第一章 『勇者』と『聖女』?4

「うむ。すまぬがもう一度言ってはくれぬか…」


 無事に王都に辿り着いたものの、国王の前で神官から紹介された双子を見て、国王アーデル・トワイン・ヒューゲルは、目の付け根を押さえながらそう言った。


「では、もう一度。こちらの双子の姉レオノーラが『勇者』。弟のエレオノールが『聖女』…でございます…」


 寄り添いあって、キョトンと自分を見上げる双子に、アーデル王は苦笑した。


「……なるほど、双子のか…」


「…父上。現実を見てください。確かに可愛らしい顔ですが、片方は男です…」


 隣にいた王太子のレンドル・バース・ヒューゲルが、首を振りながらそう言った。


「…うむ。『勇者』と『聖者』だな!」


「…『』だと言われましたよね…」


 現実を認めたくないと悪あがきをする父親に対し、息子は現実は現実として認めるタイプだった。


「それで、他には何か報告することはあるか?」


 未だ現実との噛み合いを求める父親を置き去りに、王太子は神官達を見た。


「姉弟揃って、中位回復が使えるのを確認しております…」


 と、神官が答えると、


「姉は魔法を剣に付与して、暗黒熊の首を一刀のもとに斬り殺しました。弟は詠唱なしの火魔法で、小熊二頭を同時に焼き殺しております……」


 続く隊長の言葉に場が静まり返った。

 周囲には一行の他に、国王と王太子。そして、大臣達がいたのだが、彼らはどう言えばいいのか分からなくなっていた。


「ちなみに弟の方も剣が使えます…」


 更に隊長が付け加えると、大臣達は『何だこいつら?』と、言わんばかりの顔で双子を見た。


「…ところで気になっていたんだが…」


 言葉を発した王太子に全員の視線が集まる。彼の視線はエレオノールに向けられていた。


「彼はどうして、【】を着てるんだい?男の子なんだから、【修道士の服】じゃないのかい?まあ、似合ってはいるけど…」


 言われて周囲の視線が双子に向いた。

 レオノーラは狩人の子供のような姿だったが、エレオノールは【修道女の服】を確かに身につけていた。


「それが、どうも装備品になるようで…。【修道士の服】を渡したところ、着れなかったものですから…」


「着れなかった?」


「はい。…着せようとすると、弾かれます…」


「「「…………」」」


 神官の言葉に周りが黙り込む中、レンドルはプッと吹き出した。


「は、弾かれるのか……。それでその姿か……。ハハ。普通の格好で良かったんじゃないか?」


「っ!」


 神官もよほど堪えていたのだろう。言われて納得したのだから……。

 そして、それを聞いたエレオノールは、ショックを受けていた。


 ーーあ、あんなに笑われてまで、この服を着てきたのに、着なくても良かったんだ……。


 支度のため、城の侍女達にひっそりと笑われながら、【修道女の服】を着せられた自分は何だったのかと、泣きたくなった。


 そして、弟がショックを受けている隣で、


 ーーお腹空いたなあ……。お話まだ終わらないのかな?


 と、姉はのんびりマイペースであったーーーー。


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