第二章 『勇者』は商売です!4

「うっわぁ。職人技だねぇ…」


 レオが出来上がった王子達の衣装に声を上げる。


「ホントに……。あっという間だったわね。ありがとう、フレイア」


 サラディールの言葉に、慌てて首を振る。


「いえ!ワタシ如きが殿下方の衣装を触らせていただくなど、恐れ多いことでした…」


 白い衣装の裾、襟、袖に、白銀の糸でツルバラが刺繍された衣装は、最初の物より豪華な仕上がりに変わった。

 昼過ぎから始めた手直しは、夜も更け始めた頃に出来上がった。


「図案もなしにやっちゃうんだもん。すごいよ…」


「レオ、苦手だもんね」


「そうだね、エレのが得意だね…」


 はんっと鼻で笑い合う双子に、フレイアは目を白黒させている。


「ああ、気にしなくてもいいのよ。この子達はいつもこうなんだから…」


 サラディールはコロコロと笑いながら、衣装を侍女長に渡した。


 今の双子は、どちらも同じ格好をしている。

 膝下までの長さのシャツタイプの寝巻きの上から、どちらも上着を羽織っていた。

 理解しているものの、やはりどちらも性別がはっきりしない姿であった。

 レオは女性にしては背が高く、エレは男性としては普通の高さだ。

 つまり、並ぶとどちらの背の高さも変わらないのである。

 さらに今の二人は、伸ばした髪をそのままにしている。


 ーー美人の姉妹にも見えるし、美形の兄弟にも見えます…。


 実際は姉弟なのだと理解してても、目が混乱してしまうのだ。


「紛らわしくてごめんね。でも、意図的にやってたら、慣れちゃったんだよね」


「そうそう。たまに自分の性別忘れてて、皆に叱られるしねぇ…」


 謝るエレの隣りで、レオが両手を頭の後ろで組んでいる。


「でも、エレが男なのに『』なのは、ホントだから♪」


「~~っ!」


 レオの言葉に、エレが口を尖らせる。


「それより、引越しどうする?今からするなら、手伝うよ?」


 レオがにっこり笑いながら、フレイアの顔を覗き込む。


「そんな!お二人に手伝っていただくなど、とんでもない!!」


「レオは《空間収納インベントリ》持ってるから、すぐだよ?」


 断ろうとしたフレイアに、エレが声をかける。


「そうね。早めに移った方がいいでしょう。私も手伝いますから、今からしてしまいましょう!」


 ダリヤの言葉に、フレイアは寝巻き姿の双子を連れて、こっそりと自室に戻った。


「エレは、ドアの前にいなよ」


「分かってるよ」


 男のエレを見張りに立てて、レオはせっせと纏められていく荷物を収納していく。


 あっという間に部屋の私物は無くなってしまった。


「エレ、終わったよ」


「分かった。じゃあ、飛ぶよ!《瞬間移動テレポート》!」


「は?」


 エレが入ってくるなり、足元に魔法陣が現れた。

 驚くフレイアが床から顔を上げると、先程までいた部屋に戻っていた。


「《瞬間移動これ》だけは、私は使えないんだよねぇ…」


「その代わり《空間収納インベントリ》使えるでしょ?数人だと短距離しか飛べないんだから、そっちのがいいよ」


 フレイアはぽかんとなったまま、ダリヤに肩を叩かれた。


「さ、部屋に案内しますよ」



 その日、フレイアはダリヤとレオに手伝われ、無事に王太子宮の双子付き専属侍女になったのであるーーーー。


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