第二章 『勇者』は商売です!3

「失礼いたします。サラディール様。トワレ男爵令嬢を連れて参りました」


 侍女長が一人の侍女を連れてきた。

 銀色の髪を丸めて団子にし、不安そうに頭を下げている。


「顔を上げてちょうだい。貴女にお話があって呼んだのよ」


 サラディールの言葉に、令嬢は床にぬかづいた。


「誰にも秘密は申しておりません!ですので、罰するならワタシだけでお願い申し上げます!!」


 突然の行動に、そこにいた全員が呆気に取られた。


「……あ。エレ。ほら、討伐行く前に言ってたのって、この人じゃない?」


 レオの言葉に、エレが侍女の前に膝をついた。


「あの……、顔を上げてもらえますか?」


「………」


 エレの言葉に、彼女は恐る恐る顔を上げた。

 彼女の怯えて潤んだ水色の瞳と、エレの翠の瞳が合った。


「うん。レオの言う通りだ。あの時は落し物を届けてくれてありがとう」


「あの…。その事でお叱りを受けるのではないのですか?」


 にっこり笑ったエレに、侍女は首を傾げた。


「…二人とも。ちゃんと説明しなさい…」


 レンドルの言葉に、エレは侍女に手を差し出して、彼女を立たせた。


「討伐に行く前に、両親から手紙が届いたんです。それをエレが落としちゃって…」


「落としたというか、風に飛ばされたんだけど…」


「でも、結局落ちたよね?」


「……ソウデスネ」


 レオの視線から顔を背ける。


「…つまり、拾った際に中を読んでしまったと…」


「申し訳ございません!!」


 レンドルの言葉に彼女は深々と頭を下げた。


「……二人の専属侍女と侍従を増やす話が出てましたわよね?」


「ダリヤ達、年だもんね」


 サラディールの言葉に、レオがそう言うと、ジロリとダリヤとグイードに見られた。


「……ごめんなさい」


 気まずげに顔を背けるレオ。


「恐れながら申し上げます。こちらのトワレ男爵令嬢は、その候補でございます」


 侍女長の言葉に、令嬢は思わず顔を上げた。


「そうだな。討伐から今日まで、何処からも双子の秘密は漏れていなかった。彼女の口は固いようだ」


 レンドルが頷くと、令嬢を見た。


「名は?」


「フ、フレイア・ルー・トワレにございます」


「では、フレイア。今よりそなたを双子付きの専属侍女とする。侍女長、そのように手配を!」


「かしこまりました。フレイア、貴女の部屋の荷物の移動は後にします。今はサラディール様の御用が先です!」


 侍女長はそう言い残すと、さっさと退出した。


「え?え?」


 訳も分からず、立ち往生するフレイアに、サラディールが歩み寄った。


「フレイア。明日のお披露目式で、子供達が〖祝福の華〗を渡す役になったの。それで、少し衣装の手直しをしたくて貴女を呼んだのよ」


「…手直し……」


 サラディールの言葉にヘナヘナと座り込む。


「大丈夫?」


「も、申し訳ございません。ワタシ、口止めの為に呼ばれたものだと…」


 レオが近寄り、ヒョイと手を取り、引っ張りあげる。


「口止めも何も、ハッキリ口にしてないだけで、別に隠してるわけじゃないよ?レン兄様、秘密とか言ってるけど、忘れてる人が多いだけでさ」


「そうそう。それに男なのに『聖女』って、説明が面倒でしょ?」


「はあ…、そうですね…」


 双子の言葉に、そう返すしかない。


「そんな事より、子供達の衣装よ!」


 サラディールの言葉に、フレイアは慌てて手直しを確認していくのであったーーーー。


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