手を振り、トンと木の枝を蹴って、木々の間を渡っていく。
「……はあん♡レオ様、かっこいいですわ…」
「あのつれない所もいい…」
残された令嬢達は、ウットリとした顔でレオノーラの姿が見えなくなるまで見送っていた。
『…………』
それを見ていた騎士達の数人は、
ーーあれは女……。あれは女だから、悔しくないっ!
と、心の中で言い聞かせていたのであった。
※※※※※※※※
[レオノーラ視点]
「よっ!と……」
王太子宮の近くまで来ると、最後の木の枝から勢い良く地面に飛び降りた。
「ん~~。つっかれたぁ……」
思いっきり体を伸ばし、肩を回す。
お披露目までは、護衛騎士のオリクスが対処できる程度だった令嬢達は、お披露目が終わると倍以上に増えた。
流石にオリクス一人では無理なので、訓練場から王太子宮に戻る時だけは、一人でサッサと戻ることにした。
ーーこういう時は、エレの《
エレは女だと思われてるから、貞操の危機が多いらしいので、持ってて正解なんだろう。
かくいう私も、最初は受け取っていた贈り物。
《危険関知》に引っかかっるので、《鑑定》の出来る騎士のオリクスに視てもらったら……。
媚薬やら、呪いやら、魔導具やらのオンパレード。
一番清楚で大人しそうだった令嬢から貰った手作りのクッキーの中に、『目の前の人間なら誰にでも発情する超強力媚薬』が入ってて、しかも渡された近くの部屋を押さえられていたと聞かされて、誰からも貰うまいと固く誓ったのだ。
「「貴族、怖い……」」
エレと二人で、何度そう呟いたことか……。
まあ、お陰で《危険感知》、《毒物探知》、《探索》のスキルがあっという間にカンストした。
《毒耐性》を上げるため、口にしようとしたら、ダリヤに一時間程叱られた。
その後、トドメと言わんばかりにグイードにもコンコンと諭された。
「
警護の騎士に手を振り、歩き慣れた王太子宮に入る直前、横から走り出てきた影をスっと避けた。
「きゃっ♪…あぁ?」
ワザとぶつかろうとしたメイドは、私が避けるとは思わなかったらしい。
可愛い声を上げたものの、支えてもらえないことに驚きながら地面に突っ込んだ。
「「「…………」」」
騎士達を見ると、二人とも無言で頷いたので、関わらずに宮に入っていく。
「は?ええっ!?なんで?何で、無視されんのっ!?」
メイドはしばらくそのままでいたようだけど、無視して立ち去る私に驚き、飛び起きて叫んでいた。
※※※※※※※※
「ほら。くだらない真似してないで、さっさと仕事に戻りなさい…」
「くだらないって何よ!『勇者』様とお近付きになりたくって、何が悪いのよ!!」
一応、騎士として手を差し伸べたものの、メイドはその手を叩きながら立ち上がった。
「何が悪いって、全部悪いんだよ。君でもう何人目になるか、いちいち数えるのも面倒なくらいだからね」
「は?」
騎士の迷惑そうな顔に、メイドは首を傾げる。
「ほら、さっさと仕事に戻りな。こんなとこ、侍女長や王女殿下に見つかったら…」
「あら、わたくしがなあに?」
視線を向ければ、侍女と護衛を連れたエマリアがそこに居た。
ーーあーあ。お気の毒様……。
騎士達は目の前のメイドの運の悪さに同情した。
エマリアは、『勇者』と『聖女』に迷惑をかける者に、幼いながらも容赦がない。
幼いから容赦がないのかも知れないのだがーー。
「…見ないメイドがいるわ。ここにはメイドは来ないはずでしょ?この者は間者なのかしら?」
にっこりと無邪気な笑顔でそう言うが、目は笑っていない。
エマリアの背後では、侍女が憐れんだ視線をメイドに向けている。
「か、間者だなんて…。そ、その道に迷いまして…」
それらしい言い訳だと思ったのだろう。
しかし、彼女以外のそこにいた者達は、その言葉こそエマリアの待っていた言葉だと知っている。
「まあ、迷ってしまったの?それは大変だわ!では貴女がちゃんと道を覚えられるようにしてあげるわね♪」
「へ?」
その後、大荷物を抱えたそのメイドが、後ろをエマリアの飼うー産まれたてをレオが拾ってきたー魔犬ドルビットに追いかけながら場内をひたすら歩き回る姿が目撃されるのであったーーーー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます