第一章 『勇者』と『聖女』?5

 謁見の間から出ると、王太子の執務室に招かれた双子達。

 案内人は隊長だ。もはや彼は、双子担当と化している。


「さて、ここでは私の側近しかいないからね。楽にするといいよ。子供に堅苦しいことをさせるのは本意ではないのでね」


 執務室に入ると、テーブルの上には、軽食が用意されていた。

 王太子の反対のソファを勧められ、双子は言われるがままにそこに腰を下ろした。

 フカフカのソファに、埋まりそうになりながらだがーー。


「改めて名乗っておこうか。私は王太子のレンドル・バース・ヒューゲル。『レンお兄さん』と呼んでくれて構わないよ」


 にっこりと笑ってそう言った王太子。

 ヒクリと口の端を引き攣らせたエレオノールとは別に、レオノーラはジーッと軽食を見ていた。


「レンお兄さん!これ、ノーラ達食べてもいいの?」


 にっこり笑ってそう言ったレオノーラに、エレオノールは青ざめた。


「ノ、ノ、ノーラ!!王太子様に何て事言ってんの!!」


 ガチガチ震えて涙目である。


「え?だって、そう呼べって言われたじゃん?」


 何処までもレオノーラはマイペースであった。

 そんな二人をレンドルは面白そうに見ている。

 そして周囲の側近達は、そんな王太子の様子に、息を飲んで見守っていた。


「そうだね。レオノーラが正しい。さあ。君も呼んでごらん、エレオノール!」


 ニコニコ笑うレンドルに対し、エレオノールはもういっぱいいっぱいである。


「…殿下。気に入られたのは分かりますが、あまり無理をさせてはなりません…」


 周囲の側近達は、そんなエレオノールを心配して、ハラハラしていた中、一人の文官がレンドルの背後から声をかけた。


「…そんなに無理か?バル?」


 バルと呼ばれた男は、ハアと溜息をついた。


「見れば分かります。可哀想に真っ青になって震えているではないですか…。時間はこれからいくらでもあるのですから、ゆっくりと慣れさせてあげて下さい…」


 ねえ?と優しく声をかけられ、エレオノールはコクコクと頷いた。


 ーーこの人、ものすごく良い人だっ!!


 これにより、エレオノールは今後、バルーハンニバル・スーン・ベルセルーに一番懐くようになる。


「……食べてもいーい?」


 マイペースなレオノーラの発言に、周囲は笑いに包まれるのであった。


 ※※※※※※※※


「「ごちそうさまでした!」」


 テーブルの上にあった軽食を二人で平らげ、両手を合わせてそう言うと、すぐにテーブルの上の食器が下げられていった。


「さて。食後のお茶でも飲みながら、これからの話をしようか?」


 結局、食事をしながら、レオノーラはそのままで。エレオノールは『レン様』呼びで落ち着いた。


「まずは二人の職業の最終確認として、神殿でそれぞれの装備を確認する」


 レンドルがそう言うと、ハンニバルが後を続けた。


「『勇者』のレオノーラは【聖剣】エメルディアを台座から抜けるか。『聖女』のエレオノールは【聖杖】カトルディンを持ち上げれるか。それが出来たら、それぞれに合わせた修行が始まります」


 双子は互いの顔を見合わせると、レオノーラが手を挙げた。


「何でしょう?」


「それって、ノーラとノールは別々に暮らすってこと?」


 チラリとレンドルの視線が双子の間に向いた。

 そこにはしっかりと互いの手を握りしめ、微かに震える双子の姿があった。


「いーや。二人は私の王太子宮で、隣同士の部屋で暮らすんだよ。私は君達の後見人だからね」


 その言葉に双子がホッと安心するのを、大人達は気づいた。


 いきなり両親から引き離された姉弟を、さらに互いから引き離そうとする貴族達は多かった。

 我こそはと後見人に名乗り出る者は多く、二人いるのだから、一人ずつと当たり前のように語る彼らに、レンドルは不愉快になって自らが姉弟の後見人になると名乗り出たのだ。


 レンドルの言葉に従って良かった。

 側近達は主君の英断を喜び、共に双子を支えていくことを、それぞれの心の中で誓っていたーーーー。



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