第一章 『勇者』と『聖女』?6

 王太子宮の自分達の部屋に案内された双子は、余りにも広い部屋に落ち着かなかった。

 紹介された自分達の侍従と侍女にも、どうすればいいのか分からない。

 ピッタリと寄り添う双子に、どうしたものかと二人も悩んでいた。


「何だ。こちらに居たのか」


 軽いノックと共に、レンドルが姿を現し、双子を見た。


「……どうした?部屋は気に入らなかったか?」


「「っ!?」」


 双子の座るソファの前に立ち、レンドルが膝まづいて尋ねると、壁際にいた二人は悲鳴を上げそうになった。

 王族が平民の子供に膝まづいたのだ。

 しかし、レンドルも付いてきた側近も、気にしていない。

 彼らにとって、双子達はもう自分達のなのだ。王族も貴族も平民もなく、接する事に決めていたのだ。


「……部屋は素敵なんだけど…」


 レオノーラがポツリと声を出す。レンドルは急かさずに言葉の続きを待った。


「広くて落ち着かないし、やっぱりノールと一緒がいい…」


「ふむ…。これは広いのか……」


 立ち上がったレンドルは、グルリと部屋を見回した。


「それなら仕方がないな。二人が慣れるまでは同じ部屋で過ごすといい。だが、ずっとではないぞ。いいか?」


 レンドルの言葉に、二人はパアッと明るい顔を見せた。

 それは、王都に着いてから初めて見せた双子の本当の笑顔だった。


「今日はバルがここを案内してくれる。その後、私と食事をしよう。明日からの話もあるからな」


 双子の頭を撫で、ハンニバルを見て頷くと、レンドルは部屋を出ていった。


「さて、双子達。改めて名乗るぞ。私はハンニバル・スーン・ベルセル。ベルセル伯爵家の次男だ。君達の世話係となった。何か分からない事や困った事があれば、私に言いなさい。分かったかな?」


 ハンニバルの言葉に素直に頷く双子。

 ハンニバルはチラリと壁際の侍従と侍女に目を向けた。


 ーーやれやれ。子供の相手に慣れた者をと、伝えていたのにこの二人か。小さな子供の相手には不慣れな様だし。何より新入りじゃないか。


 レンドルの側近の中で、ハンニバルが選ばれたのは、長男の所の甥や姪の相手で子供の相手には慣れている。

 レンドルは親と引き離されたばかりの幼い姉弟を、かなり気にかけているのだ。

 まして子供達は『勇者』と『聖女』になる者なのだから、将来的には王族にも並ぶ立場となる。

 くだらない権力争いに巻き込ませたくも無いという王家の判断でもあった。


 ーー大方、誰かの横槍で選ばれたんだろうが、これは選び直した方が良さそうだ…。


「さあ、探検に行こうか!」


「「っ!!」」


 わざと双子の興味を煽るような言葉で誘い、二人の真ん中に立って手を繋いだ。

 驚きながらもお互いを見、ハンニバルの顔と繋がれた手を何度も見ている。


「「……」」


 照れくさそうに笑う双子に、ハンニバルと残されていた護衛騎士達は、得をしたような気になった。


「ああ、そうだ。そこの二人」


 振り返り、室内でオロオロしている侍従と侍女に声をかける。


「君達は配属先を間違えているようだ。戻って配属先を確認するといい」


 そう言い残して、部屋の扉を閉じると、再び双子を連れて歩き出したのであったーーーー。


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