第二章 『勇者』は商売です!1

「行ったぞ、レオッ!!エレッ!!」


 森の中、暗黒狼ブラックファングの群れが、追い詰められて一方向に走り始めると、声が上がった。


「りょうかーい♪」


 先頭集団の前に木の上から飛び降りながら、レオと呼ばれた剣士は、愛用の剣に風の魔法の付与を始める。


「いくよ!《時間停止タイムストップ》!!」


 同じく木の上から、修道服に身を包んだ魔法使いが杖を掲げた。


 キーンと音を立てて、魔物達の動きが止まった。


「いっけぇ!《鎌鼬乱舞》!!」


 飛び降りた剣士が同時に剣を振り下ろすと、無数の風の刃が、魔物達を切り裂いていく。


「おー。見事に全滅したなぁ…」


 周囲を取り囲んでいた男達が、構えた剣を納めながら姿を現す。


暗黒狼ブラックファングは食べるとこないし、重要なのはシッポだけだからね。エレが上手く停めてくれたから、範囲より威力重視で飛ばせたもん!」


 同じように剣を納めながら、剣士が木の上を見上げる。


「…っと。いくら停めても、あんなに一瞬で全体に決着けりつけれるのは、レオだけだよ」


 舞うように飛び降りてきて、魔法使いが杖を小さくする。


「さすが『勇者』レオと『聖女』エレだな♪」


「ありがと、オリクス」


 ポンとオリクスが剣士の頭に手を乗せる。


「それにしても、二人ともすっかり殿下の思惑通りに育ちましたね……」


 金髪の男が感嘆の息を漏らした。


「私としては複雑だけどね」


 魔法使いが肩を竦める。


 あれから十年。

 幼かった双子は、十七歳になった。


「いっその事、周りの誤解を利用してしまう事にしよう!」


 レンドルのその発言により、『ノーラ』は『レオ』。『ノール』は『エレ』と呼ばれることになった。

 互いに自分の事を『私』と呼ぶことにし、服装も中性的な物を身につけるようにしていった。

 運が良いのか悪いのか、エレオノールは声変わりをしてもあまり変わらず、故にどちらも性別がはっきりしない感じに育ったのだ。

 レオノーラの声も、少し低めであったために、始めから関わってきた者達以外、二人の性別を正しく知る者は少なかった。


 故に、レオノーラには婿養子の、エレオノールには妻としての求婚者も絶えなかった。

 最も王太子夫妻が後見人である二人に、直接話を取り付けることは出来ず、どれも一刀両断されていた。


「あー。終わった、終わったぁ!レン様からの依頼の〈北の森〉の魔物討伐、終了ーっ!!」


 大きく伸びをするレオノーラ。

 周りに集まった男達は、剣士の姿であるが全員が王太子所属の騎士団の者達であった。


「これで、来月のレン兄様とサラ姉様の戴冠式に間に合うね」


 エレオノールも並んで伸びをする。


「二人とも。戴冠式には君達のお披露目もあるって忘れてないかい?」


 呆れながらも声をかけるグランに、レオノーラはペロッと舌を出し、エレオノールは苦笑した。


「どうせ、このまま性別はハッキリさせないままでしょう?」


「いつもと変わんないよねー」


「お前らの言う通りだな。さあ、皆!さっさと王都に戻るぞ!」


「「「おうっ!!」」」


 こうして、王都への帰路についたのであるーーーー。


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